○「空へ…」は、大宮さんメインだけど、嵐の5人に出演していただいた、絆がテーマのストーリーです。

ものすごーく長いけど、だんだんおもしろくなってくると思います(←The 自己満!)

○他のお話は、嵐さん(大宮メイン)の日常や、ドラマのワンシーンをイメージしたものです。

ちょっと 腐 が入ってますけど、ソフトタッチしか書けませーん((;^_^A。


よろしかったら、お入りください♡


  • 28 Jun
    • 空と 海と 君と 13

          《 翔  智  和也  …出会い 》     幾度となく送った眠れぬ夜。3年間の準備期間を費やして、ようやく迎えた、『櫻井文具文化芸術部販売促進課、画廊 『 Gallery Sakura 』 のオープン当日。     ホールは溢れんばかりのゲストで埋めつくされ、併せて開いた智たちの合同展も好評で、翔の元にはすでに数件の問い合わせが来ていた。     いつかの雑誌記者も、興奮気味に智の絵を記者仲間に紹介していた。  「俺が最初に発見したんだ!」と豪語しながら。                              敢えて招待した辛口の批評家や老舗美術雑誌の編集者、もちろん澤木龍公とその仲間たちからも上々の評価を得て、翔の鼓動はようやく通常の速度に戻っていた。     強張っていたスーツの肩を少しだけ下げて、バーカウンターからミントの浮いたペリエのグラスを取りカラカラの喉に流し込む。 炭酸の刺激が心地よく胃の腑に沁みる。     フゥッと、人心地ついたところで、ふと、辺りを見回す。   (智は…、どこだ?)   そういえば、少し前から姿が見えない。カウンターに空のグラスを戻し、あの猫背を探す。   着慣れないスーツ姿で朝から翔に引きずり回されて、無理矢理の笑顔で初対面の人間に愛想を振りまいて...。 かなり参った 様子ではあったが。   (まさか、どこかに雲隠れとか...)   あり得なくは無い想像に、智どころではない引き攣った笑顔でホールを横切る。   (…っあ、いた…)   ようやく探し出した智は、会場の最奥に置かれたソファーにぐったりと座り、背もたれに後頭部を乗せて目を閉じ、すっかり気配を消していた。   「ここにいたんだ…」   翔の声に、   「…なぁ、もう裏に行ってもいいだろ? 疲れた。早くこれを外したい」     と、うんざりとした表情でネクタイの緩んだ結び目を指で摘み上げた。薄く開いた目の中を瞳が流れ、上目使いに翔を捉える。   「………智」   せっかく治まっていた心臓が、違う鼓動を打ち始める。 その無自覚な誘惑に、手を伸ばしてしまいそうになる。   「…全く、智のためのパーティーでもあるんだぞ? ホストとしてお偉い文化人の方々に、笑顔の一つでも見せてもいいんじゃないのか?もしかしたらその気配り一つで、絵の評価がグンと上がるかもしれないってのに」   理性を総動員し、わざと冷淡な声を出す。   「えー、いいよ、そんなの…」   お前はよくてもこっちは困るんだ、と喉まで出掛かったが、翔はその言葉を飲み込んだ。本当に参っているらしい。肩を落としソファに沈み込んだその姿は、二回りほども小さくなったように見える。元来智はこういう華やかな場が苦手なのだ。   「…わかった、もういいよ。一通り、挨拶も済んだし。裏に行って休めよ」 「ほんと?」   溜息混じりに言えば、さっと顔を上げて数秒前とは打って変わった明るい表情になる。   (俺は、智のこの笑顔に弱い。邪気のない真っ直ぐな笑顔。全てを許してしまいたくなる)   以前澤木に指摘された通り、つくづく甘いな、とは思う。 だが長年の付き合いの中で、それはもう翔の中にプログラミングされてしまっている。   「じゃ、お先♪」   さっと身軽に立ちあがった智が、ふと足を止めた。展示ブースに目を向けている。   「どうかした?」 「う…ん、あれ、誰?」   視線の先を辿ると、ホールの中央で談笑している松本がいた。   「分からない? 松本潤だよ、中学で一緒だった。今、医者をやってる」     「分かるよ。あんな濃い顔、滅多にいないし。違うよ、その隣」   招待状は松本夫妻宛に送った。妻の美紗は大学の後輩でもあり、翔もよく知っている。 だが、松本の隣にいるのは若い男だった。     そういえば、美紗の体調が悪いので従弟を同伴するとメールがあったのを思い出す。   「……ああ、彼の、パートナーだよ」   「パートナー?」   …松本って、ゲイだから。   智の耳元に唇を寄せて、こっそりと囁く。   「へ? ふーん、そう…か」   咄嗟に翔の口から出たのは偽りの言葉だった。   それでも智はジッと視線を外さない。     翔の知る限り、智が初対面の相手にこれほどの興味を示すのは初めてだった。いつもの穏やかな目の奥に、何かが光っている。表情も心なしかキツクなっている気がする。   「どうかした?」 「え?ううん、なんか、ね…」   ふふ、と、智の口の端がわずかに上がった。   「ちょっと、近くで見たい…、かな……」   やけに男っぽいその顔に、なぜ自分が嘘をついたのか翔は瞬時に理解した。 今にも動き出しそうな体をグイと引き止める。   「あ、あっちから来る人、ゲイで有名な編集者だ。智のこと、好きだって言ってたぞ。めんどくさいから早く隠れろ」   と、智の視線を逸らせる。   「え? マジで?」   智はハッと我に返り、翔に押されるまま慌ててスタッフルームへのドアを開けた。   智の背中を見送りドアを閉めると、翔はクルリと爪先の向きを変えホール中央に向かってまっすぐに歩き出した。               続く。    ポチッと押してね♡

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      233
      テーマ:
  • 25 Jun
    • 空と 海と 君と 12

               アナウンスが聞こえる。うっすらと開けた目に光が差し込む。機体はすでに停止しており、現実的な騒めきが周りに渦巻いている。   翔はもう一度、ぎゅっと瞼を閉じてからパッと大きく見開いた。心地良い過去に浸る時間は終わりだ。翔は心中の憂いを何とか抑えつけ、いつもの冷静な顔に戻して立ち上がった。        賑わう到着ロビーを真っ直ぐに横切り、外に出でタクシーを拾う。     今回の目的は、ある若手男性デザイナーに会うことだった。 香港では結構人気があるらしいが、日本ではまだ全く無名の彼の服は、必ず日本の若者に受け入れられるブランドになると翔は確信していた。       彼のデザインした服は、近いうちに日本のアパレル会社が売り出すだろう。櫻井文具はそれより前に彼と契約を結び、雑貨のデザインと販売の権利を獲得しておく。 そして、彼のデザインした服が日本の雑誌で紹介され注目を集める頃に、櫻井文具が展開しているファッション雑貨ブランド 『Cherry』 とのコラボ商品を売り出す計画だ。 高価な服には手が出なくても、雑貨なら気軽に女子高生等の手に入る。勿論、彼の服を日本の雑誌に掲載する手はずも整えておいた。    事前の営業会議で、そこまでするのなら自分たちで服も販売すれば良いのではないか、との案も出たが、翔は勝算のない勝負はしない。自分たちは自分たちのフィールドで戦えば良いのだ。 翔の頭の中はあっという間に今後の戦略で埋め尽くされ、澄みきった異国の青空を見上げる事などただの一度も無かった。     その夜、翔は宿泊先のホテルの最上階のバーにいた。好きな銘柄のウイスキーをオーダーして今日一日を振り返る。 商談は順調に終了した。後は、相手側の弁護士とこちらの現地代理人に委ねておけば全てうまくいくはずだ。 売り出し前の野心家の若いデザイナーは、アジアのファッションの中心であるTOKYOの有名ファッション誌で紹介されるという事が、とにかく魅力だったらしくそれほど高額ではない金額でこちらの条件通りに契約を結んだ。最後に付け加えた最重要事項の、 『雑誌掲載にかかる全ての経費は契約料とは別に櫻井文具が負担し責任を持ってバックアップする。その条件として、雑貨販売に至るまで櫻井文具の社名は一切出してはならない』 との誓約書にも躊躇なくサインをした。当然、日本の雑誌社ともその誓約は交わしておいた。もし事前に契約のことが外部に漏れたら、先物取引き紛いの事ではないかと世間にマイナスイメージを与え兼ねないと危惧しての事だ。用心に越したことはない。   磨き抜かれた分厚い一枚板のカウンターで頬杖をつく。一仕事やり終えた達成感で充実した気分のはずだが、ふと、心に風が過ぎる。     手の平で包むロックグラスは、あの浅草の店とは比べ物にならないほど上質なものだ。なのに、もう一度金色に輝いていた分厚い古いガラスに触れたいと思うのはなぜだろう。     氷が解けてカラリと澄んだ音を立てる。どんなに硬く冷たい氷もこの琥珀色の液体には敵わない。優しく包まれると全てが融けてしまう。   今夜の自分は融けてしまっている。 纏っていた鎧も、携えていた武器も全て振り落として。   それは、心地良い夢に浸り過ぎていたせいだ、と自己分析をする。   そして、一口含んだ飲み慣れたはず酒が、思いのほか苦かったのは、その夢の続きが決して甘いだけではないことを知っているからだろう。   (俺は、ずっと走ってきた。会社のため、自分のため、…智のために。 そう、あの才能を世間に知らしめるためにだ。そして、大切に種を蒔き、育み、膨らませた蕾がやっと綻びかけた輝ける日に、智は出会った…)       智の心を捉えて離さない、彼に。                     続く。    ポチッと押してね♡  

