消費税率が8%に引き上げられた4月以降、全国で少なくとも80の地方議会が10%への引き上げに反対する意見書を可決した。安倍晋三首相は10%に引き上げる時期を1年半先送りし、2017年4月とする考えを表明。衆院選ではアベノミクスの効果が届きにくい地方の声も焦点となりそうだ。
朝日新聞が地方議会や財務省、総務省などに取材し、「中止」や「慎重な対応」などを求めた意見書を調べた。意見書は安倍首相らにあてたもので、市民団体からの請願や陳情がきっかけになったものが多い。公約で「中止」や「撤回」を掲げている共産党や社民党だけでなく、自民党の足元からも疑問の声が上がる。
目立つのは農村部の議会の動きだ。高知県内や岩手県内では15議会で可決。秋田県内は13議会、長野県内の12議会と続き、北海道や熊本県などにも広がる。
岩手県議会は請願を受け、9月議会で「10%への引き上げ反対」とする意見書案を提出した。10月の総務委員会では否決されたが、2日後の本会議で起立採決の結果、一転して賛成多数で可決。意見書で「東日本大震災の被災地は復興途上で、増税は生活再建の重い足かせ」と指摘した。
高知県内は全34市町村のうち15市町村で可決し、うち10市町村が全会一致だった。県議会では、共産党と旧社会党系の会派が「10%増税の中止」の意見書案を出そうとしたところ、最大会派の自民党から「『一時凍結』に修正する案にならないか」と打診があった。修正はならず否決されたが、自民党高知県連の森田英二政調会長は「先送りの意見書なら自民も乗れた」と打ち明ける。
高知県の1人あたりの県民所得は219万9千円(2011年度)と、全国で最低水準。森田氏は「8%で苦しいという生活者が大半。都市の論理で再引き上げが決まると我々も根こそぎ信頼を失う」と、党本部に主張してきたという。
秋田市議会も「10%引き上げ中止」の意見書を賛成多数で可決。秋田県商工団体連合会が「米の価格も暴落し、県民は消費意欲どころか消費力そのものが無くなっている」と陳情していた。
北海道の函館市議会が6月に賛成多数で可決した意見書では「4月以降、消費税率8%に対応できないと道内四つの町でスーパーが閉店するなど、地域経済に深刻な影響が広がっている」と訴えている。
熊本県内では宇土市議会(9月)と玉東町議会(6月)が増税中止を求める意見書をいずれも全会一致で可決した。宇土市の意見書は、4月の増税で中小企業は価格転嫁が難しいとして「これ以上の増税は、地域の中小企業の倒産や失業者増大など地域経済に壊滅的打撃を与える」とした。
愛知県の扶桑町議会は9月、増税に慎重な対応を求める意見書を全会一致で可決。意見書では「増税のショックは想定以上の厳しさ。アベノミクスの恩恵も町民や地域経済を支える中小企業が肌で感じることはない」としている。(野上英文)
■たばこ離れ加速 農家疲弊「町の経済は冷え切っている」
高知県西南端の大月町。役場から車で10分ほどの山あいの畑に「嫁 後継者 I WANT YOU」の巨大な看板があった。一帯は、山を切り開いた葉タバコ農地だが、雑草で荒れ地になっている畑もあった。
四国たばこ耕作組合によると、大月町内ではピーク時の1983年に121ヘクタールで7億700万円を売り上げたが、昨年は30・8ヘクタールで1億2869万円。農家も72人から11人に激減した。
葉タバコ農家の谷正美町議(55)は「消費税の影響が少なくない」とこぼす。葉タバコは日本たばこ産業(JT)が全量を買い上げるが、97年に消費税が5%になった後、目立って余るようになったという。消費増税後に販売価格が値上がりし、健康志向の高まりもあって、たばこ離れの加速が追い打ちをかけている。
9月の町議会では、消費税10%への引き上げ中止を求める意見書を全会一致で可決した。議会運営委員長だった公明党の長山誠久町議(70)は「3党合意で決まったこと」といさめようとしたが、ほかの4人の委員のうち3人が賛成したため、話をまとめた。電器店を営み、地元の商工会長も務める。「みんな隣の市に買い物に出て、町の経済は冷え切っている」
兼松照章さん(69)は3年前、「未来が見えなくなった」として40年近く続けた葉タバコの生産をやめた。今はイモやブロッコリーを作って道の駅などで売る。自宅作業場に8台残った葉タバコの乾燥機は物置になっている。「増税するなら、議員数の削減を町も国もしっかりやるべきだ。町の基幹産業が衰退して住民もおらんようなったら役場も何もいらんでね」(野上英文)
◇
〈地方議会の意見書〉 公益に関することで意見や意思をまとめた文書。地方自治法99条で定められ、可決すれば、議長名で首相や国会、関係省庁に提出できる。住民から議会への請願や陳情をもとに議員が提案することもある。意見書に法的拘束力はないが、住民の代表である議会の総意として尊重される。
