渋谷ヒカリエの5階
茶庭 然花抄院(ぜんかしょういん)で
「京のぶぶ膳」ささっとかけこんでから
明治通りを南へちょこちょこ。


とあるビルに入って
エレベーターで4階に上がったら…


ハーモニカの奏でる
童謡のメロディが
耳に流れてきました。


まさしく4畳半に敷かれた畳に
ちゃぶ台がポツン。


その端には
衣装ダンスが横並びに2さお。


それに寄りかかったまま動かない
華奢な背中の
パジャマ姿の女性…


{8927419C-B311-4F28-B2FE-03FA292CB312:01}
演劇ユニットえうれか さんの
『蝶のやうな私の郷愁』
観てきました。


*:..。o○☆゚・:,。*:..。o○☆


会社から夫が帰ってきました。


パジャマ姿の妻は
早速、夕餉(ゆうげ)の膳を
ちゃぶ台に揃えます。


食事もそぞろに
まさに今
直撃しつつある台風を気にして
新聞の紙面を目で追う夫。


そんなことはお構いなしに
駅前に出来たマンションの話を
しきりに夫に振る妻。


噛みあわないやり取り…
でも、どこかのんびりとした
結婚して、そう日が経っていないだろう
夫婦の会話が続きます。


突然、部屋の灯りが消えました。


たまたま買っておいた
ろうそくを探す夫。


暗闇の中
妻は手に触れた何かを
耳に当てます。


ざ・ざっと波の音が聞こえます。
貝殻です。


夫に尋ねます。


これは誰へのお土産?
亡くなった姉さんへの…


*:..。o○☆゚・:,。*:..。o○☆


やがて、ろうそくの灯が
辺りを薄ぼんやりと照らしてからも
夫婦の噛みあわない会話は続きます。


ですが、その内容は…
おっと! 千秋楽はまだなんで
ここいらで要らぬお喋りはストップ!


だもんで
雰囲気だけでもお伝えすると


淡々と続くテニスのラリーのように
(錦織(にしこり)クン、惜しかったなぁ)
穏やかな口調とは裏腹な
言葉の真剣勝負が交わされるんです。


ろうそくが灯るだけの空間は
風雨で荒れ狂う部屋の外
無視するかのように
お通夜の晩のごとき静けさ。


その場には、夫と妻。
そして
踏切事故で逝った妻の姉まで
部屋の端に
たたずんでいるように感じられます。


芝居が終わるまでの70分
これほど神経を研ぎ澄まして
互いのセリフに集中を強いられたのは
初めての経験でした。


小林英樹 花村雅子
お二人の役者さんの力演に
心からお礼申し上げます。