      235
      テーマ:
  • 24 Jun
    • 空と 海と 君と 11

              それから2ヶ月後の9月、いよいよ試験勉強の追い込みの最中、智がまたふらりと部屋を訪ねて来た。   「はい、これ」   ソファに座り、横に置いたトートバッグから無造作に取り出した四角いモノ。   「翔にやる」 「…え?」   コーヒーのカップを置き、立ったまま受け取る。 その硬い手触りと厚みで、多分、絵ではないかと思う。   「俺に?」 「うん、こないだ完成した」   青いマグを手に、ズズとコーヒーを啜りながら、智が頷く。   「見て…、いいの?」 「だから、翔のだって」   ふふ…、と嬉しそうな笑顔を見下ろしつつ、よくわからないまま8号ほどの大きさのキャンバスを、そっと布袋から取り出す。   「…………」   瞬間、翔は言葉を失くしてしまった。   これは…   何にも縛られることなく、心のままに描かれた絵。   目標と出来る最高の師を得て、たくさんの優れた感性の中に身を置き、内から外からの沢山の刺激を柔軟な心で受け止めて…。   これほどまでに、智は成長していたのか。   知らずに手が震えていた。     「智、凄いよ…」   「シリーズで描いた、最初の一枚」 「シリーズ? 季節? 四季を描いたのか?」 「よくわかったね。それ、夏」     目を丸くして見上げている。   分からないはずがない。 描かれていたのは、忘れることの出来ない青い空、あの日、二人で見上げた最後の夏空と二羽のカモメ。     あの海鳥は、やはり智そのものだったのだ。 しなやかな翼を広げ、上へ上へと昇っていく。   その翼を追いかけて、必死に羽ばたいて、でも追いつけなくて。 それでも追わずにいられない、もう一つの翼。   …でも同じ空にいる。     「ありがとう。最高のプレゼントだ」     そっと目を閉じる。     堪えきれない雫が一筋、翔の頬を滑り落ちた。   「…え? なに? 泣いてるの? そんな嬉しかった?」   戸惑ったような智の声。   「人生最良の日だよ…」   「ふふ、大げさだよ」     いや、ほんとだよ。             『夏空』 『晩秋』 『冬風』 『春雨』   翔は『四季』と名付けられたこの4枚の絵を、コンクールに出品すべきだと思った。   自然の風景を切り取った4作品はどれも素晴らしく、観る者の心を奪う。 今ほど、あの高校で絵の鑑賞力を身につけておいて良かったと思ったことはない。                             誰に問われたとしても、この作品の素晴らしさを自信を持って解説出来るだろう。 早く、早くそんな晴れやかな場所にこの絵たちを連れて行きたいと、心から望んだのだ。   「好きにしていいよ」   智は、あっさりと承諾した。 新しいキャンバスに向かって、翔に横顔を見せたまま。     もう、次へと進んでいるらしい。   昔から変わらない整ったプロフィール、でも、何処かが違う。 背中が変わったように、腕が少しだけたくましくなったように、 その横顔も強く、男らしくなっていた。     智は、上を、上を行く…       6年振りに応募したコンクールは、高2の時の東京都主催の絵画展とは比べ物にならないほどの、全国規模の権威あるものだった。   そして明けて2月、澤木の誕生日の前日、特選に選ばれたとの報告があった。   歴代受賞者の中で最年少で、その上芸大中退という経歴の持ち主が受賞したということで、智は一躍業界から注目を浴びた。その上、端麗なその容姿も話題となり、あっという間にマスコミに追いまわされることになってしまった。   煩わしいことが嫌いな智は、顔写真やプロフィールを公開したがらず、取材などもってのほかで授賞式さえも代理の者を出席させた。   それでもしつこい輩はいるもので、どこでどう入手したのか智の実家の周辺をうろつく怪しい者が出始め、智は家に帰れなくなってしまった。   翔は、智がそういう一過性のアイドル扱いされる事は賢明ではないと判断し、しばらく伊豆のコテージに移ることを薦めた。 そして、父親に頼み、形式的ではあるが櫻井文具の専属デザイナーとして智と雇用形態を結び、敏腕ベテラン女性社員をその管理者とした。     世話好きなバツイチ女性社員は頻繁に伊豆と東京を往復し、姉となり母親となり得体のしれない人物の接触から智を完璧に守った。   ある時伊豆の智を訪ね、窮屈な思いをさせて申し訳ないと謝れば、   「毎日、海見れて楽しいし」   と、普通に笑った。   「……そうか、よかった」 「翔の言うコトに、間違いないからね」   「…もちろんさ」   さり気ないその一言が、なぜか不意に翔の胸を刺した。 この痛みは何なのか、理由を突き止めることが怖くて、翔にしては珍しく疑問を放置した。全ては智のためなのだと、そこから目を背けたのだ。           4月、翔は前年までにチャレンジした資格試験に全て合格して大学も無事卒業し、3日後の『株式会社 櫻井文具』の入社式前のわずかな休暇を、伊豆のコテージで久々、寛いだ気分で過ごしていた。   「春の海もいいな」   いつものテラスから穏やかな海を眺めながら呟けば、   「うん、春っぽい。波音も、なんか柔らかい気がする」   テーブルの向こうにはもちろん、智がいた。                             ざわついていた周辺もようやく落ち着きを取り戻し、女性社員の管理の手も緩められ、   「いつでも東京に戻って大丈夫ですから」と言われていたのだが、結局伊豆を離れずにいたのだ。   すっかり智のアトリエと化したコテージに翔以外の者が訪れることはない。まるで聖地であるかのようなこの場所を翔は大切にしていた。当然、時折父親から言い渡される返還要求にも応じる気は全く無かった。    穏やかな顔で暮れゆく海を見つめている翔に、   「おれ、しばらく南に行くよ」   前を向いたまま、智がぽつりと呟いた。   「南?」 「うん、バリ島に龍ちゃんの別荘兼アトリエがあるんだ。やっぱ海のすぐそばなんだけど、ここみたいに穏やかなだけじゃないんだって」 「うん…」 「荒々しい海とか真っ白い砂。生命力に溢れた濃い緑や原色の花とか、まだ絶対見たことない色があると思う。それをこの目に見せてやりたいなって思って」     前を向いたその目は、すでにここではない南の島に向けられているようだ。   「どれくらい?」 「…分かんない。1ヶ月かもしんないし、1年かもしんない。龍ちゃんは、どんだけいても構わないって言ってくれてるけど」 「…そうか」   翔は微笑んで俯いた。さり気なく探った左のポケットには、二日前に受け取った澤木龍公からの長い手紙が入っていた。何度も読み返したので文面はほとんど覚えている。   「あ、夕日と海がつながった!」     「ほんとだ…」   海に目を置く振りをして、オレンジに染まる横顔を見つめる。     (いいよ、智。君は自由だ。誰に言われなくても、澤木先生に言われなくても、俺が一番智のことを分かっている)     手の平が、知らずに封筒を握りしめていた。         『 櫻井翔 様  いつぞやは楽しかった。また、お付き合い願えたらと思う。といっても、君は、心底楽しんでいたようには見えなかったが…。 無理もない。僕という人間を目の前にして、自然に振る舞えというのが無理な事だ。特に、君のように、芸術に関する仕事に携わっている人間にそれを強いるのは酷というものだ。 長年の経験で、それは充分に理解している。例え、本人が望まなくともだ。それが当の本人にどんな孤独を与えているかも知れぬのに。    だが、智君は違った。出逢った瞬間からあの柔らかい笑顔で僕を包み込んでくれた。僕が誰かを知っても、なんの衒いも屈託もなく素直に向き合ってくれた。孤独な男を救ってくれたのだ。   初めて彼を知ったのは、大学の近くの公園だった。その頃、僕は自分に限界を感じていた。芸術家を目指す若者たちの前で教鞭を振るいながら、果たして僕にそんな資格があるのだろうかと。こんな迷いだらけの老人の戯言は、若い才能に悪影響を及ぼすだけではないのかと。 何もかもに行き詰り、廃人のようにベンチに座る僕を、智君が少し離れた場所から、無人の遊具に座って見ていたんだ。視線に気づき、ちらりと横目で見上げた時に、どうやら彼は僕を描いているらしいというのが分かった。いつも描く側で描かれる経験など全く無かったから、妙に緊張したよ。それまで足元に付きまとっていた鳩たちも僕の緊張が伝わったのか、いつの間にか逃げていった。   智君は、夏の灼けるような強い日差しの中で、ずっと鉛筆を走らせていた。僕は木陰にいたから平気だったが、日向にいる彼は、このままだと熱中症にでもなってしまうのではないかと心配になった。40分ほど経った頃、そろそろやめさせようと決めた時、智君はスケッチブックを置いてその場を離れた。僕の緊張も限界だった。ふうっと大きく息を吐いて、肩の凝りをほぐした。そして、好奇心を押さえ切れなくて、ベンチを立って遊具に置かれたスケッチブックを手に取った。   衝撃だった。そこに描かれていたのは、枯木のような一人の老人だった。歳を重ね、生気を失くし、あとは、くずれおちるだけのただの老木。若い目には、やはり僕はこんな風に映っているのかと、情けなくなったよ。と同時に、猛烈に腹が立ったんだ。なにくそ、僕はまだまだ、お前らなんかには負けないぞって。 瞬間、昔を思い出した。 がむしゃらに描いていた日々。誰の機嫌を伺うでもなく、何のためでもなく、ただ、自分のためだけに描いていた。僕の体内を何かが駆け巡った。枯木の中に少しだけ残っていたらしい生木の部分が頭をもたげた。   戻ってきた智君は僕が誰であるかに気づき、大いに慌てていた。謝りながらスケッチブックを取り返そうとする手を押さえ、お詫びにコーラでも買ってきてくれと、人質のようにスケッチブックを抱えて木陰のベンチに戻った。そして、色んな話をした。聞けば、学校を辞めたいと言う。描く事に迷いを抱いていると。     簡単な線画でこんなにも人の心を打つことができるのに、何てもったいない事だと単純に思ったよ。これは僕が一肌脱ぐしかないと。 思い切って彼をインドに誘った。なぜインドだったのかは今もわからない。単純に僕も現実逃避をしたかったのかもしれないし、もしかしたら昼食に食べたカレーが頭にあったのかもしれないな。   後の事は、多分君も知っていると思う。いつか酔った彼が僕に礼を言った。(おれを救ってくれたのは龍ちゃんだ)と。本当は逆なんだとは、僕は言わなかった。彼が図に乗るといけないからね。   そこで、礼というわけではないが、今度、彼を僕のアトリエに連れていく事にした。彼の絵は優しく、慈愛に満ちている。どんなに哀れな老木を描いても、そこには愛が満ちている。それは、彼がそんな温かい愛ある環境の中で成長してきたからこそだと思うが(それは君にも大いに心当たりがあるね?)、今一つ、力強さ、胸に訴えかけるような何かに欠けていると思う。それが加味されれば、彼は、もっと大きくなる。 誰も知る者のない、異国の地でたった一人で過ごす。彼の事だからすぐに溶け込んで、まるでその地の住人であるかのように暮らし始めることだろう。だが、まだまだ未開発な地での生活で、生きるという事はいかに大儀であるかを彼は身を持って知ることになる。キツイ日もある。泣きたくなる日もある。だが、そんな難儀な日々も、溢れるほどの自然の前ではほんの細事であると思い知らされるはずだ。その経験は必ずや彼の絵を進化させると確信している。   翔君、彼の共通の友人として協力を願いたい。彼の成長を一緒にゆっくりと見守ってくれないか。彼はそれに値する才能を持っている。僕が言うから間違いない。ただの老木ではない、背負っている肩書きの重みを十分に理解している大御所としての意見だ。でも、彼はこんなおっさんの言うことよりも、君の言葉を信じるだろう。誰よりも、自分を理解してくれているのは翔君だと彼は分かっている。どうか、君の言葉で彼を奮い立たせて欲しい(勿論、そんな素振りなど彼は見せないだろうとは思うが…)。   準備が整えばすぐにでも現地に向かうつもりだ。彼の成長を僕の老後の楽しみとしたいんだ。よろしく頼むよ。   追伸として、立花文具オリジナルの絵筆は絶品だ。今後、長く使わせてもらう事にした。 折りを見て我が工房まで画材一式を届けてもらえないだろうか。その時こそ、ゆっくりと飲み明かそうではないか。大事な友人を肴にでもして。では、その日を楽しみに。                                     澤木龍公  』         「…いいさ、智がそうしたいんなら、智の自由でいいと思う。ただ…」   暫くの沈黙の後、翔はさっと顔を上げ、体を前に乗り出した。     「約束だ。必ず、成果を見せてくれ」 「…成果?」   智が戸惑った表情を見せる。   「そうだ。俺は、3日後、櫻井文具に正式に入社する。新入社員として一から現場で学ぶ。そして、必ず進化するであろう、智の才能を本格的に世に送り出す準備を整える」 「翔・・・」   尚も視線を強くする。   「だから、智は、俺の目に叶うものを生み出さなければならない」   気迫に満ちた顔で迫る翔に、智は逆に身を引いた。   「どうしたの? 翔、何か、いつもと違う」   今まで智には見せた事のない、ビジネス仕様の鋭い目で翔は続ける。   「これまで櫻井文具は、智にかなりの投資をしている。勿論、これからもそのつもりだ。有望なビジネスに対する投資だから、負担に感じる事はない。でも、智にも解るだろ? 投資に対する利益は、必ずその値以上のものを回収しなければならないんだ」 「カイシュウ?」 「そうだ。智は、櫻井文具に利益をもたらさねばならない義務がある。もちろん、澤木先生にも、優れた作品を描き、ご恩返しという名の利益を回収してもらわねばならない。分かるな?」 「う…ん、まぁ、大体…」   翔は、体を起こした。椅子に深く座り直し腕を組む。智は、眉間にシワを寄せ、しばらく考えていたが、ふと、眉目が開いた。ふわりといつもの笑顔になる。   「ようするに、いい絵を描けって事でしょ? もぉ、難しく言わないでよ。そんなこと当然じゃん」   翔は当分見ることが出来ないであろう、その笑顔と声を胸に刻みつける。   「それで、みんなが満足するんなら、単純な事じゃん。おれは、描く事が好きだし、描くことしか出来ない。ただ、描いてればいいって事なら逆に嬉しい。それで、翔も龍ちゃんも喜んでくれるんだろ?」     と、下から見上げてくる。翔は腕を解き、椅子の肘掛をギュッと掴んで、溢れそうな思いを何とか堪える。   「…ああ、そうさ。単純な事さ」   吸い込まれそうな茶色い瞳から目を剥がし、今まさに沈もうとしている夕日に向ける。   (そう、何より智が楽しければそれだけでいい)   翔は、水平線に消えようとするあの巨大な太陽が、この二人だけの聖地で見る最後の夕日になるだろうという予感がした。 希望に満ち、明るい智の表情とは対照的な自分の胸中を、智が気付いてしまわぬようにと、頬杖をついて我が目を隠すことしか出来なかった。                 続く。    ポチッと押してね♡

      260
      テーマ:
  • 21 Jun
    • 空と 海と 君と 10

            その3ヶ月後、7月のある日曜日、翔は久しぶりの休日を3ヶ月後に迫った公認会計士の試験のための勉強に費やしていた。   「ふぅ...」   一段落したところで、ペンを置く。 途端に目や肩に重い疲れを感じる。     時計はすでに昼の2時を回っており、空腹感までもが襲ってきた。 そういえば、10時頃にクロワッサン1個とコーヒーを口にしただけだ。   (何か、あったっけ…)   ピンポーン…   今にも鳴き出しそうな腹を摩りながら冷蔵庫のドアに手をかけた時、インタフォンが来客を教える。   『おれー、開けてー』   覗きこんだ小さなフレームの中に笑顔の智がいた。   「おー、どーぞ」   つい、顔が綻んでしまう。 電話やラインで近況を伝え合ってはいたが、会うのはあの春の浅草の夜以来だ。   「お邪魔しまーす」   ドアを開け、瞬間、翔は目を見張った。 3ヶ月ぶりに会う智は、初めて見る様な生き生きとした表情をしていた。   「はい、土産」 「っ、ああ、サンキュ。ケーキ?」 「そう、シフォンケーキ。翔、好きでしょ?」   硬直した腕に四角い箱を押し付けて、智はスタスタとリビングに入っていく。その後ろ姿までもがどこか違う気がした。       皿とフォークを渡してケーキを任せ、キッチンでコーヒーを淹れながらリビングの様子を窺う。智はクッションに正座をして、口を尖らせて真剣な顔でケーキを皿に移している。   翔の口角が上がる。 集中するとつい口が尖ってしまうのは、智の昔からのクセだ。   「丁度、腹減ってたんだー」   テーブルの角を挟んで座り、智用の青いマグカップを置いて、シフォンケーキの載った皿を手前に引く。 きめ細かなスポンジが、触れなくてもフワフワであることを教える。       「美味そう! 前言ってたバイト先の近くの店?」 「うん、龍ちゃんお勧めの」   去年大学を辞めてから、智は澤木の紹介で澤木のアトリエの近くの画材店でアルバイトをしながら、時々​​​澤木のアシスタント的なことをやっていた。   「先生は、お元気?」 「うん。こないだ、信州の方の別荘に一緒に行って、白樺とか描いてきた」   少し前は、福岡だった。   「アチコチに、アトリエ持ってらっしゃるんだね」 「お金、使うこと無いって言ってた。独身だしね」   「…そうだったね」   澤木龍公はゲイだという噂がある。 確かにこの前同席した際に、その匂いは感じた。   (多分、間違いない)   翔は、所謂バイだ。 同類は自然と嗅ぎ分けられるものだ。   美味そうにケーキを頬張る横顔をチラリと見る。 智は澤木のセクシャリティを知らないのだろう。 知っているなら、一緒にいたりはしないはずだ。   視線に気付いて智が、何?と首を傾げる。   「めっちゃ美味いな、これ」 「だろ? こっちのチョコ味も食ってみて」 「おぅ、サンキュー」     智のケーキをフォークで突ついて、お返しにと自分のも差し出す。   中学生の頃から互いの食べ物などを交換し合ってきた。 例えば、歯形のついたハンバーガーでも、何の抵抗もなく。   翔が自分のセクシャリティに気付いたのは、その頃だ。 きっかけは、もちろん智で。   何気ない食べ物のやり取りが急に自分の中で意味を持ってしまった。最初はそんな自分に戸惑ったが何とか想いをやり過ごし、気付かれることなく普通に振る舞えるようになった。   それから10年ほど、付き合った相手は結構多い方だと思う。その時々で性別も違っていたが全てキレイに過去にしてきた。   過去に出来ないのは智への想いだけだ。 もっとも、始まりもしないのに過去に出来るはずもないのだが。   伝えれば、伝われば、きっと智は自分から離れていく。 それが怖くて、何も出来ない自分がいる…。     「…で? この頃、どうなの?」   すっかり慣れっこになった仮面をかぶり、智の指先に視線を落とす。   「うん、それなりにやってる。翔は、相変わらず忙しそうだね」   昔から変わらないキレイな指がテーブルの上のテキストをパラパラと捲り、 むずかしそ…と、首を振ってパタンと閉じた。   「それが性に合ってんだよ。時間があっても、何していいかわかんねぇもん」 「彼女とかいないの?」 「…彼女ね。取り敢えず、今はいいかな」 「そっか」 「そっちこそ、どうなんだよ」 「おれも今はいい。龍ちゃんたちといる方が楽しいし」   それは、本音のようだった。 そういえば、智に恋人というものが、今までにいたことがあったのだろうか。 ”今は”ということは、過去にはいたということだが。   不思議と二人の間でその類の話をしたことはない。 自分がその話題を避けていることを、智も薄々気付いていたのかもしれない。   きっと、智にお似合いの可愛い女性だったのだろうなと、翔は小さく笑って2つめのケーキにフォークを刺した。     翔の知らない智の世界。   チリリと胸が痛むが…   いや、今のままでいい。これ以上、踏み込んではいけない。 さすがにこの年齢になれば、自分がいくら想っていてもどうにもならないということに気付いていた。 もし、踏み込んだとして、もし万が一、智が翔をそういう対象に見てくれたとしても、逆に翔がそれに応えるワケにはいかないということも。   智が触れたテキストを手に取る。   自分の後ろには守らねばならないものがある。 受け継いで、育て、やがては自分の血を引くものに譲り渡す。 幼い頃から定められており、また、自らも望んで歩いてきた道だ。 そのための、日々重ねなければならない努力なら、望むところだ。   終わらせるわけにはいかない。 終わらせる気など、毛頭ない。   そんな自分が、智に何を言えよう。   心の揺れを悟られぬよう、大口でケーキにかぶり付く。   「うん、まじ、うまい」 「おれのも食う?」   至近距離から顔を覗きこまれ、咽そうになる。 別に、がっついているわけじゃないと、膨らんだ頬で首を振る。   「相変わらず先生のアトリエに入り浸ってんだ」   咥内のケーキをゴクリとコーヒーで流して、近すぎる距離からさり気なく体を引く。   「うん、全然飽きない。龍ちゃんって、普段はあんなだけど、キャンバスに向かったらまるで別人。もうね、何時間も描き続けるの。きっと、どっかにオンのスイッチがあるんだろな」 「ふふ、ヒトゴトみたいに。自分だってそうじゃん」 「あ、やっぱそう思う? そうなんだ、なんか、他人のような気がしないんだよね」   『澤木龍公』と智は同じ種類の人間だと翔は思う。 謙虚で出しゃばらず穏やかで主張も無く、すぐに流されてしまいそうに見えるのに、決してぶれない芯の強さを持っている。 普段は結構いい加減なところがあるのに、作品に向かう姿勢はストイックで、決して妥協を許さない。   「なんか、父ちゃんみたいでさ」 「智のお父さんは、いかつい下町の職人さんじゃん。先生とは全く違うよ」 「そっか。んじゃ、大好きな親戚の叔父さんってとこか」 「ま、どっちでもいいけど。智が楽しけりゃそれでいいわ」 「ふふ、ありがと」   カップを手に智が微笑う。       午後の陽射しが柔らかくその笑顔を包む。 思わず涙ぐみそうになった自分に驚き、翔は慌てて目を伏せた。   「で、智は描いてんの?」   …ダメだ。今日はなぜか感情が溢れてしまう。   「うん、いくつか。仕上がったら翔にも見せるよ」 「もちろんだよ。我が櫻井文具は智の才能に期待してんだからな。ガンガン描いてもらわないと!」   強いて声を張り上げる。   「んふ、ガンガン…はムリだけど、今ね、色んなの、描きたい気分。こんな感覚、初めてじゃないかな」 「ほぉ、珍しくヤル気だね」 「なんか、目の前がパッと開けた感じ?」   へへ…、と照れたように首を傾げる。 その笑顔を見せてくれるのなら、それでいい。   それだけでいい。   「コーヒー、お代わり、飲むだろ?」 「うん、もらう。あれ? あっ、しまった!ケーキ、生クリーム付いてたんだ!」   箱から取り出したフタ付のカップには、すっかり萎んで液状になったホイップクリームが入っていた。   「ぅおい!もう、ドロドロじゃん!」 「ははは、大丈夫だよ。食べれるって。あ、コーヒーに入れれば、ウィンナコーヒーになる♪」   笑いながら指に付いたクリームをペロリと舐める。 翔は、そんな智からギクシャクと目を逸らし、カップを手に立ち上がった。   これ以上、想っていてはいけない。 早く、早く区切りを付けなければと、唇を噛んで。             才能豊かで、それでいて驕ることなく子供のように素直な智は、澤木や木下はもちろん彼らの個性ある仲間たちからも可愛がられていた。 澤木のアトリエで様々な手法を学んだり、あの浅草の店で文学論を戦わす木下ら作家仲間に混じって、適当な相槌を打ってみたり…。   「それでさ、こないだ、面白いことがあったんだ。聞いてよ」   彼らと過ごす日常を、尽きることなく語る。 翔は、そんな珍しく饒舌な智を複雑な思いで見ていた。   それにしても、この目の輝きは何だ? 今までとは、全く違う。   あ…   ふと、合点がゆく。 智は、大学では得ることの出来ない多くの貴重な経験を、柔軟な中(うち)にどんどん取り込んでいる真っ最中なのだ。 大学を辞めた理由が、今、はっきりと分かった。 伸ばそうとする自分の手足を束縛する邪魔な枷を、とにかく早く外したかったのに違いない。   自由な両手を大きく広げて、身振り手振りで澤木のアトリエでの様子を語る。   「でさ、龍ちゃんたら、おれの絵を気に入ったからって自分のアトリエに飾ったの。そしたら取材に来た雑誌記者に危うく雑誌に載せられそうになったんだって。澤木画伯の筆のタッチに変化が見られたってことで」 「それ、ヤバイでしょ」 「うん、寸前でそれが分かって、自分の絵じゃないからって大慌てだったって」 「先生も相変わらずだな…」 「ははは…、ホント、相変わらず」   笑うと智の声のトーンは少しだけ高くなる。 せめて、この心地よい声音を存分にこの耳に聞かせてやることくらいは許されるだろう。     翔はそのエピソードをすでに知っていた。 その美術雑誌に掲載する広告の件で訪れた出版社で、澤木担当の顔なじみの記者が教えてくれたのだ。   では、その絵を描いたのは誰なんだと。   『櫻井君、君は先生と親しいようだから、あの絵を描いたのが誰か知ってんじゃないの?教えてくれよ』   真面目な顔で問われて、心苦しくも首を横に振り、逆に、なぜ知りたいのかと尋ねたら、   『俺、久々に感動したんだよ。まだ荒削りな感じはするけど、すごくイイ絵だったんだ』   そんな言葉が返ってきた。   『前に、どっかの高校生があんなタッチの絵、描いてたんだよな…』   記者は首を傾げつつ、また仕事に戻った。 美術専門誌一筋のベテラン記者の記憶にあるのは、もちろん高校時代の智の絵だ。その頃から業界の一部では智の実力は認められていたのだ。だが、卒業以来コンクールの類には一切出品していなかったから、記者の記憶が曖昧なのは当然のことだった。   そろそろか…   翔はフワフワ笑っている智に、思い切って言ってみる。   「智、今度の冬のコンクールに絵を出品しようよ。いいだろ?澤木先生たちへのお礼も兼ねてさ。結果を出そうよ」 「…え?」 「俺も、智の本気、そろそろ見たいよ。伊豆のコテージ、ずっと使っていいし、足りない物があったらいつでも何でも店から持ってっていいから」   暗に、恩に着せるような言葉を選んでみる。   「う…ん、実は龍ちゃんにもそうしろって言われたんだよね。応援はするけど、手助けはしないけどねって」   思案する目線を宙に泳がせる。 前向きではあるようだ。   「そうだよ、先生だって智の力がどれほどのものか見たいんだよ。自分の弟子の実力をさ」 「おれ、弟子じゃないよ」 「あ、ごめん…」   師弟関係ではなく、あくまでも友達だという。 それならと、言葉を重ねる。   「じゃ、友達に誕生日プレゼントってことで頑張ってみりゃいいじゃん」 「へ?誕生日?」 「そうだよ。結果発表の時期が先生の60回目の誕生日の頃なんだ」 「…60、還暦?」 「そう、いいお祝いになるじゃん」 「そっか…」     そっか、と2回呟いて智は帰って行った。     前ほど華奢ではなくなった背中。 腕にも、結構力仕事もあるらしく、うっすらと筋肉が付いていた。   (俺も変わらなくては...)   窓に凭れて、ゆっくりと通りを歩いていく後姿を目で追う。その姿が完全に見えなくなってから、翔は携帯を取り出して昨夜届いたメールを読み返した。   それは、松本からの合コンの誘いだった。   ”ダメ元で誘うけど…”の一行が頭に付いたメールに返事を打つ。   ”参加することにする。勉強ばかりじゃなく、たまには麗しい女性との会話を楽しむのもいいかもしれない。場所と時間、決定したら連絡して”     驚いている松本の顔を想像しながら、携帯をポケットに入れ窓辺から離れる。     変わる。きっと、智も俺も。 変わらなきゃ、前に進めない。     口元を引き締め、再びデスクに向かう。     自分のために。 明日のために。     その先の何かのために。                 続く。    ポチッと押してね♡