朝日新聞が地方議会や財務省、総務省などに取材し、「中止」や「慎重な対応」などを求めた意見書を調べた。意見書は安倍首相らにあてたもので、市民団体からの請願や陳情がきっかけになったものが多い。公約で「中止」や「撤回」を掲げている共産党や社民党だけでなく、自民党の足元からも疑問の声が上がる。
目立つのは農村部の議会の動きだ。高知県内や岩手県内では15議会で可決。秋田県内は13議会、長野県内の12議会と続き、北海道や熊本県などにも広がる。
岩手県議会は請願を受け、9月議会で「10%への引き上げ反対」とする意見書案を提出した。10月の総務委員会では否決されたが、2日後の本会議で起立採決の結果、一転して賛成多数で可決。意見書で「東日本大震災の被災地は復興途上で、増税は生活再建の重い足かせ」と指摘した。
高知県内は全34市町村のうち15市町村で可決し、うち10市町村が全会一致だった。県議会では、共産党と旧社会党系の会派が「10%増税の中止」の意見書案を出そうとしたところ、最大会派の自民党から「『一時凍結』に修正する案にならないか」と打診があった。修正はならず否決されたが、自民党高知県連の森田英二政調会長は「先送りの意見書なら自民も乗れた」と打ち明ける。
高知県の1人あたりの県民所得は219万9千円(2011年度)と、全国で最低水準。森田氏は「8%で苦しいという生活者が大半。都市の論理で再引き上げが決まると我々も根こそぎ信頼を失う」と、党本部に主張してきたという。
秋田市議会も「10%引き上げ中止」の意見書を賛成多数で可決。秋田県商工団体連合会が「米の価格も暴落し、県民は消費意欲どころか消費力そのものが無くなっている」と陳情していた。
北海道の函館市議会が6月に賛成多数で可決した意見書では「4月以降、消費税率8%に対応できないと道内四つの町でスーパーが閉店するなど、地域経済に深刻な影響が広がっている」と訴えている。
熊本県内では宇土市議会(9月)と玉東町議会(6月)が増税中止を求める意見書をいずれも全会一致で可決した。宇土市の意見書は、4月の増税で中小企業は価格転嫁が難しいとして「これ以上の増税は、地域の中小企業の倒産や失業者増大など地域経済に壊滅的打撃を与える」とした。
愛知県の扶桑町議会は9月、増税に慎重な対応を求める意見書を全会一致で可決。意見書では「増税のショックは想定以上の厳しさ。アベノミクスの恩恵も町民や地域経済を支える中小企業が肌で感じることはない」としている。(野上英文)
■たばこ離れ加速 農家疲弊「町の経済は冷え切っている」
高知県西南端の大月町。役場から車で10分ほどの山あいの畑に「嫁 後継者 I WANT YOU」の巨大な看板があった。一帯は、山を切り開いた葉タバコ農地だが、雑草で荒れ地になっている畑もあった。
四国たばこ耕作組合によると、大月町内ではピーク時の1983年に121ヘクタールで7億700万円を売り上げたが、昨年は30・8ヘクタールで1億2869万円。農家も72人から11人に激減した。
葉タバコ農家の谷正美町議(55)は「消費税の影響が少なくない」とこぼす。葉タバコは日本たばこ産業(JT)が全量を買い上げるが、97年に消費税が5%になった後、目立って余るようになったという。消費増税後に販売価格が値上がりし、健康志向の高まりもあって、たばこ離れの加速が追い打ちをかけている。
9月の町議会では、消費税10%への引き上げ中止を求める意見書を全会一致で可決した。議会運営委員長だった公明党の長山誠久町議(70)は「3党合意で決まったこと」といさめようとしたが、ほかの4人の委員のうち3人が賛成したため、話をまとめた。電器店を営み、地元の商工会長も務める。「みんな隣の市に買い物に出て、町の経済は冷え切っている」
兼松照章さん(69)は3年前、「未来が見えなくなった」として40年近く続けた葉タバコの生産をやめた。今はイモやブロッコリーを作って道の駅などで売る。自宅作業場に8台残った葉タバコの乾燥機は物置になっている。「増税するなら、議員数の削減を町も国もしっかりやるべきだ。町の基幹産業が衰退して住民もおらんようなったら役場も何もいらんでね」(野上英文)
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〈地方議会の意見書〉 公益に関することで意見や意思をまとめた文書。地方自治法99条で定められ、可決すれば、議長名で首相や国会、関係省庁に提出できる。住民から議会への請願や陳情をもとに議員が提案することもある。意見書に法的拘束力はないが、住民の代表である議会の総意として尊重される。