「こんにちはーー!」
入り口を見ると先日お買い物されたお客さんだった。
「今日は買い物ではないんですけど、見せたいものがあって来ちゃいました。」
先日、娘さんの誕生日に服のプレゼントを買いにきたばかりのお客さんはバッグからスマホを取り出しながらこう言った。
「服送ったら、早速2人で着てくれて、写真を送ってくれたんですよ。
すごく似合ってて、見てもらいたいなぁって…」
スマホには娘さんと娘さんの旦那さんがテーブルを挟んで座っている写真が写っていた。
2人ともうちの服を着てくれて、テーブルの真ん中には誕生日ケーキが置かれていた。
「旦那さんにも服を選んでよかったぁ。ちょっと袖が長かったって言ってたけど、2人とも気にいってくれて。すぐにFOXってバレました(笑)」
お客さんは報告を終えて、にこやかに帰って行った。
僕は猛烈に感動してしまって、危うくお客さんの前で涙が溢れそうになった。
特別、密にしてるお客さんというわけではないが昔から来てくれてるお客さんで、プレゼントを選ぶ時はお客さんのお母さんも一緒で、サナエさんと僕と4人で、娘さんの(お孫さんの)服をコーディネートして選んだ。
娘さんは学生時代一緒に来ていて、今は嫁いで遠方にいる。
あのお母さんの嬉しそうな顔、2人の写真を見る優しい眼差しに、胸を打たれた。
こんなにも穏やかで優しい顔を見せてくれたのは初めてだった。
商売って。って思う。
これが理想なんじゃないかって。
¥10000プロジェクトとか言って、今一生懸命やってるから余計に思うのかもしれないが、数字を上げる努力なんかより、大切なものがある。
お金に変えられない体験の価値は何で計ればわかるものか。
数値化出来ない事柄を毎日研鑽していく不透明な努力の積み重ねが商売の醍醐味なのではなかろうか。
だからと言って売り上げを無視は出来ない。¥10000プロジェクトをないがしろにするわけではなく、ちゃんとした目的を持つべきだ。
¥10000の売り上げではなく¥10000分の幸せを創り出す。
僕たちは服に売っただけなのに、こんなにも素敵な対価を頂いた。
僕たちは僕たちらしく商売を続けていくことが、お客さんの幸せに繋がるのなら本望だ。
お店で過ごす時間が、僕らにとっても、お客さんにとっても、特別なものになるように。
その想いで日々頑張ろう。
未だにこのことを思い出すと目頭が熱くなる。
¥10000プロジェクトの緊張の糸が、ビヨン!と強く弾かれて、張り詰めていた何かしらがボトボトと落ちていった。
いけないいけないと、ひとつひとつ拾い集めて、両手に抱えて胸に当てると、まだあの糸が揺れていることに気づく。音もなく振動だけが、心に響く。
手塞がりのまま立ち尽くし、その余韻に何度も何度も目頭を熱した。
喜びと戸惑いと悔しさと無力感が僕を覆う。
もっと成長しないと。