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  • 20 Jun
    • 空と 海と 君と 9

            ふと、体に揺れを感じ、機体が着陸態勢に入ったことを知る。それでも久しぶりの休息にすっかり安らいでしまった脳は、未だ過去を追いかけたがる。     (もう少し…)   機体が滑走路に降りるまで、いや、完全に停止してシートベルト解除のアナウンスが流れるまで…。   翔は覚醒しかけていた意識を再び手放した。           伊豆の海から8ヶ月後、翔の予測通り多忙な日々が始まっていた。大学とビジネススクール、週末には櫻井文具の店舗でのアルバイトと、息をつく間もないほど。 一人暮らしのマンションには、ただ睡眠の為に帰るだけ。だが、翔はそんなハードなスケジュールをこなしている自分が誇らしく、毎日が充実していた。   そんなある日、智から一月ぶりにメールが届いた。横断歩道の真ん中で着信に気付き、急いで渡り切りメールを開く。     『今度、時間作って。紹介したい人がいるから』   最初の一文で、一瞬、女性なのかと思いドキリとしたが、続きで例の龍ちゃんだとわかりほっと胸を撫で下ろした。     智とは、多忙な中でも月に1、2度ほどのペースで会っていた。だが、この1ヶ月、智は伊豆のコテージに入り浸りで、全く顔を合わしていなかったのだ。創作の邪魔になってはと思い連絡も取らずにいたのだが、会えるとなると頭の中が一気に智でいっぱいになる。勉強と経営と数字以外のことが翔の頭を占拠したのは、久しぶりの事だった。           約束の日、翔は浅草にいた。大勢の観光客で賑わう仲見世通りから、一本脇に逸れた細い路地、一軒の居酒屋の前に立ち携帯の地図アプリと店の名前を再度照らし合わせる。   (間違いない。ここだ)    古い飲み屋だと智が言っていたが、ここまでとは思わなかった。 いい具合に飴色に染まった庇と開き戸。掛けられた暖簾は古色蒼然としており、真ん中に『〇』の中に『葉』と染め抜かれている。元は文字通り鮮やかな緑色であったのであろうその意匠は、薄めた抹茶のようなくすんだ色をしていた。     「いらっしゃーい」     暖簾をくぐると、予想外の若くて明るい声が出迎えてくれた。   「お好きなとこ、どーぞー」 「あの、待ち合わせで...」   智の姿を探す。   「翔、ここ、ここ!」   クラシカルな丸いスツールが並ぶカウンター席の、一番奥から智が手を振っている。     智の2つ手前のスツールに、一昔前の興行師のような派手目な蝶ネクタイを付けた初老の男が、背筋をピン伸ばして座っていた。ビールのグラスを手にバーテンダーとにこやかに話している。そのせいで、猫背でちんまりと座っていた智の姿が、翔からは全く見えていなかったのだ。   「居たんだ」 「うん、もう先、飲んでる」   すでにほんのり朱い顔でふんわり笑う智に、翔も笑顔で足を踏み出す。   「テーブルに移るね」   智はバーテンダーに声を掛けて、グラスを手に椅子から降りた。   「オッケー、あ、初めまして。オレ、相葉っていいます」   弾けるような笑顔でカウンター越し、パッと手を差し出されて、翔は慌てて腿で拭った手で受け止めた。   「あ、ど、どうも。櫻井です」   モデルかタレントかと見紛うような、華のある男だ。   「そっかー、あなたが翔さんかー。大ちゃんの自慢の友達の」 「え?は、はい」 「思った通りの人だぁ。爽やかでイケメンで頭良さそー。よろしくお願いしまぁす!」   クシャクシャの笑顔で、握手の手をブンブンと大きく上下に振られ、その余波で肩が千切れそうになる。   「でしょ? 翔、あっち行こ」 「お、おお」 「ごゆっくりー」   痛めた肩を擦りながら、テーブルを挟んで智の正面に座る。 そう広くもない店内には、まだ夕方の4時だというのに近くのテーブルで3人の職人風の若い男たちが焼酎を飲んでいた。中ほどの窓際の席では、買い物帰りの主婦が4人、井戸端会議の真っ最中らしい。 店の一番奥、天井から下げられた喫煙席のプレートの下には、洒落た着流し風の和服を着た黒縁メガネの中年の男が1人、その雰囲気に全くそぐわない最新式のノートパソコンを前に難しい顔で腕を組んで座っている。   種々雑多の人間がそれぞれの過ごし方をしている。そんないかにも浅草らしい店だった。   「すごいな、ここ、昭和の匂いが充満してる」 「龍ちゃんに教えてもらってさ、おれも気に入って、たまに来るんだ。何飲む?」   智の大きめのグラスには、ビールより淡い色の液体が半分ほど入っている。   「それ、何?」 「ホッピー。飲んだこと無いでしょ」 「…聞いた事はあるけど。この店、何でもあるんだな」   井戸端会議はまだ続いている。テーブルの上のコーヒーもケーキもとっくに空になっているようだが。   「ここのホッピー、昔ながらの正統派の材料を使ってるんだって。焼酎の銘柄も決まってて、入れ方も戦後そのままなんだって龍ちゃんが言ってた。飲んでみてよ」   智がカウンターの相葉にオーダーを通す。   「まいどー」   元気な声が返ってくる。     古びたカウンターに、モデル並みの容姿のバーテンダー。それが妙に調和していて、すっかり馴染んでしまっているのが面白い。やはり、なんでもアリだ。   「龍ちゃんとやらは、まだ、来てないの?」   智が口にしたその名を忘れたことはない。謎の人物に8ヶ月越し、やっと会えるのだ。 ソワソワと落ち着かないのはしょうがない。   「はい、お待たせー」   相葉が酒の入ったグラスを持ってきた。   「つまみ、適当に持ってきて。あ、モツ煮は絶対ね」 「龍ちゃん、好きだもんね」   どうやら相葉も彼の友人らしい。   「少し遅くなるって連絡があったんだ。打ち合わせが延びたって。久しぶり、はい、乾杯」   グラスを合わせ、智がおいしそうにグラスを傾ける。翔も恐る恐るグラスに口をつけた。   「うまい?」 「う…ん、よくわからない。不味くはないけど」 「じゃ、うまいんじゃん、翔の舌は肥えてるから、その評価で十分だ」   へへっと笑って柿の種をポリポリとかじる。翔は意外とのど越しの良い淡い金色の液体を流し込みながら、改めて店内を見回した。       椅子やテーブル、照明や壁紙、全てに時代を感じる。だが掃除は行き届き、傷のあるテーブルやレトロなグラスも綺麗に磨かれていて、廃れた印象などは全くない。そう言えば、外の暖簾も色褪せてはいたが、目立つシミや手垢などは見当たらず、大きなシワも無かった。   「相葉ちゃんのじいちゃんが始めた店なんだ。もう結構な齢なんだけど、今でも毎日顔を出して掃除とかしてるんだ」   翔の視線を追って、智もぐるりと店内を見渡す。     「いいよね、こういうとこ。落ち着くな。ヘンに気取って無くて何でも受け入れてくれそうでさ。龍ちゃんは若いころ、ここでバイトして、食いつないでたんだって」 「だから、その龍ちゃんて…」 「あ、来た」   やっと来たかと翔は後ろを振り向いた、と、同時に立ち上がる。   「えっ? え? 龍ちゃん?」   暖簾をくぐって表れた顔は、写真や映像で見覚えのある顔だった。   「龍ちゃん、こっち、こっち」   智がひらひらと手招きをしているその相手は、日本を代表する芸術家『澤木龍公(さわきりゅうこう)』だった。 澤木は智に気づくと、相好を崩して近づいてきた。   「おう、大ちゃん、ごめんよ。芸術祭の打ち合わせが長引いてさ」   ニコニコと智の隣に座る。   「今度、何とか勲章ってのを僕にくれるんだって。その授与式のリハーサルが追加されちゃってさ、でも、約束があるからって、何とか抜けてきたよ」 「龍ちゃん、久しぶり。じいちゃんがそろそろ将棋やりたいって言ってたよ。時間あるとき電話してよ」   ホッピーのグラスとモツ煮をテーブルに置いて、相葉が澤木の肩をポンポンと叩く。   「そうか、じゃあ近いうちに一局お手合わせ願おうかな」 「うん、じいちゃんに言っとくね。そんじゃ、ごゆっくりー」   「………」   翔は、目の前の人物の存在をまだ受け入れる事が出来なかった。   「ふふっ、どうしたの? 翔、龍ちゃんに会いたがってたじゃん」   智が笑いながら突っ立ったままの翔を見上げる。明らかに面白がっている。   「いつも名前は聞いてるよ。若いのに中々のやり手らしいな。今度、僕にも君んとこの画材を使わせてくれないかな。仲間うちで評判だよ。いい仕事してるって」   隣で澤木はグラスを手に、柔和な笑顔を見せている。   「乾杯しよう、櫻井翔くん。やっと会えたね」   確かに『澤木龍公』だ。間違いない。   「っせ、せんせい。さ、澤木先生ですよね? あの、画家の!」   ようやく声を絞り出す。   「だめだよ、翔、先生って呼んじゃ。龍ちゃんって呼んで」   智にシャツの裾を引っ張られて、ようやく椅子に座る。   「ちゃんなんて、智、何言ってんだよ。この方は、日本の現代画で五本の指に入る…」 「だ・か・ら、それはそれ、龍ちゃんは龍ちゃんなの。ねぇ」 「はは、そうだ、そうだ。それはそれ。僕のことはどう呼んでもいいけど、先生だけはやめてくれ」 「はい、もっかい乾杯」   改めて三人でグラスを合わす。   「うまいだろ。ここのホッピーは、戦後の名残を残しつつ…」   グラスを傾けつつ、澤木龍公は蘊蓄を語り始めたが、翔はホッピーどころではなかった。仕事柄、芸術家と呼ばれる人物は殆ど頭に入っている。高校時代にも、相当な知識を詰め込んだ。   目の前の男が日本芸術院会副会長で、近い将来、人間国宝に選ばれる事は間違いないと言われている人物であるということを、智も画家を志す者として知らない筈はない。確か、芸大でも客員教授として教壇に立ったことがあるとプロフィールに記載されていた。   「…智、お前さ、せっ、先生とインドに行ったのか?」   ハッと思い出し、恐る恐る尋ねてみる。   「うん、そう。あん時は楽しかったよね」 「ん? ああ、傑作だったな。象に乗った日の夜、尻がやたら痛くて宿で見せっこしたら、二人とも皮が剥けてて...」 「あはは、そうそう、風呂に入ったら沁みて痛くて、パンツまで汚れちゃってんの。何か落ち込んだ」   いやでもそのシーンを想像してしまう。   「んで、タージマハールで記念写真撮るとき、肩組んでたら、なぜか男同志のカップルに間違われちゃって、龍ちゃん、アホみたいな顔してさ」 「はは、だって普通親子だろ、何でそうなるんだよ。その上、現地の怪しいガイドが寄ってきて…」   翔は自分が青ざめているのが分かった。   (いったいこの二人は、何をしゃべっているんだ?)   呆気にとられている翔の目に、奥の着物姿の男がパソコンを手に立ち上がるのが見えた。   「龍さん、楽しそうだな」   澤木に声を掛ける。   「え、ああ、淳さん、いたのか」 「ああ、もう帰るわ。いくら待ってもネタは降りて来ん」   男は、またな。と出口に向かって行った。   「淳さん、バイバイ。仕事一段落したら、また飲もうね」   智の声に、男が後ろ手に右手を上げた。   「お知り合いですか?」   澤木に尋ねる。   「ああ、作家の『木下淳三郎さん』だよ」   「………」   翔は再び言葉を失って固まってしまった。   「でさ、カレーばっか出てきて、さすがに飽きてな…」 「ははは…、そうそう!」   「まいどー。淳さんもじいちゃんに会いにきてよね」 「はは、分かった、分かった」   長年一緒にいても、智という男はやはり、翔には掴みきれない。人間国宝候補の肩を叩いてバカな話で盛り上がり、芥川賞受賞作家にバイバイと手を振る。自分のように理屈で動くタイプの人間には決してマネが出来ない。   一しきり笑ったあと、   「ごめん、翔。ちゃんと紹介するね」   笑いすぎて滲んだ涙をゴシゴシ拭いながら智が言ったが、   「いや、多分、智より知ってると思う…」   翔はボソリと呟いてグラスの酒を呷った。       結局、その夜は初めてのホッピーに酔うことも出来ず、ただ、楽しげな二人を見ているだけだった。                   続く。    ポチッと押してね♡  

