翔「あの・・あの、お兄さんは大事なヒト、というか大切なヒト、いらっしゃるんですか?」
翔は半分くらいモヒートをゴクゴクと飲んで思い切って言ってみた。
*「オレ?オレはぁ・・・」
マスターが男をギロリと見てまた直ぐにグラスを洗った。
*「いるよ・・・。」
翔「あの・・ケンカとか、一旦離れたりとか会えなかったりとか、した事ありますか?」
*「・・・。フフ・・まぁ今がそんな感じだな・・。っていうかずーっとかな・・。」
翔「ずーっと?ああ、海外とかの遠距離とか?」
*「遠距離・・海外・・・そうだな・・そう想ってりゃいいのかな」
翔「?」
*「・・・オレ、何回か振られ中なんだよ。」
翔「振られ中?・・と言うと」
*「そのまんまだよ。今最新で振られて待ち?って感じ?」
翔「あ、ああ・・・。どんなヒトなんです?」
*「ん?」
翔「いやぁ・・何回も振られ中でも果敢に向かっていきたくなるヒトって・・・」
*「あはっ・・そうだなぁ・・・。凛として強い女かな。」
翔「強いヒト!おぉ!」
*「外見はめちゃくちゃ可愛いくてか細ぇんだけど、中身はほんっっっっっとつえーの!鋼よ、鋼。頑固だし、ワガママばっか言うし、うぇんうぇん泣くし、ギャハギャハ笑うし、ギャンギャン怒るし、忙しいのよ。子犬みてーに。」
翔「なんだか楽しい人ですね」
*「楽しい?・・まあそうだな・・楽しいっていうか、ずっとドキドキするっていうか、生きてるって感じするよな・・・。」
翔「生きてる・・・」
*「ああ。ドキドキって言うのは、女としてっていうより、人としてっていうか、ドキドキハラハラすんだよな。おいおい、それやっちゃうのかよ。おい、それやったらあぶねーぞ。あら?それ知らなかったのね?、ん?そこ??、みたいなさ」
翔「あはは!なんかほっとけない人なんですね?」
*「ああ、そうだな。ほっとけねーな・・・。」
男は少し遠い目をしながら、マスターに出された新しい黄金色を口にした。
*「今は、少し大人になったみてーで、俺の手元にはいない。もういくつ目かの恋もしてるんだと思う。でも俺はほっとけないし、いつでも俺のとこに来いって思ってるし、アイツにもそう伝えてはある。」
翔「うわー・・何か大人だなぁ・・・俺は、自分の手元に置いておきたいし、いつでもとか言えない・・・。」
*「ふふっ、俺だってホントはそう思ってるさ。でも、アイツがアイツの好きな奴といて幸せならそれでいい。今はアイツの泣き顔がいっちばん嫌いで見たくない。俺のとこにいて泣き顔なんてさせないし、ツラい顔は誰にも見せないヤツだから、せいぜい悔しい顔は見る時あるかもな。
でもその悔しい顔は外で俺以外のとこで頑張ってる証拠だから、逆に惚れちゃうんだよなぁ・・・俺・・・」
翔「あ、なんかわかります!!俺も、彼女の悔しい顔、何とかしてやりたい気持ちもあるけど、それ超えちゃって、惚れ惚れしちゃうんですよねぇ・・。泣き顔は、たまに見たい・・・かな・・・。綺麗というか、彼女の涙が頬をつたうの、こう、なんていうか、美しいんですよ!」
*「ふふふっ・・・」
翔「で、で、そういう時って勿論誰もいないとこだったり、夜なんですよね・・。で、月とかが綺麗な日だと、もうなんていうかヴィーナスみたいな!柔らかい髪がこう、ゆらゆらしてて、小さい顔に少しかかって・・・。・・・・・会いてぇなぁ・・・。」
翔はガクリと首をうなだれ、眉をひそめ目を閉じた。