舞台版殺人鬼フジコの衝動@俳優座
4/21マチネを見てまいりました。
ネタバレをふんだんに含みますのでご注意下さい。

原作は殺人鬼フジコも私はフジコもインタビューインセルも読みました。
所謂『イヤミス』というやつ(読んだあとに嫌~な後味の悪さが残るミステリー小説の通称)で、原作は一気読みしてしまう程の面白さが有りながら最後の一行を読み終わったあとに放心して、なぜこれを読んでしまったのかとほんの2時間前の自分を恨めしく思うようなものでした。

そんなフジコの舞台化と聞いて、ぶっちゃけ最初はふざけるなと思いました。
映画にしろ舞台にしろ、人気小説やらマンガやらの原作がある作品はどれも設定が中途半端だったり原作の雰囲気をぶち壊しにしていたりで、なんだかなーと思うものばかり。
原作の衝撃が強すぎるフジコもきっと例に漏れず糞つまんない犬も食わない作品になるのだと、そう思っていました。

けれど、見ないで後悔より見て後悔のほうがいいし、みつぅさんでるし、天馬侠と日程かぶってるし。
折角だからまぁ、見にいってみようと思ったのです。

結果。

見にいって本当によかった。
見にいかなかったらすごく後悔していたと思う。
チケット取ったあのときの自分GJ!





ステージには錆びた暗い色味のないセットがあるのみ。

客電が落ちてから本当に終わるまで舞台に惹きつけられました。
座り直したり、足を組み替えたり。
そんな集中力の途切れが存在しませんでした。(ただ途中地震があったのでその時ばかりはうぉっ!?となりましたが)

フジコの家族が惨殺されるシーンから始まる。
ガキさんの演技を見るのは初めてだったが、なかなかいいなと第一印象。
憑依型だと思った。

まずはフジコが伯母に引き取られ、小学生時代を過ごすところから。
時間の都合上いろいろと削られていたり調節していたりがあるが、原作の気味の悪さは健在。
一家殺人事件の生き残りと知られぬよう、そのカルマから抜け出せるよう、いじめられぬよう、必死にクラスカーストを判断して少しでも上にいようとするフジコ。
けれど失敗をしてしまって、一気にいじめられっこになってしまう。
いじめる人、それに加担する人、見て見ぬふりをする人。
あの光景を見てきっと観客は自分の学生時代を思い出したと思う。
その大小はあれどあんな経験は誰しもあると思う。
私も例に漏れず思い出した。
「えんがちょ!」
「バーリア!」
「◯◯菌がうつる!」
当時はそんな悪いことだと思っていなかった人が殆どだろうし、ただのゲームだとしか思ってなかっただろう。
けれど今考えると反省というか後悔というか。できれば思い出したくない感じ。
それを誇大、誇張して見せ付けられる。
第一部から嫌~な感情を積み重ねられる。
そしてフジコ第一の犯行。
カンニングやらインコのことやら、小さなきっかけからクラスメイトの小坂さんを屋上から突き落とす。
気持ち悪い音。ああ気持ち悪い。
大人ってちょろい。

フジコの小学生時代には新聞記者の男(みつぅさん)が付きまとう。
気持ち悪い気持ち悪い人。
本当にみつぅさん気持ち悪い。気味が悪いというより本当に本当に気持ち悪い。ただ気持ち悪い。
フジコをネチネチと付け回して写真を撮り、嫌~な台詞を吐いていく。
本当に心底、気持ち悪い。
みつぅさんの気持ち悪さは絶品だな。
みつぅさんが出てくれてよかった。
気持ち悪さが群を抜いていた。めちゃくちゃ気持ち悪かった。




フジコは高校卒業後上京する。
卒業式後に伯母との会話で「私は絶対に幸せになる」というフジコ。
小学生時代の会話では標準語だったのに高校卒業のときにはすっかり訛っている。そんな些細な変化に時間の経過を感じさせ、フジコはカルマから抜け出せるのかなと僅かばかりの期待も伺わせる。