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  • 18 Jun
    • 空と 海と 君と 8

            不意に目が覚めた。 今、どの辺りを飛行しているのだろう。薄く開いた目に、シェード越しの光は結構強く、まだ機体がかなりの上空にいることを物語っている。翔は敢えて時計を見ずに再び目を閉じた。この異空間で、もう少しだけ思い出に浸っていたかったのだ。       瞼の裏に青が広がる。澄み渡り突き抜けるような強い夏空の青。     (これは…、あの日の空だ…)     自分が、何の束縛も憂いもなく自由に過ごせた最後の夏。 11年前、まるで、あの日の空に浮かんでいたカモメのように自由だった21歳の翔と智。         大学3年の夏、二人は伊豆の海の砂浜に並んで寝そべっていた。この上ないほどの穏やかな時間が二人の上を通り過ぎる。夏と海を謳歌している周りの人々の嬌声さえも、BGMとなり波音と重なって耳に心地よく響く。   隣でのんびりと智が呟いた。   「空が青いな」 「ほんとだな。鮮やか過ぎて日本じゃないみたいだ」 「うん、…インドの空と同じ色だ」   「…え?」   顔を横に向けると、智が眩しそうに目を細めて両手を空に伸ばし、親指と人差し指で青空を四角く切り取っていた。   「すげぇ! 今、カモメがこの中を横切った。いい構図だな…」   カモメを追っていた指のフレームが横に降りてきて、翔の顔を捉えた。   「ふふ、何、その行ってきたみたいな言葉」   翔が笑えば、智もにんまり笑ってフレームを解く。   「へへっ、実は、行ったんだ」 「は? え? ウソ?」   思わず、体を起こす。   「ホント。さっき、お土産あげたじゃん」 「え?さっきのあれ?」   数時間前、崖の上のコテージに到着した時に、独特な象のイラストがプリントされた赤いTシャツを智から渡された。くれるというから普通に受け取ったが。   「もしかして、あの象、智が描いたの?」 「そう、土産物屋でオリジナルのTシャツを作れる店があってさ、その場で描いて絵を転写してくれるの。おれとペア」   そう言って頭の下に敷いていた、ブルーのTシャツを胸の上に広げて見せた。翔のものと同じ象がいて、その下に小さく《satoshi》のサインがある。 背中には有名なインドの建造物のイラストがあって、ネックの大き目のタグには、『made in India』の文字。どうやら、本当のようだ。       「いつ? そんな事、一言も言わなかったよね?」   智も体を起こした。この半日で黒くなった肩甲骨の砂を、背中に回した手でパラパラと払う。   「だって、翔、夏期合宿で軽井沢、行ってたじゃん、あ、イテっ!」   焼けた皮膚が痛むのか、顔をしかめている。   そんな、片手間に話す程度のことなのか?   「え? それって先週のこと?」 「うん、20日から25日まで」 「誰と? 家族…じゃないよな。もしかして、一人?」   下町に住む賑やかなあの家族が、旅行先にインドを選ぶとは思えない。 かといって、智と二人で海外旅行をするような友人も思い当たらない。   「ううん、龍ちゃんと」 「リュウちゃん? 誰、それ」   聞いたことのない名前だ。   「最近出来た友達」 「...........!」   いたずらっぽい顔でふふっと笑う。焼けた顔に白い歯が眩しい。 こんな状況なのに、つい見つめてしまう。   「少し前に、誘われててさ、まさか、本当に行くとは思わなかったんだけど、おれも前から、行きたいって思ってたし、旅費も出してくれるっていうから...、あ!また来た」   再び現れたカモメを目で追う。   「あいつら、自由だなぁ…」   空を見上げている横顔を見ながら、翔は開いた口が塞がらなかった。知り合ったばかりの人間と、お世辞にも治安が安定しているとは言い切れない国に二人きりで行ったというのか。それも、相手の金で。   (…智、君はあのカモメ以上に自由だよ…)   「さぁて、もうひと泳ぎしようかな」   智はパッと立ち上がった。   「道理で先週電話しても、出なかったんだな」 「うん、充電切れちゃって、そのまま放っといた」 「あっ、待って、誰なんだよ、その人。すごい金持ちみたいだけど?」   走り出そうとする背中に、一番の疑問をぶつける。   「そのうち紹介するよ。きっと翔も知ってる人だよ」   そんなことを言われても、誰の顔も浮かばない。   「ちょっと、詳しく聞かせてよ。全然わかんないよ」 「あとあと。 せっかく海に来たんだから」   翔は答えをもらえなないまま、軽やかに走り出した智のあとを慌てて追った。   頭上では、2羽のカモメが気流にその羽を委ね、青い空のキャンバスに大きくゆるりと2本の弧を描いていた。             夕暮れ、崖上のコテージのテラスで暮れゆく海を見ながら、缶ビールで乾杯をした。インドで買ったという香炉から漂う伽羅の香りが、まるで異国の夕暮れの中にトリップしたような錯覚を起こさせる。   ふわりと浮かぶ薄紫の煙のように、ゆったりと時が流れる。   「こんなにのんびりと夏を過ごせるのは、今年が最後かもな」   柿の種をポリポリ齧りながら翔が言う。   「え? 何で?」 「だってさ、大学の方も忙しくなるし、夜通ってるビジネスクールだって、資格取得のための模擬試験がガンガン始まるし」 「ふーん、そっか」   智は枝豆を抓みながらのんびりとチェアに凭れている。     「自分だってそうだろ? 芸大だってかなりのカリキュラムが詰まってるって聞いてるけど」   何を人ゴトみたいにと、笑ってビールを呷れば、   「…辞めた」   智がぼそりと呟いて、豆を宙に放った。   「ぶっ!」   翔は驚いて、口に含んでいたビールを勢いよく吹いてしまった。   「うわ、きったないな!」   被害を避けるために素早く立ちあがった智の足元に、コロリと豆が転がる。   「はっ、はぁ??」 「あーあ、もったいない」 「ごほ…、何? 辞めたって言った? 今」 「うん。…さすがに食えないな、これは」   智は屈み込んで拾った豆を空いた皿に落として、新しいものを手に取った。   「マジでぇ?? いつぅ??」   手の甲で口を拭いながら発した声は、あまりの衝撃に裏返っていた。優雅な伽羅の香りなど、すっかりどこかに消し飛んでしまった。   ...今日は驚くことばかりだ。   「インドから帰ってすぐ」 「どうして? 画家は芸大行ってるかそうでないかで、大分、評価が変わってくるんだぞ?」 「評価? 何の?」   あっけらかんとした智の態度に、翔は大きくため息をついた。確かに智は高3の頃、卒業後はあてのない放浪の旅に出たいと言っていた。それを引きとめ、芸大受験を勧めたのは翔だ。もちろん智の為を思っての事であったが、将来、自分がプロデュースしようとする相手を、少しでも有利な状況にしておきたいという思惑があったことは否めない。   「何故? せっかく入ったのに…。かなりの倍率だったじゃない、あの年」   智は黙って頬杖をついて海を見つめている。波の音だけが遠くに聞こえる。   「うーん、もう、いいかなって思った」   かなりの間を置いて、ようやく返ってきた言葉はそれだけだった。   「何がいいの?」 「いいじゃん。もう済んだ事だし」   じれったい思いで問い詰めれば、瞳がスッと動き、強い視線を翔に投げてくる。もう、何も言うなということらしい。   「…なら、聞かないけどさ」   気圧されて思わず目を逸らす。俯いた耳に、ふふっと笑う声が聞こえた。   「大丈夫。おれは、やるから」   視線を上げると、いつもの柔らかい笑顔が戻っていた。   「おれね、何か、色々吹っ切れた。大学に行っててちょっと迷ってたとこあったんだ。でも、自分はこれでいいって。何かね、今、すっごく描きたい気分」   再び智の表情が変わった。瞳の奥に今度は貪欲な光が灯る。その深い濃紺は翔に沸き立つような鼓動と何とも言えない焦りのような不思議な感覚を同時に与える。   智の何が、こんなにも自分の心を掴むのだろう。   長い付き合いではあるが、翔は智のことが未だによく分からない。   どちらかというと小柄で線も細く、日焼けした肌も夏が過ぎればあっという間に白くなる。つぶらな瞳と淡い色の唇。そんな中性的な外見に加えて、声も表情も柔らかくて感情の起伏などまるでないようにも見える。それなのに、時折さっきのようにぞくりとするほど強い目をして他者を寄せ付けない一瞬がある。   嵌ってしまえば、何日も眠らずに絵を描き続け、食事もろくに摂ろうとしない。その凄まじいまでの集中力に持ちこたえるだけの体力が、あの華奢な体のどこにあるのだろうか。   また、今回のインド行きのように、決めたら後先考える事無く、即、行動する。 何事も熟考し理詰めでなければ踏み出せない翔からすると、とても考えられないことだ。   穏やかな外見からは想像も出来ない何かがその内に潜んでいる。そのギャップに翔はいつも驚かされるのだ。   「ビール、持ってこよ。翔も飲むだろ?」   いつもの調子で、身軽い動作でリビングに入っていく。 その背中を見送って翔はふうっと息を吐いた。そして一つの結論に達した。   何が、などと考えなくてもいい。 せめて一つくらいは自分にもそんな理屈じゃない部分があっても良いのではないかと。   それならばと、素早く頭を回転させる。 一つの考えが閃く。   「じゃぁさ、ここに残って描けばいいよ。今年はもう誰も使わないし静かだし、必要なもの全部運びこんだって、十分なスペースがあるだろ?」   戻った智に提案する。   そう、これはチャンスだ。今の智の溢れ出す意欲を削いではならない。きっと、素晴らしい結果を生み出すはずだ。自分の目に狂いはない。それは確実に先のビジネスに繋がる。   あ.......   さっき決めたはずなのに、相変わらず翔の頭は、先を先をと考えている。 そんな自分に気付き、翔は小さく苦い笑いを漏らした。       「マジで? いいの?」     ビールを手に立ったまま、智の目が見開いた。   「勿論さ。大学辞めたんなら、いくらでも時間はあるだろ? 思いきり描けばいいよ」   智は輝く目で部屋を振り返った。   「嬉しいよ。ここ、いいなっていつも思ってたんだ。いつかは、こんなアトリエを持てたらって」   そして、ドンとビールをテーブルに置くと、翔の後ろに回って肩を抱きしめた。   「翔、ありがとう。おれ、描くよ。今、頭ん中、色んなモンでパンクしそうなんだ」   智の、意志の込もった柔らかくも力強い声が、熱い息と共に翔の全身を包む。 震えるほどの幸福感が翔の背中を走った。   (この一瞬だけで俺は満たされる。このひと時があればそれでいい)   夕日はすっかり沈み、外灯が2人の姿を窓のガラスに映し出している。この時が止まれと、翔は心から願った。                         続く。    ポチッと押してね♡  

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  • 17 Jun
    • ちょっと寄り道。お誕生日おめでとうございます♡ 

          ★お誕生日、まだ間に合うよね(°Д°;≡°Д°;)★         二宮さん、お誕生日おめでとうございますぅ。 …なのに、ご本人様の存在感が超希薄なお話、すみません。       あ、睨まないで(。>0<。)。       殴んないでっ(。>0<。)!!       う!撃たないでーー∑(゚Д゚)!!     もうすぐ出番あるからっつ!!     ホントだってば!     大丈夫。そんな寂しそうな顔しなくても。 大好きな大野さんとはらぶらぶだよ。       切ない顔しないでってばー。 私が二人を引き離すワケないでしょ?     翔さんは……、ごめんなさいだけど。     そんな顔しても、ムダだよ~。 ここは、大宮らぶのお話置き場だからねっ     お? 向こうに見えるは、大野さんではないですか? ん?なんか、よたよた…、   な、な、な、何ですか? その大荷物。   はぁ、ああ!   例のヤツね。   ほぉー。ずいぶん巨大な・・・。     なるほど、こんだけ大きかったら二人で寝ころんで……………(///∇//)       にの、来いよ。   ////////////   ゲームどころじゃないわね。         だから翔さんは、相葉さんと仲良くしといてってば!!     はい、ということで、   二宮さん、いつまでも可愛く、色っぽく、小賢しく、小悪魔で、ドSでドMで、天然で…。   沢山あり過ぎて書ききれないくらい奥深いアナタ。   でも、大野さんと二人でいる時が一番いいお顔です。( ̄へ  ̄  )きっぱり!←(ザ・大宮担目線)   これからも大野さんのお世話をよろしくお願いします。           大宮のお話置き場のはずでありながら、こんな状態ですが、もう少し続きます。 よろしかったら、引き続きお読みくださいね。                 おしまい♡    ポチッと押してね♡  

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  • 16 Jun
    • 空と 海と 君と 7

              シーンは変わり中3の冬、最終の三者面談の進路指導室。 翔の隣には神妙な顔をした父親が座っていた。     「櫻井、本当にT高校でいいのか? 君の成績なら、どこの高校でも狙えるんだぞ?」   担任の教師が何度目かの意思確認をする。学校側にとってはもっと難関の私立高校にでも進学してもらって、この中学の名を上げて欲しいと思うところだろうが、翔の意志は変わらなかった。懇願するような担任の視線を正面から受け止める。     「はい、以前にも言ったと思いますが、僕が将来家業を継ぐ時、日本の経済は今よりもずっと伸び悩んでいる状況だと思うのです。父の会社は今は文房具一本ですが、激しい競争社会の中、生き残っていく為にはもっと多岐に渡って事業を展開していかなければならないのです。経営の勉強はいつでも出来ます。頭と心の柔軟な今の内に、芸術の分野を学んでおけば絶対に将来のために役立つのです」   きっぱりと言い切る。   「さすがだな、翔。お前はもうそんな先のことまで考えているのか。我が子ながら見上げたもんだ」   社員の間では厳格なことで有名な初代社長だが、優秀な我が息子は自慢の種で、その聡明さにすでに全幅の信頼を置いていた。   (悪い、親父)   涙ぐまんばかりの感激した表情で満足げに頷く父に、翔は心の中で詫びた。今滔々と述べた口上は、単に智と同じ芸術系のT高校に進みたいがために考えたこじ付けだった。   担任が諦めたようにふうっと息を吐いた。   「そこまで考えているのなら、もう何も言わんがな。私は君はてっきりは松本と同じN高校に行くもんだと思ってたよ」   担任は、同級生の松本潤の名を出した。いつも翔と学年のトップ争いをしているライバルであるが、小学校からの幼馴染でもあり普通に仲がいい。翔もずっとそのつもりでいた。   あの日、智と出会うまでは。   「勉強は続けます。そして三年後には潤と同じ大学に入るつもりです」 「そうか。うん、櫻井ならやれると思うが…。逆にT高校はな…。いや、成績面ではなんの心配もいらんのだが、何しろ入試科目には実技があるからな…」 「はい、その辺りは充分自覚していますので、先生方に助言を頂きたいと思ってます」   『翔の絵って、独創的だよね』   ふと、智の言葉を思い出す。決して『ヘタだ』などと言わないところが智らしいと思ったが、自分の絵を見つめている真剣な目は、本気でそう思っていることを語っていた。   『僕にはこんな解釈は絶対に出来ない』     などと呟いて、翔の描いた美術の課題の名画『モナリザ』の模写を飽くことなく眺めていた。             数か月後、翔は担任と美術教師の多大なるフォローにより、あまり実技に比重を置かない学科を選択して、何とかT高校に滑り込んだ。実技のマイナス評価を、最高点を獲得した芸術理論のペーパーテストで補った最善の結果だった。   (高校生活は充実していた。俺は、智の姿を追い、声を脳内に取り込み、決して気取られぬことのないよう、智の全てを心に刻んだ。そして何よりも智の絵を愛して、その才能に惚れ込んだ。俺の夢と野望は智を中心にして芽吹き、育っていった…)      安らいでいる脳は、さらに過去を辿る。   高校1年の夏休み、鎌倉に行った。芸術系の学校らしく、日本の古美術や工芸品をモチーフとして何らかの作品を提出せよという課題が出ていた。   「まったく、もっと明快な文章で説明して欲しいよな」     歴史ある美術品と言えば鎌倉という単純な発想で電車に乗ったが、翔はどこから手をつけてよいのかまったく分からなかった。シートに座り、課題の書かれたプリントを読み返しながら途方に暮れる。   「こんな曖昧な書き方じゃ何も分らない。具体的な例を提示すべきだ。そうだろ?」 「何でもいいんじゃない? 翔は考え過ぎなんだって」   もちろん、隣には智がいた。     「それが出来れば苦労しないよ…」   発車のアナウンスが流れ、電車が静かに動き出す。   「それより、帰りにちょっとだけ、海にいこうよ。烏帽子岩に沈む夕日って、映像でしか見た事ないんだ」   智はまるで、遠足気分の小学生のように楽しげに窓の外を眺めている。翔はため息をついた。先日受け取った一学期の成績表が頭を過ぎる。ある程度覚悟はしていたが、まさかあんなにひどいとは思わなかった。   翔が在籍している『美術科・芸術理論コース』は、芸術全般の歴史や知識を学び、美術評論家、鑑定士、美術館職員や学芸員、画廊経営等の職業につくことを目標としている。なので実技はあまり重要視されていない。だが、やはり最低限の画力は必要とされていた。   夏休み前、職員室での教師の言葉が甦る。   「言いたくはないが、今の君の状況では合格点は上げられないな。最終目標はどうでも、ある程度の基本は身につけておかなければならない。君は、聞けば中学の成績はかなりの物だったらしいじゃないか。何故、この学校を選んだのかは解らないが…」   手には、学期末に提出した翔のデッサンを持っている。その口元が何かを堪えるように微妙に曲がったのを翔は見逃さなかった。   「…ま、とにかく、夏期休暇の課題は必ず提出しなさい。君の場合、他の科目は全て優秀だから、実技に関しては完成、提出を目標としよう」 「はい、ありがとうございます」   席を立ち、職員室のドアを閉める為に振り返った時、教師の肩が上下に揺れているのが遠目にも分かった。    プライドを傷つけられる事が何より嫌いなはずなのに、こうして他人に自分の絵を笑われても、不思議なことに全く気にならなかった。そんな事は、智の絵を間近で見られ、その日々の進化を肌で感じられる事の感動に比べれば、ほんの些細な事だったのだ。   智はというと、入学後1ヶ月のうちにすでに周りに一目置かれる存在となっていた。   入試の際に決められた短い時間で描かれたデッサンは、その完成度において群を抜いており、速攻で学校案内のホームページにアップされた。 その後も智の作品は、ほんの落書き程度の小さな物でも、どこか独特で個性が光っており、校長室の隣の、校内の優れた作品を集めた『ミュージアム』と名付けられた部屋に常時展示してあった。     そして、来客や時折訪れるOBの画家達に絶賛を浴びていたのだ。だが、翔とは逆に、他の一般教科はかなり苦手だった。ペーパーテストも赤点ギリギリだったが、何より重要視される絵の才能のお陰で、かなり大目に見てもらえていた。   翔のデッサンを見て笑いを堪えていた教師が、   「全く、君と大野君を足して2で割れば、パーフェクトなんだがな…」   と本気でぼやいていた。         .....そのもう片方は、最悪だけども。             続く。  ポチッと押してね♡  

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  • 14 Jun
    • 空と 海と 君と 6

            《 翔 》   数時間前、逸る思いで登った山道を今は一気に下る。 朝一番の飛行機で香港に飛ばねばならない。それに、フライトの時間までに整えなければならない書類が数種ある。そのために部下に命じて空港内のレストハウスを押さえておいた。時間があれば仮眠をと思っていたが、コテージでの滞在時間が長引いてしまい、そんな余裕は無さそうだ。   もちろんそうなることは予想していた。   突然飛び込んできた智からのメール。自分が智に関することを最優先してしまうのは分かり切っていたこと。それが後のスケジュールに支障を来すことも同様に。               それでも、分刻みの仕事の合間を縫ってでも、自分はあの場所に行きたかったのだ。     徐々に道幅が広くなり、ようやく国道に出た。直後、いきなり左から大型トラックが現れ、左折しようとした翔の車と接触しそうになる。だが、翔は焦ることなくブレーキとアクセルを操作し、国際ライセンスを持つ運転技術で素早くハンドルを切り、その巨体をやり過ごした。 大型トラックは轟音と低いクラクションを響かせながら背後に遠ざかって行った。     車内にタイヤが擦れたきな臭い匂いが漂う。それでも翔の表情は硬く動かない。ほんの数十分前ににこやかに笑っていたことなど、まるで忘れたかのように。     高速に乗り、黒のアウディは滑らかに加速していく。元々運転が好きで、仕事でも出来るだけ車で移動することにしている。それがストレスの発散にもなっているのだ。 買い換えたばかりの高性能のドイツ車は。最高の走りをしてくれている。なのに、未だに解けない眉間の皺は、気が急いていることだけが理由ではない。   フロントガラスに、和也を見つめる智の穏やかな表情が浮かぶ。彼との関係は智にとって大いにプラスになっているようだ。2年前と比べると、その絵は確実に進化していた。『海』という単純なテーマをあれほどの作品群に仕上げてくるとは想像もしていなかった。   智と出会って15年、芸術関連、特に絵画に関してはずっと研究して学び続けてきた。だから、描くことは苦手でも、審美眼、鑑賞眼、鑑定眼には大いに自信がある。   とにかく、素晴らしかったのだ。   (喜ばしい事じゃないか。何をそんなに不機嫌になっている?)   いつでも冷静に状況を判断し自己分析をするのが翔の常だ。ビジネスにとってそれがどんなに大切かもよく理解している。だが、その明晰な頭脳を持ってしても、この不快感の原因は掴めない…。   (…いや、自分を誤魔化すな。理由は分かっているはずだ)    翔は自嘲気味に口角を上げた。   闇に包まれたハイウェイを、アウディは空(くう)を切るように走り続けている。翔は、行き先を示すヘッドライトの光の輪と、その先に映る本当の自分をただ見つめていた。     智…     想いは、過去へ…     3年前、父の会社『櫻井文具』に、主に絵画の展示や売買、それに伴う画材の開発、販売を目的とする『文化芸術部』を設立したのは翔だった。難色を示す古株の役員達を前に、そのときばかりは社長の息子という特権を大いに利用した。 『会社の新しい方向性を目指す』という大義名分を掲げていたが、実は、智のためにという私的な感情がその理由の大半を占めていた。       部の発足後、翔はすぐに画廊経営に着手した。すでに一年前から今を見越して動いていたので移転のために閉店していた櫻井文具S支店の改装も済んでおり、あとはオープンの日時を決定するだけだった。そのオープニングイベントとして、智ともう一人の若い彫刻家との2人による合同展を開催することも、すでに決定事項となっていた。   画廊『Gallery Sakura』のオープン前日、翔は展示された智の絵の前に佇んでいた。視線こそ智の描いた『郷愁』とタイトルの付けられた少年の絵に向けられていたが、頭の中では様々な数字が目まぐるしく動いていた。 建物の改装費を含め、オープンまでの諸費用はなんとか部の予算内に納まった。だが、智らの一年間の創作活動に掛かる費用も、全て文化芸術部が負担している。駆け出しの芸術家に金などあるはずもなく、回収の見込みも現時点では殆ど無い。それほど大きな額ではないが確かに現在彼らは部にとって負の資産だ。たとえ、その作品がパーティーに花を添える程度の扱いであったとしても、はたして、無名の彼らがどれほど客の視線を集め、それが今後、新設の『文化芸術部』にいかほどの利益を生み出すのか、翔にとっては大きな賭けだった。 無理を通した分、必ず結果を出さねばならない。勿論勝算はある。だが、成功して当然、失敗した時には、後継者という立場に甘んずること無く、一平社員から積み上げてきた信用と実績を一気に失う事になる。説得に苦労した役員連中は、所詮、お坊ちゃんの気紛れだったと鼻で笑うだろう。 金銭的な損失よりも何よりも、自身のプライドが傷つく事を翔は一番怖れた。胃に穴が開くほどのプレッシャーというものを生まれて初めて知った。       それから3年が経ち、画廊の運営も軌道に乗っているが、あの時のヒリヒリするような焦燥感は今でも忘れられない。   なぜか今日は、いつもより鮮明に甦ってくる。         ジェット機は滑走路を飛び立った。書類もなんとか間に合い、香港までの約5時間、久しぶりにゆったりとした時間を過ごせる。日頃過密なスケジュールをこなしている翔にとっては多少物足りなさを感じるが、体は嘘をつかない。ビジネスシートに深く座り目を閉じると、疲労した肉体は、活動したがる脳をあっという間に深い眠りに引き込んでいった。   数時間前、車窓のスクリーンに映し出されていた映像が、更に過去に遡る。           智と初めて言葉を交わしたのは、中学2年の春だった。放課後、生徒会室に向かう時、たまたま通りかかった廊下から見えた一枚の絵。美術部室の真ん中に置かれたイーゼルの上、緑の森と青い湖と羽ばたこうとしている数羽の白い鳥。   (…綺麗な色だな)    足を止めて見入っていると、死角になっていた教室の隅から男子生徒が現れた。右手にナイフの様なものを持っている。翔に気付かぬまま、数メートルの距離を歩いて絵の前に立つと、サッと右手を大きく振り上げ躊躇い無く振り下ろした。ザッと布の裂ける音がしてキャンバスに大きく亀裂が入る。   (…!?)   いきなりの信じられない状況に呆気に取られていると、男子生徒は再び右手を上げた。翔は咄嗟に部室に飛び込んだ。   「待って! やめて!」   男子生徒に背後から飛びつき、右手首をグイと掴んだ。ぺィンティングナイフがカラリと床に落ちる。   「え? 何?」    男子生徒は驚いて振り返った。 それが智だった。   「なぜ? なぜそんな酷いことをするの?」 「ひどい? 何が?」   キョトンとした顔で翔を見上げている。自分より十センチほど低い位置から、たれ目気味の綺麗な黒い瞳が翔の目を捉えた。瞬間、翔の胸が大きく鼓動を打った。   (同じクラスの…、大野智?)   名前と顔くらいは知っている。だが、こうして近くで顔を合わせたのは初めてだ。   「な、何って、どうしてそんな綺麗な絵を破くの?」   慌てて眼を逸らし亀裂の入った絵に目をやる。鼓動は治まらない。   「じっ、自分で描いたの?」 「うん、そうだけど。…手を、放してくれる?」 「あ、ああ、ごめん」   慌てて掴んでいた手を放した。   「すごい握力。ほら、跡、付いたよ」   智はおかしそうに微笑うと、赤い指の跡が付いた右の手首を翔に見せ、左手で擦りながら腰を屈めて落ちたナイフに手を伸ばした。その流れるような滑らかな一連の動きと、両手の造形の美しさ。 翔の鼓動は騒ぎ続ける。     「まじ、ごめん。でもなんで? もったいないよ」   上ずった声で尋ねる。   「だいぶ前のだし、描きかけで放っといたから絵具が割れてきちゃてさ。キャンバス張り替えようと思って」 「へえ、そんな事できるの?」 「うん。僕だって大事な絵を簡単に破いたりはしないよ。えっと、櫻井翔くんだよね、クラス委員の。初めてしゃべったね」   自分の名を知ってくれていたことに、収まりかけた胸がまた波打つ。   「そう言えば、そうだね。君、美術部なんだ」 「うん。今度、コンクールがあるから、新しい絵を描けって言われてんだけど、何か、ピンとこなくて。気分転換」   智は校庭側の窓に歩いて行った。その細い背中から目が離せない。   「あの、夕焼けを描こうって思ってんだけどさ」   くるりと振り向く。     「何かいいアイディアない? 櫻井くんって確か、すっごい頭が良かったよね? 一緒に考えてよ」   耳に心地よい柔らかい声が自分の名を呼ぶ。 翔は片手で額を拭った。何を焦っているのだろう。こんな汗まで掻いて。   そんな翔に気付くことなく、智は手に持ったペインティングナイフを夕陽に翳してふふっと小さく笑った。     「あんな色、どうやったら出せるんだろう」   眩し気に目を細めて夕日を見つめる横顔。   「今日は特別キレイだな...」   翔は、オレンジ色の夕日を浴びて柔らかく微笑む智から目を離す事が出来なかった。         出会った日のすべてがまるで昨日のことのように脳裏によみがえる。 まるで、一枚の絵のように。     (そうさ、俺はあの瞬間から智のことを…)     朝の光は閉じられたシェード越しに翔の寝顔に淡い光を投げかける。     眉間の皺もようやく解かれ、翔は束の間の休息の中にその身を深く沈めて行った。                               続く。  ポチッと押してね♡    