上京したフジコは保険会社で働きはじめ、彼氏がいて、アンナという同僚の友達も出来る。
幸せを掴んだかに見えるが、実際は上手くいかないことばかり。
仕事のノルマは達成出来ないし、そのせいで会社ではいじめられるし、それを愚痴るせいもあって彼氏とも上手くいかない。
フジコなりに必死に頑張るけれど結局駄目だった。
親友のアンナに彼氏を取られる。取られたけれど、それでも彼氏が好きで。
けれど彼氏は「別れる」というアンナを本当に殺してしまうほど好きで、囚われて、愛していた。

自分が殺してしまったアンナの死体を前に震える彼氏(名前忘れちゃった)
そんな彼氏に向かって「ばれなきゃ悪いことじゃない」というフジコ。
初めてのバラバラ殺人。
捕まりたくない彼氏を脅す形で二人は結婚。子供も既に妊娠していた。

このときのガキさんとっても怖かった。
それまで必死さというか、きっと幸せになるんだと頑張る輝きが確かに有ったけれどここからはもう明確な殺意と恨みをもって犯行を行っていた。
間違いない、憑依型だな、ガキさん。

フジコはこれを機にきっと幸せになれると、すべては上手くいくと、そう思いたかったけれど…カルマからは抜け出せない。
それから次々と息をする様に殺人を繰り返していった。



六本木のキャバクラで働き出したフジコ。
不動産関係のお金持ちと事実婚。
2人目の子供サキコももうけて、ブランドものに身を包み、美しい顔に作り替え、ようやく幸せになれた。
新しい人生を手に入れた。
自信に満ち溢れた顔をして、小学生時代はお婆さんのように丸かった背中をまっすぐピンと伸ばして、なんでも思い通りにいった。

そんなフジコに伯母が訪ねてくる。
「彼氏君は?子供は?」と尋ねる伯母。
彼氏君も子供(1人目)ももうこの世にはいない。
ばれなきゃ悪いことじゃない。
でも伯母は見透かしているようだった。
「母親と同じね」
「自分に自信がないからそうやって」
幸せを手に入れた気でいたフジコだったけれど、フジコはカルマから抜け出せていなかった。

そんな束の間の偽りの幸せを手に入れたフジコであったが、お金持ちな旦那の会社は倒産。旦那は逃亡。
フジコが働いていたキャバクラも閉店。系列店で働くことにするがそこは風俗まがいの下品で下劣な汚らしいお店。
ただ幸せを求めていただけなのに、もがけばもがく程どんどんと不幸せになっていく。







私は夢みるシャンソン人形
心にいつもシャンソンあふれる人形
私はきれいなシャンソン人形
この世はバラ色のボンボンみたいね
私の歌は誰でもきけるわ
みんな私の姿も見えるわ
誰でもいつでも笑いながら
私が歌うシャンソンきいて踊り出す
みんな楽しそうにしているけど
本当の愛なんて歌のなかだけよ

私の歌は誰でもきけるわ
みんな私の姿も見えるわ
私はときどきためいきつく
男の子一人も知りもしないのに
愛の歌うたうその淋しさ
私はただの人形それでもいつかは
想いをこめたシャンソン歌ってどこかの
すてきな誰かさんとくちづけしたいわ





ガキさんの独唱はすごかった。
それまで劇中では何度も『夢見るシャンソン人形』の原曲が流れていたし、フジコも鼻歌を歌っていた。
けれどそれまでは日本語歌詞がわからぬ様にされていたので、この独唱ではっきりとその歌詞を提示され、気味の悪さはうんと増した。


『本当の愛なんて歌の中だけよ』


だってさ。気味が悪いね。
フジコは幸せになりたかったのに、本当は空っぽな人生を踊っていただけだったみたい。




結局古びたボロい終始踏切と電車の音がなる様なアパートで暮らすフジコ。
けれどバブル時代の金銭感覚はそのままで、何万もする化粧品をポンと買ってしまう。(ちなみに化粧品の訪問販売員は小坂母)
美容師だって服屋の店員だってみんな殺しちゃった。

そしてある日フジコの家に伯母が訪ねてくる。
困ったことはない?大丈夫なの?と優しい言葉をかけ、保険加入を進めてくる。友人のノルマが大変だからって。

その後フジコは刺される。
小坂母に刺される。
幸いか、死ななかったけれど。

舞台上手下手の上にあるバルコニーにそれぞれひとり人が立つ。
フジコの子供サキコと、クラスメイトのいじめっ子。
クラスメイトはサキコの母を殺人鬼という。言いふらされたくなければ俺のおもちゃになれと。