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  • 13 Jun
    • 空と 海と 君と 5

              面倒がっていたのは単なるポーズで、智も本当は見せたかったらしい。誇らしげな笑顔で照明のスイッチを押した。その瞬間、目の前に智の創った大海原が広がる。     「…!」   隣で翔が息を呑む音が聞こえた。そっと横顔を窺うと、見開いた目の黒い眼球が細かく揺れている。和也が感じた衝撃を翔も味わっているらしい。   「…なんてことだ。最高だ。まさか、これ程とは…」   震える声で呟くと、振り向いたその目に感嘆と称賛の色を溢れさせ、キラキラと光り輝く瞳に智を映しこむ。   「凄い、凄いよ、智…」   智の肩を両手で掴みガクガクと揺さぶって、感極まったのか、再びガバッと抱き締めた。   「待った甲斐があったよ。やっぱり、智は天才だ。俺の目に狂いは無かった!」 「やめろよ。照れるじゃん」   身長差のせいで翔の肩に抑えつけられた、智の嬉しそうなくぐもった声が聞える。   「智の才能を、もっと、もっと世に知らしめよう。俺に任せろ! すべて俺が仕切るから!」 「ふふ、翔、落ち着けってば」     興奮気味の翔の声と、智の満足気な笑い声。 和也から智の姿は全く見えない。その広い背中と肩でわざと隠しているようだ。   …いつものこと。   三人でいる時、翔は和也を疎外する。それは、完璧な男が自分だけに見せるもう一つの顔。 和也は、そっと唇をかんだ。       3年前、まだ智を知らない頃、ほんの半年ほどの期間だったが和也と翔は恋人同士だった。だが、智と出逢ってしまった。正確には先に智の絵と出逢ったのだが、その全てにどうしようもなく惹かれて、理想の相手であったはずの翔と別れて、8カ月ののちには智と暮らし始めたのだ。     今、目の前で元恋人と現パートナーが楽しそうにビールを飲んで笑っている。和也にはわからない高校時代の話に花を咲かせて。     無頓着な智は仕方がないとしても、いつもは気配り目配りの権化であるかのような翔が、和也が疎外感を味わっているのを気付かぬ筈がない。   智に心変わりしたことをまだ許せないのか。 自分はそれほどまでに翔のプライドを傷つけてしまったのだろうか。   聞きたくても聞けるはずもない。   居心地の悪い思いをしても、智にとっては親友であり、大事なスポンサーである相手を無下には出来ない。和也はいつものように空気となって時を過ごした。     間が持たないままに空いた皿などを手にキッチンに立ち、知らずに小さく息を吐く。何度かそれを繰り返し、貼り付いた笑顔もそろそろ限界になった頃、翔が腕時計に目をやった。   「うわ、もうこんな時間だ」   釣られて見上げた壁の時計は午前1時を指していた。   「楽し過ぎて、つい長居をしちゃったよ。もう帰らないと…」   意味ありげな笑みを乗せて翔が和也に視線を送る。やはりこちらの心情などとっくに読み取っていたようだ。   「遅いから泊まってけば?」   人の気も知らずに、智がのんびりと言った。   「いや、明日早いんだよ。帰らなきゃ」 「んふふ、だって、翔、酔ってるじゃん」   とろりとした目でおかしそうに笑っている。   「ふふん、実は、乾杯はビールだったけど、あとはノンアルだったんだよ」 「えー! まじでぇ?」   と、驚いた顔で和也を振り返る。   「うん、翔さんが持ってきたのをお出ししてた」 「なーんだ、そうかぁ」   騙されたぁ、と翔を小突いてフニャフニャな笑顔の智。   相手が素面だった事に全く気付いていなかったようだ。それほどに翔と過ごす時間は楽しいのだろう。15年の絆に抗う事など出来るはずもない。智の大切な空間を自分の感情で壊すわけにはいかないのだ。   「それじゃ」   翔はサッと立ち上がると、踵を返して玄関に向かった。   「ほら、智、行くよ」   見送らなきゃと智を促して後に続けば、靴を履いた翔が振り向いて、   「また連絡する。忙しくなると思うから、今のうちにゆっくりしといて」   と智の肩をキュッと掴んだ。   「えー、忙しいのやだな…」   智が唇を尖らす。和也はその背中をつついて深く頭を下げた。   「どうぞよろしくお願いします」   顔を上げた時には翔はすでにドアの外にいた。この間、一度も和也に目を向けることも無く。 疎外はまだ続いていたようだ。   「じゃ、また」   翔は軽く手を上げ車に乗り込むと、滑らかなハンドルさばきで方向転換し、静かに走り去って行った。     ほっとして小さくなるテールランプを見送る。 見覚えのない外国製の車だった。過去も車もあっさりと置き去ることが出来る筈の人なのに、なぜ、智のパートナーとしての自分の存在を受け入れてくれないのか。   (まだ、僕のことを想っている?)   和也は大きくかぶりを振った。そんな事はあり得ない。2年前、気心の知れた仲間に集まってもらって二人の同居を報せるためのささやかなパーティーを開いた。その席で翔は同伴した恋人を紹介してくれたのだ。翔にお似合いのパーフェクトな女性だった。自分との過去を振り返って、翔はバイだったのかと驚いたのを覚えている。 その後も、恋の噂は何度か聞いた。相手が男でも、女でも。   (わけがわからない)   混乱したままでドアを閉める。   「和、もう寝よう」   和也の複雑な胸中など知る由も無く、智が甘えた声で擦り寄ってくる。   「うん、でも片づけないと…」 「そんなの明日でいいよ。ねぇ、早く」   キッチンに向かおうとする和也の腕をクィと引く。すでにその目の表情が変化しようとしている。   「う…ん、でも、このままじゃ…。10分待って」   その目に捉えられないように視線を外して答えた。   「10分もぉ?」   抗議の声に耳をふさいで作業を開始する。   「かずぅー...」   ソファーでクッションを抱えて、智が尚も呼ぶ。   「待って、もう少しだから」   和也はパタパタと動きを加速して、びったり10分で食洗機のスイッチを押した。   「ふう、終わった」   立ち上がり振り向けば、ソファーに智の姿は無かった。待ち切れずに先に寝室に行ってしまったのかとキッチンを出ると、テーブルの下から裸足の爪先がはみ出している。続いてスゥエットの脚とめくれた裾からのぞく背中、最後にテーブルとソファーの狭い隙間にピタリと納まった全身が見えた。     「智…」   そっと傍に座る。淡いグリーンのふわりとしたラグの上で静かな寝息を立てているその姿は、決して遭難した船乗りなどではなく、草原に羽を休める天使のようだった。 大分、酒臭い天使ではあるが。   そう。この安らかな寝顔を見られるのなら、翔の冷たい態度など何の苦にもならない。     (僕は、智がいつでもその羽根を休められるような、そんな存在でいよう。ずっと…。ふふ、てか、天使なんて…)   和也は大人の男に対してそんな事を思った自分に照れてしまった。 小さく笑いながら智の肩に触れる。   「…智、こんなところで寝たら、風邪引くよ…」   起きる気配はない。   (それならば…)   和也は立ち上がり部屋を出た。そして、2枚の毛布を抱えてくると、テーブルを押してスペースを作り、横たわる智にそっと掛けた。それからまた部屋を出て、すっかり寝る支度を済ませて戻り、部屋の照明を落として智の隣にゴソゴソと滑り込んだ。仄かな灯りの中、隙間無くくっ付く。 智にとって今日はかなりのオーバーワークだったようだ。和也が胸に額を擦り付けてもその寝息は乱れなかった。   大好きな香りと温かい体に包まれて、和也は深く呼吸をする。     (さいこぉ...)   至福の思いで智の背中に手を回せば、無意識なまま智もそれに応えて和也を抱き寄せる。 和也には見えていなかったが、淡い照明の中、智の頬にも小さな笑みが浮かんでいた。   そして二人は、草原で身を寄せる番(つがい)の小さな動物となって深い眠りについた。         もちろん、翔の事も和也の頭の中には欠片も残っていなかった。                   続く。  ポチッと押してね♡    

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  • 11 Jun
    • 空と 海と 君と 4

                  ― 智、和くん、いるの? 開けて ―   ノックの後のその声に、二人の動きがピタリと止まった。   「翔だ!」   触れ合う寸前の唇で嬉しそうに名を呼ぶと、智はパッと立ち上がった。   「翔…さん?」 「うん、絵が完成したことを知らせといたんだ」   一瞬、和也が眉をひそめた事には気付かずに、智はドアに走った。   「翔!」 「智!久しぶり!」     ドアを開けると智の親友の櫻井翔が満面の笑みを浮かべて立っていた。手には仕事着の赤いジャンパーを下げている。仕事終わりに急いで駆け付けたらしい。   「どうしたの?」 「どうもこうもないよ!!」   翔は笑顔のままでガシと握手をし、そのままその手を引き寄せて智の肩を抱いた。   「ちょ、翔、苦しいよ!」 「これが抱きしめずにいられようかっての。智、よくやった!」 「もぉ、大げさだな。まだこれからじゃん」 「いーや、俺は嬉しいんだ!」   尚もキツク抱きしめ、背中をパンパンと叩く。   「いっ、痛いって、ったく、馬鹿力なんだからー」   しかめっ面をしているが、聞こえてくるのは智の嬉しそうな声。   取り残された和也はテーブルの脇に立ち、そんな二人を黙って見ていた。     「元気そうじゃないか、脅かすなよ。『全部完成した。でも、動けない』なんてメール送ってきたくせに。その後、何度電話してもメールしても全然返事が無いしさー」     翔は低目のよく通る声で喋りながら靴を脱ぎ、組んだ肩は解かずに智と並んでリビングに入ってきた。   「こんばんは...」   和也の声は届かなかったのか、翔の視線は智に向けられたままだった。     櫻井翔は智の中学時代からの親友で、智の良き理解者だ。 そして、関東一円に三十の支店を持つ 『株式会社 櫻井文具』 の後継者でもある。櫻井文具は画家としての智の唯一のスポンサー企業だ。   智にとっては誰よりも大事な存在。 それは十分に分かっている。 自分のちっぽけな疎外感など、取るに足らないことであるということも。     和也は俯いて気付かれぬように小さく息を吐くと、静かに立ってキッチンに向かった。 さっきまでの熱い高揚感はとっくにどこかに吹き飛んでしまっていた。         学生時代から絵の才能は認められていたにも関わらず、とにかく目立つことが嫌いで、なるべく露出を避けていた智だったが、和也と一緒に暮らし始める少し前、翔の熱心な勧めにより櫻井文具の完全バックアップで初めての個展を開いた。直後、智の作品は待望していた関係者から絶賛を浴び、その評価が作品の価値を大きく左右するという歴史ある美術誌からも上々の評価を得た。   櫻井文具は画廊も経営しており、翔は智に向けられる画壇の熱と、今後何倍にも跳ね上がるであろう絵の資産価値とを敏感に感じ取り、3年後の今年9月開催を目途に智に制作を依頼した。その作品が今夜全て完成したのだ。     今の智が在るのは、全て翔のお陰。   和也はそっと心で呟いてビールを手に立ち上がった。     「さっそく打ち合わせをしようって思ってさ」 「そんなのいつでもいいのに」    リビングに戻り、改めてテーブルの向こうの翔を見つめる。 櫻井翔という男は、そこにいるだけで周辺の彩度がグンと明るくなるような華がある。仕草、表情、ファッション、全てがパーフェクトだ。その輝くオーラには、間接照明の柔らかな灯りなどとても敵わない。 こんなに完璧な男を和也は他に知らない。   「良くないよ。ねぇ、和くん」     「は、はい、よくわからないけど...」   その上、決してそんな自分を鼻に掛ける事などない。翔は、ようやく和也にもその爽やかな笑顔を向けてくれた。   「こっからが正念場なんだよ。忙しくなるぞ」 「えー、やだな…」 「何言ってんだ! 画壇の寵児が!」 「和、助けて」 「翔さんにお任せしとけば間違いないよ。ごはんまだですよね? 一緒にお祝いしてください。はい、ビール、どうぞ」   精一杯の笑顔を作るが、どうしても態度にぎこちなさが出てしまう。 その理由は明白だ。過去に半年間だけではあったが、和也と翔は恋人同士だったのだ。   楽しく語り始めた二人に背を向けて再びキッチンに入り、取り皿を用意する。態度が不自然にならぬよう、かなり気を使っている和也に対し、過去などその完璧な頭脳からはとっくに消去されているのであろう、翔の屈託のない明るい笑い声が背中に響く。   和也は一呼吸置いてキッチンを出た。   「忙しいのに心配かけてすみません」   何とか自然な態度で皿を置く。   「本当だよ。和くんも何度連絡しても返事もないし…」 「え? 本当に?」   慌てて携帯を見る。マナーモードにしたままの受信記録に、8件の不在着信が入っている。智の方は13件にもなっていた。   「まったく二人して音信不通だから、いらぬ心配したよ」   翔はビールを手ににこやかに笑った。   「すみません。でも、あんなメール、いつもの事だから、放っておいてもよかったのに…」 「いや、いや、有望な若手新進画家のスポンサーとしては、作品の出来も気になるわけさ。何だかんだ言いながらも、本当はここに来たかったんだよ」 「いつも自由に使わせてもらって、感謝してます」   無頓着な智の代わりにぺこりと頭を下げる。若い画家にしては贅沢過ぎるこのアトリエも、実は翔の父親である櫻井文具の社長の所有する物だった。   「どうぞ、食べてください」   すぐに食べられるようにと、デパ地下で買ったものがほとんどなので、味は保証されている。舌の肥えた翔にも何とか合うはずた。   「うん、でも、その前に絵を見に行ってもいいかな」   翔は一口飲んだ缶ビールをテーブルに置くと、料理には手をつけずにせわしなく立ち上がった。   「ほら、智、立って。案内してくれよ。俺、この瞬間を楽しみに一度も様子見に来なかったんだからな!」   と智の腕を引く。食事どころではないらしい。   「えー、後でいいじゃん。オレ、腹が減って…」 「それは俺だって同じさ。仕事終わってから直で来たんだから」 「でも、オレなんて激しい運動までやったから、身も心もぐったりなんだよ」 「え? 激しい…」   翔が怪訝な顔をする。   「ほら! 智、立って! 翔さんを案内して!」   放っておくととんでもないことを口走りそうだ。和也もあわてて智の腕を引っ張った。   「えー、もう…」   智が渋々立ち上がる。そのまま背中を押して廊下に出た。 翔が後に続く。   ふいの沈黙。背中がスッと寒くなる。     (あ、また…)     智と付き合いはじめてから感じる翔の視線。心がざらつく感覚。和也の前では、まるで過去等無かったかのように振る舞う翔だったが、三人でいる時、智の目に触れないと確信出来る瞬間、智の隣にいる和也に、強い視線を投げてくる。和也が今でも翔の前で委縮するのは、それに気づいているからだ。   視線の意味は…?     「はーい、どーぞぉ! おれの唯一のスポンサー様に感謝の気持ちを込めてお披露目しまぁす!」   数秒後、和也の心の揺れなどお構いなしに、智が創作部屋のドアをバンと開いた。                               続く。  ポチッと押してね♡  

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  • 10 Jun
    • 空と 海と 君と 3 再々々↑↑↑のⅲ

                              「あー、腹減ったー。朝から何も食ってない上に、あんなに動いたから、マジで死にそう」   食事の支度が済んだころ、シャワーを終えた智がキッチンに入ってきた。 勝手な言い草に思わず笑ってしまう。   「好きなのたくさん買ってきたからさ、早く食べよ」     智はリビングのテーブルを見てふにゃりと嬉しそうに微笑むと、しゃがんで冷蔵庫を覗いている和也を後ろから抱きしめた。   「カラダはちょっとだけ満たされたけどな...」   と、和也の項にキスを落としながら呟いて、   「でもまだ全然たりない...」       などと、耳孔に低い声を注ぎ込む。洗い立ての髪から項に落ちる水滴が、和也のカラダの芯で未だに燻る熱に落ち、ジュッ...と音を立てる。   「ほっ、ほら、早くテーブルに着いて。 何か食べないとほんとに死んじゃうよ?」   ゾクリと背中を何かが駆け上がったが、ありったけの理性を振り絞って肩を引きはがした。   「うーん、わかった。死んだらもう色んな事、出来なくなるもんな…」   智はふふっと小さく笑うと、最後にぎゅっと抱 き 締 めてようやく和也を開放した。   「………はい、これを持ってって」   思わず零れそうになっ吐息をなんとか抑さえて、智の空いた両手に缶ビールを持たせる。   (危ない危ない。また、バカップルになる所だった)   和也は冷えたサラダボールを胸に抱えて立ち上がり、フッと呼吸を整えて智の後に続いた。         「絵が完成したお祝い! 乾杯!!」  「おぅ、さんきゅー」   ローテーブルの角を挟んでラグに座り、ビールの缶をぶつけ合う。 ゴクリと一口飲む。冷たいビールが乾いた喉を潤しながらスーッと流れ落ちていく。その感覚が気持ちよくて三口ほど続けて飲んでしまう。   「あー、美味しい♪」   コトンと缶を置けば、智がビールを持ったまま、ぼうっとした顔で和也を見つめていた。     「どうしたの?」   首を傾げて覗きこむ。 心なしか智の目が潤んでいるような気がする。     「おれ、この一週間、和を思い出しながら頑張った。これが終われば会えるって」   この秋、久しぶりの個展が開かれる。 限られた時間の中で最後の仕上げの一週間、智はアトリエに籠り家に戻らなかったのだ。   「僕だって…。本当は、仕事なんか放り出してここに来たかった。でも、智が頑張ってるんだから、僕も頑張んなきゃって」 「和…」 「智…」   再び、二人の唇が近づく。   (いいや、もう一回だけ…)   ドンドン!   和也が誘惑に負けそうになったその時、玄関のドアをノックする音が聞こえた。               続く    ポチッと押してね♡  

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    • 空と 海と 君と 3 再々々↑↑↑のⅱ

               ゆるゆると意識が戻る。狭いソファーの上、背中に智が張り付いている。 結局、和也が到着してから2時間ほど、ただ、抱 き 合 い求 め 合 っていたことになる。   「はぁ...」   深い息を吐いて、未だ 絡 みついている智の手をなんとか解きソファーから降りた。   「はぁ…」   ふらつく足で脱ぎ散らかした服を拾って、もう一度息を吐く。   (覚えたての若いカップルじゃあるまいし、いい大人が何やってんの?)   軽い自己嫌悪に陥りつつ浴室に向かう。   (…だって、久しぶりだったし、あんな目で求められたら 抗 えるワケがないし…)   シャワーを浴びながら誰にともなく言い訳をしてみる。   (こんなにアト残して…)   気付けば、爪先からふくらはぎ、腿 の付け根からその 奥、腹 部 に二の腕、胸の尖りの周り…、体のアチコチに智の執着のシルシが残っている。見える場所だけでも数えきれないほどなのに、とてもじゃないが、怖くて背中を見ることなど出来ない。   (…もぅ、バカなんだから)   フワフワと白い泡で包んでみても、もちろん消えない薄青。 それがなんとなく嬉しくてつい頬が緩んでしまう。   (ふふ、しょうがないよね。智、僕のこと大好きだからさ)   浴室を出る頃にはすっかり気持ちも浮上して、鼻歌混じりにドアの前に置かれたままのマグカップを手に取った。   「智、起きて。ご飯食べよ」   ドアの隙間からモゾモゾ 蠢 いてる毛布に声を掛ける。   「…ちゅうしてくれたら起きる…」 「その手には乗らないよっ!」   性懲りもなく両手を差しだす智を、つんと無視して和也はキッチンに戻った。     (もちろん、僕もそうだけど)   などとカップを洗いながら微笑む横顔は、まるで淡い金色に縁取られているかのように優しく輝いていた。                  ポチッと押してね♡  

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  • 08 Jun
    • 空と 海と 君と 2 再↑

        (…相変わらずヘタ過ぎる…。再↑)       荒れ狂う波の音が聞えた気がした。   「すごい…」   正面の二百号はあろうかと思われる大きなキャンパスに描かれた嵐の海は、余りにリアルで、今にも覆いかぶさってきそうな迫力ある大波に、このまま引き摺り込まれてしまいそうで、思わず背中が震えた。     和也は、咄嗟に目を閉じかぶりを振った。 一呼吸して再びそっと目を開けた時、荒海の前に仰向けに横たわる智を見つけた。   絵具に汚れたシャツを着て、無精ひげを生やしたその姿は、まるで大波に呑み込まれて、浜に打ち上げられた船乗りのようだった。   無造作に投げ出された四肢。 少しだけ口が開き、目は閉じたままでピクリとも動かない。   「智!?」   驚いて駆け寄り、膝まづいて胸に耳を当てる。すぐに温かいぬくもりとリズミカルな鼓動が伝わってくる。 和也はほっとして体を起こそうとした。   「あ…」   ふいに腕を掴まれる。 そのまま引き寄せられて、再び智の胸に倒れこんでしまう。   「…智?」   背中に回された腕が食い込むほどにキツク 抱 き 締 められる。   「会いたかった…」   柔らかい声が、心音と共に心地良く耳に響く。    「僕こそ…」   智は和也の顔を胸に押し付けたまま体を反転させた。床に落ちそうになった肩を力強い腕がすくい上げて包み込む。体がぴたりと重なり、そして、二つの鼓動も重なった。   「和、シよう…」   吐息で囁かれて体に電流が走る。   「でも、お腹が空いて死にそうなんでしょ?」   抗ってみる。   「何より、心を満たしたい…」   和也の腰のあたりでもう一人のサトシがすでに存在を強く主張している。   「心より、カラダって感じだけど…」   智が顔をあげ、長い指で和也の顔を優しく撫でた。   「それは、お互い様だろ?」     目が、もう、すごく工口いよ…   視線を重ねて囁かれ、ココロを見透かされてしまったことに、益々呼吸が荒くなる。 自分では分かりようもないのだが、智に 抱 かれている時、和也の目の色と表情は全く変わってしまうらしい。 智は、ずっとそれを見ていたい、と言う。     「自分だって…」   和也は、真上にある智の顔の、額に掛かる髪を指でかき上げた。   「こんな目…」   形のいい眉からくるんとしたまつ毛、キレイな形の目の輪郭を指で辿る。普段は穏やかで優しいこの目が、欲 望 が 迸 る時、ギラギラと強い眼差しに変わる。   腰に伝わるサトシの脈動がさらに大きくなる。和也のモノもそれに応えて一気に膨 らみ、それだけでもう 達 してしまいそうになる。   ああ…   思わず目を閉じる。   「あ、閉じないで」   「だって…」   それは、容易なことではない。昂 ぶるとどうしても目を閉じてしまう。すると智は、それなら声を聞きたいという。声は逆に抑えることなど出来ない。   息を荒げた和也の上気した頬を、智のざらついた頬がちくりと刺す。その微かな刺激さえも全身を 疼 かせる。   「…ああ…ぁぁ…っ」   「いい… もっと聞かせて…」   囁く智の掠れた声と、カリッと噛まれた耳朶の痛みに、和也の理性は簡単に消え去った。         二人は 抱 き合い、揺れながら智が描いた嵐の海に呑み込まれて行った。                         続く。    ポチッと押してね♡  

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  • 07 Jun
    • 空と 海と 君と 1

            《 和也 》   伊豆の古い山道を、和也はかなりのスピードで愛車のクーパーを走らせていた。   市街地を過ぎて国道を逸れ、山道に入って15分ほど。 小型車が2台すれ違うのがやっとの曲がりくねった細い道、おまけに初夏のこの時期、左の土手上からは重たそうに青々と葉を繁らせた木々が枝垂れていて、視界が悪いことこの上ない。   (…!! くっ…)   急な左カーブを切った時、助手席の荷物がずり落ちそうになり、思わず差し出した右手につられて、左手のハンドルが大きくぶれてしまった。 慌てて両手で立て直したが、危うくむき出しの土手で車体を擦るところだった。   (まったく!)   悪態をつきながらもスピードは落とさない。ひびわれた古いアスファルトから小石が跳ねて、車体を弾く音がする。     ひと月前、6月の29歳の誕生日に買ったばかりのクーパーの艶やかな濃紺のボディーには、きっと小さな傷が無数に付いているに違いない。 明日、東京に帰ったら、すぐにメンテしなければと唇を噛む。   (まったく、もう!)   再び呟いた時、ようやく森が開けた。  樹木に覆われて薄暗かった風景は一変して、夕日に輝く海原が眼前に広がった。         何度見てもこの景色には心を奪われる。だが、今はゆっくりと眺めている場合ではない。死にかけている恋人を一刻も早く救済しなければ。 和也は、陽光煌めく夕暮れの海には目もくれず、ひたすら前を見据えていた。   画家の3歳上のパートナーの智から『死にそうだ。助けて』とSOSのメールを受け取ったのが、3時間前の午後2時。   『すぐ行く』   一言だけ返事を返し、勤務先のウインドーディスプレイ施行会社のオフィスで、作りかけていた見積書を大急ぎで仕上げ、依頼主のショップへメール送信すると同時に、上司に頼み込んで早退した。そして、デパ地下で救命物資の食料を買い込んで愛車に飛び乗ったのだった。   (智、もうすぐ着くから待ってて)   和也は、アクセルを尚も踏み込んだ。       久しぶりに会う恋人。 どうしても綻んでしまう横顔を、沈みゆく夕日が柔らかいオレンジに染めていた。       エンジンを止め、かさばる荷物を両手に車を降りる。 智が数年前からアトリエとして使っている、海に面した崖上の別荘地の小さなコテージは、いつもと変わらずそこにあった。     管理会社が定期的にメンテナンスをしてくれているので、外観はおとぎ話の白雪姫の七人の小人が住んでいるかのような、可愛らしい丸太小屋の体を保っている。だが、中にいる智はきっと悲惨な状態になっているはずだ。   まだ海の季節には早く、辺りに点在している他の建物は明かりもなく物音も聞こえない。そして目の前の、中に人がいるはずの建物の小さな窓も真っ暗だった。 静寂の中、風に運ばれてくる潮の香りに包まれてドアに近づく。ノックは多分無意味だろう。和也はそのままドアノブのキーホールに鍵を差し込んだ。   (…え? ウソだろ?)   鍵までもが無用だった。開錠することなくノブは回りドアが開く。 明かりの点いていない狭い玄関に足を踏み入れ、手探りで壁の照明スイッチを押す。 ふわりと柔らかな光がパッと室内を照らす。外観は丸太小屋でもリビングやキッチンなど、屋内は一通りの設備が備えてある。だが、外装に合わせた山小屋風の内装を、不粋な照明機器などで雰囲気を壊してしまわぬよう、照明は全て工夫を凝らした間接照明になっており、他の家電も全て木製のボックスに収納出来るようになっていた。    靴を脱いで幅広のオーク材の床を静かに歩き、誰もいないリビングを抜けキッチンに荷物を置いた。智がいるはずの奥の作業部屋からも、物音一つしない。   「…智、いる?」   何となく不安になり、忍び足で奥に向かう。作業部屋のドアは少しだけ開き中から明かりが漏れている。   「…智?」   そっと中を覗く。 途端に目の前に大海原が広がった。   静かな朝の海、明るい真昼の海、夕暮れの海、真夜中の海、雨が降り注いで波紋が広がる薄暗い海、荒れ狂う嵐の海…。          大小のキャンバスに描かれた様々な表情の海が、三方の壁を埋め尽くしている。和也はその迫力にただ圧倒されてその場に立ち尽くした。                           続く。  ポチッと押してね♡  

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  • 06 Jun
    • 何でもない独り言 お知らせ♡ 二宮さんのお誕生日に向けて。

          ご無沙汰しております。 あーーーっという間に6月。   大人買いした 《 ARE YOU HAPPY  ?  》 。 《 メイキング 》 や 《 Japonism Show 》 。   やっぱ、嵐さん、いいわー。 などど頷きつつ、リピしております。   大野さんの寡黙さ、翔さんの実直さ、相葉さんの柔軟さ、二宮さんのしなやかさ、松本さんの熱さ、齢を重ねるごとにどんどんいいオトコになっていく人達。 当分はアラシック、やめられそうにありません… (///∇//)。       さて、話は変わり、6月といえば、二宮さんのお誕生月でございます。   毎年、何かしらのお話をUPしておりますが、 今回もちょっと頑張ってみようかなと思っています。   でもね、実は今回のは大分前に書いたものなの。 4年、いや、5年前かな。   今でこそどっぷり 『 大宮担 』 な私だけど、 当時は、どちらかというと 『 山コンピ萌え 』 でした。 《!!衝撃の告白!!え━━━(゚o゚〃)━━━!!! 》   そういうわけで、二宮さんお誕生日月なのに、山さんたっぷりのお話をお届けしてみます。 (どーゆーこっちゃ…) (だって、このお話も表に出してあげたかったんだもの)     前半、二宮さんも出演してますが、山さん満載です。 特に翔さん、出番多いです。 甘々、少な目です。   大宮ブログなのに…、とは思いますが、 「 まっ、いっかー! ヽ(゜▽、゜)ノ 」 ということで、今晩くらいからお送りします。   あちこち修正しながらの更新になります。 その上、結構長めなので今月中に終わるかわかりません。 よろしかったらのんびりお付き合いくださいね。     では、後ほど。     ポチッと押してね♡    

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  • 30 May
    • 久しぶり、旅に行こうよ。9

          緩い登りになってる小径。 結構な距離がある先の方は、薄暗くぼんやりとしていてよく見えない。     あの日、よく晴れていたはずなのに、道の先が霞んでいたのは、 何度も何度も擦って腫れてしまった瞼のせい。           おおちゃんが、女の子といた。 肩を抱いてた。 一緒にエレベーターに乗ろうとしてた。 すごく可愛い人だった。 迷惑そうな顔してた。   おおちゃんが、女の子と…   ぐるぐる、頭ん中でさっきのシーンがループして、なんか、吐きそうになって。   「はい、着いたよ」 「あ、はい」   ぐったり沈み込んでたシートから慌てて体を起こして、取り繕った笑顔の僕に、   「あれ? 君、よく見ると可愛いな。ジャニーズとかいけんじゃない?」 「…はは、とんでもないです」   お釣りくれながらそんなこと言う運転手さんに、 僕、もうジャニーズなんです、なんて言えるはずもなく。   まだ、全然世間に認知されてなくて、 その分、全然自由で。   そう、何やったって自由なんだ。 おおちゃんが、彼女作ったって。   ………   …もう、いっかな。   ふらつく足で、ガイドブックで何度も見た美しい橋に向かう。   何がもういいのか、おおちゃんに彼女がいたからって、それがどうしたっていうのか。 自分でも分かんなくて踏み出す足がとても重くて向こう岸がとても遠くて、こんなよろけた足じゃ渡り切ることなんて到底無理そうで。             サラサラ頭上の葉擦れの音が、あの時の萎れたココロを呼び覚ます。   「オレ、あん時絶望のどん底でさ、橋歩きながらこのまま川ん中、飛び込もうかなって思った」     「ぅおい、そりゃ、ねぇだろ」 「そんだけショックだったっていうこと」 「自分で勝手に暴走しやがったくせに」     「ふふ、でもね、あまりにも観光客とかが多くてタイミング掴めなくてさ。そしたら、たまたまオレのこと知ってる子がいたんだ」               トボトボ歩いてたら、向こう側にいた家族連れみたいな集団の中から女の子が駆け寄ってきた。   「あっ、あのっ、二宮くんですよね?」     同じ年くらいの髪の長い可愛い子。   「…そうだけど、僕のこと、知ってるの?」 「はい! 私、ファンなんです!」 「え?うそ、なんで?」 「ドラマとか舞台とか見て、いいなーって思って」   ほら、って見せてくれたピンクの携帯、パカッと開いた待ち受けは精一杯のアイドルスマイルの自分。   「わ…、どうもありがと…」 「今日はお仕事なの?」 「う、ううん、休みで遊びに来たんだ」 「あ!もしかして大野智くんとこ?」   いきなりのビンゴで、心臓が飛び出しそうになった。   聞くところによると、その子は結構なジャニヲタで舞台とかも結構見に行ってるらしかった。そして、大野さんとは地元が一緒で小学校も近かったらしく、すっごく応援してるんだよって、熱く語った。   「今日、大野くん誕生日だもんね。お祝いに来たの?」 「…うん、まあ」   …そういえば、リュックどうしたっけ。 あん中にプレゼント、入れたままだ。   ― 行くよー。  「はーい!」   向こうから母親らしき人に呼ばれて、女の子は焦って早口で続けた。   「ずっと応援してるから頑張ってね。大野くんにもおめでとうって伝えてね」 「…うん、ありがとね」 「そのうち二人、おんなじグループとかでデビューしてくれたら、最高なんだけどな」 「はは、それは無いよ」 「ざんねーん、あ、握手してもらっていいですか?」 「もちろん」   差し出された手を両手で包んで握手したげて、 きゃあ、って頬を真っ赤にして走ってく女の子にバイバイって手を振ったら、いつの間にか水に飛び込む気分はすっかり失せてた。     こんな、ジャニーズの最下層にいるような自分のこと、見てくれてる人もいるんだなあって胸が一杯になって、貴重なオレのファンのあの子の伝言、大野さんに絶対伝えなきゃって使命感に燃えて、僕は無事に橋を渡り終えた。               「すげぇな、その子、預言者だな」 「うん、まさか、その1年後にほんとにデビューするなんてね」   今でも覚えてる。古い型の携帯、小っちゃい画面の、今とは比べ物にならないほどの不鮮明な待ち受けの中のオレ。     得意げに見せてくれたあの子は、今頃どうしてんだろう。 きっと、結婚して子供とかいて、一緒にご飯食べながらテレビに映ったオレらを見て、そういえばあんなことあったな、なんて思い出してくれてんだろうか。   それとも、そんなことなんかすっかり忘れてて、テレビももちろん『プレバト』かなんかで。 ふふ、それとも嵐さんよりもジャンプくんとかに嵌ってたりして。   「何、笑ってんだよ」 「うん? すごいなって。人に歴史あり、オレらに歴史ありだなって」 「はぁ?」   あ、あの先のベンチ、あん時のじゃね?               どうしよう、戻ろうか、でも今戻ったらきっとあの女の子と一緒だろうし。 このまま帰ろうか、あ、でもリュック無きゃ困るし。   径の脇の休憩スペースのベンチで膝を抱えて、溜息をつく。   迷って、悩んで見上げた空。     凛と立つ竹の隙間から、眩しい秋の空が煌めいてる。 目に沁みるほどの緑と青と。   どうしてこんなにキリキリ胸が痛いんだろう。 どうしてこんなに泣きたくなるんだろう。 どうしてこんなにおおちゃんのこと、憎たらしいんだろう。   …なのに、どうしてこんなに逢いたいんだろう。     僕は、おおちゃんのこと…     「いた! かず、見つけた!」   「…え、ええっ? おおちゃ…ん?」   なんで、なんで…?   「こら、逃げんな!」   ベンチを降りて走り出そうとした僕に、おおちゃんは怖い声で怒鳴った。 固まった首をギシギシ回してそっと振り向けば、僕の重たいリュックを背負ったおおちゃんがゆっくりと近づいてくる。   「…?」   あと10mってとこで、体を追って膝に手を着いてハアハアと息を荒げてる。   「…どうしたの?」 「そ、そこに居ろ、逃げんなよ」     おおちゃんは、体を起こしてまたこっちに向かって歩き出した。 僕は足まで固まってしまって、前にも後にも動けずにゆっくりと歩いてくるおおちゃんを、ただ見ていた。   「ハアハア、なんで、おま…、逃げんだよ…」   ようやくベンチまで辿り着いて、ドサリと座りこむ。 キレイな顔を、ギュッとしかめて。   「おおちゃん、顔、真っ赤…」 「近づくな、感染るぞ…」   あ、って呟いておおちゃんはポケットからマスクを取り出して鼻と口を覆った。   「…風邪?」 「インフルエンザ…」 「え…」   思わず手を伸ばし、汗ばんでる額にそっと触れてみる。   アチ…   指先に感じた温度がびっくりするくらい熱くて、ハアハア、呼吸も浅くてすごく苦しそう…。   「…大、丈夫?」 「…大丈夫じゃねぇよ」 「なんで…」 「かずが逃げっから」 「…だって…」 「ヘンなこと想像してっだろ」 「…だって…」 「ばぁか…」   キツそうに閉じてた目が少しだけ開いて、いつもの優しいたれ目になった。   「…お、お、ちゃ…」   どうしてこんなに胸がキュッと縮むんだろう。 どうしてこんなに嬉しいんだろう。 どうしてこんなに嬉しいのに、涙が出るんだろう。   「う、うぅ…、ふっ…」 「泣くな。かず、おれの誕生日、祝ってくれんだろ?」   おおちゃんの開いた手の平の上、ゲームキャラクターのストラップ。       主人公よりも脇役が好きだから、僕がマリオでおおちゃんはヨッシー。   「リュックのポケットに入ってた。リボン付きの袋ン中」 「うん…、こんなのしか上げらんないけど」   嬉しいよ…っておおちゃんは僕をギュッと抱きしめた。   「でも、おれ、ほんとは他の、もらうつもりだった…」 「何を?」 「…んなこと、言えねぇ。こんなとこで」 「…?」   なんかよく分かんないけど、おおちゃんの顔がもっと赤くなって、背中に回った手がもっと熱くなったから、僕はマジで心配になって立ちあがった。   「帰ろ。おおちゃん、このままじゃ死んじゃう」 「…死にゃあしねえけど」 「だって、すごい体が熱いよ。さ、早く立って」 「こんままじゃ、心残りあり過ぎて死ねるワケねぇ」 「ゴチャゴチャ言ってないで、ほら、立てる? もぉ、フラフラじゃん」   「…一体誰のせいで…」       それからヨロヨロのおおちゃんを支えて、なんとか一般道まで歩いてタクシーを拾った。 おおちゃんは車の中でもずっと苦しそうに目を閉じたままで、時々、うわごとみたいに僕の名前を口にしてた。   神様、おおちゃんを助けて。   「かず、待て、行くな…」   行かない、どこにも行かないから、神様、お願い。   ようやくマンションに着いた。   「あ…」   エントランスに立っていたのは、さっきの女の子……? あれ? 女の子だと思ってたけど、よく見るともっと年上で、なんか、薄いピンクの上下、多分ナース服を着てる。   そして、ヨタヨタと入ってくる僕らを、腕組んでギッと睨み付けてる。   仁王立ちって、こういう感じ?   「智くん! あなた、死ぬ気?!」 「…るせぇ」 「とっとと部屋に戻んなさい!!」   怒鳴りながら、バンバンと音を立ててエレベーターの上昇ボタンを叩いている。   …なんか、状況が見えてきた。   押し黙ったまま、降りてきたエレベーターに乗り込む。 ほんとはすごく可愛いのに鬼の形相の、多分看護師さん。   ハアハアと、苦しそうな大ちゃんの浅い呼吸だけが、狭いハコの足元に溜まっていく。   そして、この最悪な状況の原因が僕だってことも。                   続く。   ぽちっと押してね!  