サキコは明確な殺意をもって、そのクラスメイトを踏切に突き飛ばす。
嫌な音がして、クラスメイトは死んだ。

フジコはそれを見ていた。

カルマですね。




だいたいこんな感じだったでしょうか?
いやーーーーーーな気分だけを残して、殺人鬼フジコのお話は終わりました。

カーテンコールではフジコ役のガキさんと、ガキさんと入れ替わりながらフジコやサキコを演じていた早織さんがほっとした顔で挨拶をしました。
演者は順にステージからはけて、公演は終わり。







と、思いましたが。
早織さんがくしゃくしゃの台本とペットボトルの水を持ってひとり舞台に戻ってくる。

「私が、フジコの娘である私が、この舞台の脚本を書きました」

そういって、語りを続けます。

「これはノンフィクションです」
「みなさんにはこの舞台の証人になってほしい」
「私には多額の保険金がかけられている」
「真相はお気づきでしょうか」

そしたら客席候補から足音。

伯母でした。

包丁を持って真っ直ぐにサキコを殺しにきました。

グサリと刺さったまま二人は舞台袖へ

舞台袖からは物騒な物音がして、暫しの沈黙。








客電がつきました。
これにて、オシマイです。

また暫しの沈黙のあと、ぱらぱらした拍手。

やられた。

原作そのままの観客放り出しの後味の悪さ。これぞイヤミス。
スッキリしない放心状態。2時間前の自分と何か違う。なんだっけなって変な感覚。



いやー。面白かった。
ガキさんを舐めておりました。
アイドルじゃなく、役者でした。

舞台ってすごいなって思いました。

まず、徹底した客だまし。
開演前に「上演時間は1時間50分」とのアナウンス。
確かに仮カーテンコールはそんなもんでしたが、続きが有りました。
実際は2時間ってとこです。
だからもう、開演前から騙しにきてたのですね。うん。

そして、音と照明
音と照明の使い方がすごくよかった。
タイミングも大きさもなにもかも計算されていて、気味の悪さを何倍にもしていました。

脚本だって、舞台の都合上原作からカットしなければならないところだらけ。
それをあまり違和感を残さず、原作の気味悪さを削ることなく、綺麗にイヤミスを作り上げていたと思います。
脚本書いた方すげー。



強いて駄目出しをするならば。
独白と登場人物同士の会話が2重、3重に重なるシーンがあること。
私は最近音の選定が出来なくて、会話の聞き分けが出来ないんです。
だから二つの音が混じって、高速脳内処理しないとうわーってなりそうでした。原作読んでて良かった。
音の選定ができる人でもどっちの声を聞いていいのか悩んでむむむってなったんじゃないでしょうか、多分。

それと、フジコとアンナと彼氏のくだりが少々蛇足かも。
糞つまんない男とそれに縋るフジコの姿は滑稽で気味がわるかったけれど、もっと他に時間を分けれたのではないかなと思ったりしないでもない。


でもトータルで本当に面白かったです。
DVDも予約したので楽しみです!


小劇場もすごいなー!
いくら有名な人が出てても、有名な人が演出脚本してても、どれだけ熱量があっても、面白くないものは面白くないし。

でもこのフジコみたいに、初見の役者さんばかりで名前も知らない脚本家さんの舞台でも、丁寧に一丸となって作り上げればすっげえーーーーってなるんだもんな。

こんな気分になれた舞台は久々だ。

ただ与えられるだけの舞台じゃなくて、考え悩んでいろんな感情をもってこの舞台を楽しめました。



ばれなきゃ悪いことじゃない?
そんなわけない

自分は絶対に人を殺さないって言い切れる?
それは…イエスとはいえない

フジコみたいになりたい?
絶対に嫌だ


フジコを反面教師にして、これから生きていかなくっちゃな。

な。






再演しないかな。




書きたいことが上手くかけなかった。
見なきゃわかんないな、この気持ち悪さ。