      302
      テーマ:
  • 15 May
    • プロフ画バトン♪

        ★ バトン、いただきました。どうぞ ★ ★ 二宮さんのラジオにお邪魔しました♡ ★       カズナリニノミヤのベイストーム!     はい、嵐の二宮和也がお送りしますベイストーム、では次のコーナーです。   えっと… んん? あれ?   ごめ、ちょっとオフってもらえる?   ね、何これ、台本白紙だよ? もう、終わっていいってこと?   え? ゲスト? 聞いてないけど。     サプライズって何よ。 誰? オレの知ってる人?   え? 台本の最後…って、名前しか書いてないけど。   女性…だよね。 ってか、名前に『子』がついてる時点で、結構な年齢なんじゃないの?   …知らねぇな…、何やってる人?   なんで、なんも情報無いのさ。   それでこそのサプライズ、って、ふふ、何だよ、それ。 ふーん、ま、いいけど。   やりますよ、やればいいんでしょ。 お話聞けばいいのね。 テーマもこの人が持ってくるワケね。   ああ、もうそっちでスタンバってんだ。 キュー待ち?   はいはい。       はい、それでは次のコーナーです。   今日は、ゲストが来てくださってるんですって。 サプライズだかなんだかでよくわかんないだけど。 どーぞー。   はーい、こんばんはー。   ……………………。   あららー、ラジオで沈黙はダメでしょ。 ライブだったら放送事故ですよ?   …ごめん、オフって。   わー、ラジオって、こんな狭いトコで録音するのね。 あ、これがカフスイッチってやつ?   あ、こら、イジんな!! なんなの?   はい?   なんでおばさんがこんなトコにいるのかって聞いてんの。   サプライズゲストってことで呼ばれたんですけど…。   ねぇ! 誰かこの人連れてってくんない? …あれ、向こう、誰もいない。   あ、これ、預かってます。   封筒? (ガサガサ) 【やむを得ない事情により、10分間ほどそちらの女性にインタビューをしてください】 インタビュー? 事情ってなんだよ。 【私たちには分かりませんが、上が言うには、二宮さんはご存知だろうとのことでした】 …知らねぇよ。 【とにかく上の判断です。従ってください】 ヤだし…。 【インタビューが順調に終了したら、今日と明日、オフになります】 …まじ? 【上からの指示です。その女性はジャニーズ事務所にとって、かなりの弱みを握っていらっしゃるようです】 …うーん、それ言われると心当たりがある様な…、 ってか、脅しかよ。 【くれぐれも逆らわないようにとの厳命が出ております】 …わかったよ。 【別室で待機していますので、終了したら連絡をしてください】     はぁ…     あ、これ、食べます? うちの近所の店のたこ焼き。     なんか臭ぇって思ったらそれかよ。   タコしか入ってない超シンプルなヤツなんだけど、すっごく美味しいのよ。 冷えても美味しいって珍しいでしょ?   …何、企んでんだよ。   いいから、ほら、食べてみて。   (ムグムグ) …美味い…   でしょ? 二宮さんみたいな貧乏…いや、庶民派の舌にはピッタリなのよ!   ふん、どーせ、イイもん食ったら腹壊すようなヤワな胃袋だよ。 じゃなくて、インタビューって何だよ。   そうそう、これなんだけど、読んでみて。   なに、テーマ? プロフ画バトン?  ① プロフ画を貼り、何故そのプロフ画なのかを語る  ② 2人の人に回す  ③ ハッシュタグ #プロフ画バトン を付ける ふーん、こんなのおばさん仲間で流行ってんの?     たまにね、こういうのを企画してくだる方がいらっしゃるの。 せっかくバトンパスしてくださったのに、私で途切れさすわけにはいかないでしょ?   だ・か・ら、それとおばさんがココに来んのとなんの関係があんのさ。   そこは、ねぇ。どうせなら楽しく書きたいじゃない? 同じサトシックである二宮さんに、ぜひ、協力していただきたいと思ったのよ。   どーせ断れないんだろ? いいよ。とっとと済ませよう。 あ、たこ焼き、もう一つ頂だい。   どーぞ、どーぞ。   (ムグムグ) まじ、タコしか入ってねぇ…。 じゃ、進めるよ。 え…と、まず、おばさんのプロフ画、って、どんな?   ふふ、これでぇーす   ああ、 『an・an』2014年4月16日 の表紙だね。   正解! さすがだわー。   ふふ、オレだぜ? サトシック、第一号のにのさんを甘く見んなよ。 表紙ってのなら、こっちも好きだけど。 2012年6月20日 のやつ。   あー、この中身、インパクトあったわよね。   そーそー、全然脱がねぇくせに、やたら色っぽいってヤツ。 ま、ね。オレが脱ぐなって言ったんだけど。   やっぱりそうなのね。   これなんか、正確には予告のヤツだけど、破壊力半端ねぇよな。   これ見て、サトシック全員、どんだけ期待して発売日待ってたことか…(///∇//) 。 一部では 『大野智、脱ぐ脱ぐ詐欺事件』 なんて言われてたのよ。   誰が見せるか。勿体ない。 オレだけが知ってりゃいいの!   はいはい┐(´∀`)┌ヤレヤレ。 『an・an』の表紙って、意外とあるのよね。 とか、 とか。   そんなある中で、なんでソレなワケ?   何と言っても美しい横顔。あと、この後頭部の髪のハネ具合。 それと、ニットの色、やっぱ Blue よね。     これでなきゃって理由はないんじゃん。   ま、そうね。 それまで自分の顔を模したアメーバ提供のイラストっぽいの使ってたんだけど、丁度、変えたいなって思ってた頃にこの美しい大野さんと出逢ったってワケで…   はい、特に理由は無いそうです。 以上、インタビュー終了でぇす。   ちょっとぉ、もう少しお話しましょうよー。   えー、もういいよ。   私にバトンをくださった ナツコさん (リンク貼らせていただきました♡)は、もうね ほんとにステキな大宮物語を書かれる方なの。お二人のこと大好きで、プロフ画は二宮さんなんですよ。 ほら。   あら、可愛い。   良い笑顔よねぇ。 私も、この笑顔大好き。 もちろん、この目線の先には大野さんがいらっしゃるからこその宝石箱のようなキラキラの笑顔なんでしょうけどね。   へへ、実はこのあと、Jに怒られたんだ。 『あんたら、ダダ漏れだよ!もっと気ぃつけて』 って、耳元で言われてさ。ニッコリ笑った口元とギロリとマジな鋭い目で。 怖ぇ〜って大野さんとビビったんだぜ?   でしょうねぇ〜。 これじゃぁね。   いいんだよ。 オレらが円満なのが、おばさんの生きがいでもあるんだろ?   ご理解くださりありがとうございます。 今後とも仲睦まじく、私たちにたくさんのネタを提供してくださいね。   はいはい。 ということで、お時間となりました。 今日のゲストは、ただのおばさんでした。 一体この時間は何だったってことですが、とりあえず、この団子みたいな質素なたこ焼きは美味かったです。 それでは、また来週!   また、来まぁ〜す   二度と来んな ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ バトン、上手く受け取ることが出来たでしょうか?(;^_^A そう、特に理由はないんですけど、このころのビジュアル、好きだったんです。     これもイイよねぇ〜。 ああ、カメになりたい…。   (充分ノロマなカメだけどな。ムグムグ)           おしまい。 バトンを渡す方、まだ決まってないのです。 引き受けて下さる方、どなたかいらっしゃいませんか? このままでは途切れてしまうかもです…。     ポチッ押してね♡            

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      テーマ:
  • 08 May
    • 私と 社長と るか♪ と るい♪   3

          ☆リカちゃん。何と一話目は2月だったという(;^_^A。←あ、正確には1月7日の独り言にリカちゃんも出てるけど。   というわけで、内容、一部時期外れです(^_^;)☆         美味しいハンバーグ食べて、子供たちとお風呂。 その間に片づけ全部社長がやってくれた。   洗濯物片づけたりしてる間、社長がおままごとのお相手。     社長のぶっきらぼうな夫役が逆に新鮮なのか、きゃあきゃあ笑いながら大盛り上がりの我が子たち。   でも、もう9時を回ってる。   「二人とも、もう寝よっか。社長もお風呂入んなきゃだし、明日、おばあちゃんたちとお出かけでしょ? 起きれないよ〜」   何でも地元の商店街で、『孫と一緒に雛祭り』をテーマにお餅ついたり折り紙したりするとか。 そういうイベント事、ありがたいわぁ。 爺様、婆様、感謝感謝。   そういうワケで、久々一人の時間を満喫しようって思ってたのに…、   「ありがと、いい風呂だった」   ・・・・・・////////。   子供たちをようやく寝かせてリビングに戻ったら、風呂上がりのやけに色っぽい社長がいた。     早く問題を解決して差し上げて、お帰り頂かないことにはあたしまでクラクラしそうだわ/////。   「バスソルト、効くでしょ? たまにはゆっくりお湯に浸かればいいんですよ。シャワーばっかじゃなくて」   そのコチコチの脳みそもリラックスして、思考も明るくなりますよー。   「湯船にも浸かってるよ。でも、智がカラスの行水だからさ、すぐ出ちゃうんだよね~」   ……はいはい、二人一緒にご入浴ってことね。 ラブラブじゃない。言ってる本人、無自覚だけど┐(´∀`)┌ヤレヤレ。   ダンナなんて子供とは入るけど、私と一緒には入らないのよね。 ってか、ダンナ、体大きいから狭くて入れないっていうのが実情だけど。   「リカちゃん、ビール飲んでいい?」 「どーぞ、自分で持ってきたんだし」   ま、社長と大野さんなら、こじんまりしてるから大丈夫でしょうけどね。   「なんか、つまみねぇの?」   キッチンで冷蔵庫ゴソゴソ、まるで自分ちね。   「野菜室に、本場仙台の牛タン燻製が入ってるから、開けていいですよー」 「おー、さんきゅ」   社長、なんかカタカタやってたかと思うと、薄く切った牛タンとレモンスライス、夕食のハンバーグの付け合わせに使ったアスパラの残りを彩り良く皿に並べて持ってきた。   ずいぶん家庭的になったものね。 前は、サラミソーセージとか、そのままムシャムシャやってたような人だったけど、   「リカちゃんも飲もうぜ」   ほい、って缶ビール差し出して、にっこり、キラースマイル。   …………はぁ、   大野さん、浮気どころじゃないわよね。 こんなに可愛くて色気ダダ漏れの恋人がいるんだもん。   確かに一人にしておくのは心配だわ。 さっきの電話、正解ね。   ったく、一体、何勘違いしてんだか。 普段はキレキレに頭いいのに、大野さんが絡むと女子より女子になっちゃうのよ。   ね、ビールをそんな可愛い仕草で飲む三十路って、中々いないわよ? 女子力、半端ないわぁ…。     「何、見てんのさ。サッサと飲めば? ぐふふ、ヨダレ出てんじゃない? いいんだよ、太ったって。ダンナも子供も手に入れたんだからさ、もう欲しいもんなんかないだろ?」   …ギャップよね。   「そうなんですけど、妊娠、授乳中に禁酒してたから、大分弱くなってるんですよね~」 「いいじゃん、付き合えよ」 「社長だって、あんまり強くないくせに」 「飲みたい夜もあんだよ」   酔わなきゃ言いにくいってことね。   「わかりました。じゃ、乾杯しましょ」   カンパーイってカツンとぶつけた缶ビールはキ〇ンの期間限定。     社長のお気に入りは別のメーカーだったはずなのに、大野さんとお付き合いし始めてからは、ずーっとこれ。 理由は単純。大野さんが好きなヤツだから。   「で、何がどうしたんですか?」   ハムハムと牛タン齧ってる社長にきっかけを与えてあげる。   「…何って?」 「大野さんが浮気したんでしょ? MJと」 「…そんな、はっきり言わなくても」   口尖らして俯いて。イライラするくらい可愛いんですけど。   まあね、痴話喧嘩に首突っ込むべきじゃないとは思うんだけど、この勘違い社長が落ち込むとあとが大変なのよ。 前もあったけど、会議すっぽかすは急に出張取りやめるは、思いっきり仕事に影響するタイプだからね~。 職場復帰早々、トラブルはごめんだし、とっとと浮上させてやんないと。   「証拠はあるんですか?」 「……智、約束破った」 「どんな?」 「今夜さ…」   牛タンぶちぶち千切りながら言うことには、今夜一緒に夕食食べようって約束してたらしい。一緒にハンバーグ作ってお酒でも飲んで。 明日はお休みだから、久々にゆっくり出来るって思ってずいぶん前から楽しみにしていたらしい。 まぁね、社長も忙しいし大野さんも売れっ子だし、おまけにあんな大きな仕事も入ったしね。   「…なのに、智、急に仕事になったって」 「MJと?」 「うん」 「お仕事ならしょうがないでしょ」 「ウソなんだよ。仕事って」 「へ?」 「ホテル、行ってんだ。二人で」 「…どういうこと?」 「だから、今頃二人でイイコトしてんだよっ!」   …何言ってんの?この人。 もっかい言ってもいいかな。   「バッカじゃない」   「…バカ…って…」   「社長、テレビの中継見ました?」 「智が招待されたヤツ? 見ねぇし。そんなの」   アイツと一緒のヤツなんて、見れっかよ…   呟き声、漏れてます。   今日は、作家の『城島茂』が文学賞を受賞した祝賀パーティが開催されてて、大野さんも表紙のイラストを担当してるからお招きがあったわけなんだけど。   その小説が映画化されることになって、その発表も兼ねてるんだって。 昼に記者会見の様子が中継されてて、大野さんが映画のポスターとかアメニティグッズとかのデザインにも参加するってことで、スタッフの一員としてMJの隣に居たのよ。   「録画してるから見てください」 「いいよ、見ねぇよ…」   …え? 涙?   はぁ、大野さぁん、なんとかしてくださぁい。   MJの名前で自動録画してるから…、あ、これこれ。 これ、見せたらなんとかなるでしょ。   私だって、引いたもの。 大野さん、すごい人だって思ってはいたけど、ここまでとは思ってなかったのよね。   ほら、社長、あなたの好きな大野さんですよ。   ちゃんと見て聞いてください。     その後なら、いくらでも泣いていいですからね。                     続く。    ポチッと押してね♡

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プロフィール

fu-min

性別:
女性
自己紹介:
嵐、特に大野さんに嵌って7年。色んな方のブログを訪問しているうちに、自分も何かを書きたいと思って、大...

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