「それは愛じゃないから」⑤~ハロウィンは何の祭?~ | キネマ画報

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名古屋在住映画好きダメ人間の映画愛をこめてのブログ多少脱線ありです。

3週間ぶりに会う彼女には遠慮というものがなかった。 

「欲しい服があるから金曜に会いたい」と事前にメールがあった。 

毎週金曜は友達と飲むと決めているので、普段は彼女の誘いがあってものることがないのに、その日に限ってぼくの飲み仲間は親知らずを抜いたばかりでお酒どころではないという電話が…。

日曜以外に彼女と逢っても、彼女には夜のお仕事があるので晩ごはんをあわてて食べるくらいの時間しかない。 

でも「どうしても」その金曜の夜までに服が必要という「どうしても」が強めのアピール電話やらメールが続いたので折れた。

彼女が指定したお店はインポート物の夜のお店の人向けの服屋さん。 

過去にも何度か来たことがあるけど、きっと普通の女子と付き合っていたら絶対入ることがないタイプのお店で、ファッション誌に載るモードとは別の価値観でデザインされた奇抜な服がたくさん吊され、お店の壁がわりになっていた。

仕事を切り上げて、彼女が待つこのお店に着くと珍しく人ごみ。 

たいていは客が一人いるかいないかのお店なのに今日はやけに客が多い。 

なぜか時期はずれなセールをしているせいもあるらしい。

店内にはカタコトの日本語のアジア女性や、なぜか大学生ふうのカップルも。 

カップルが服の壁のわずかな隙間の前に立ちはだかり、派手な服を熱心に物色しているため、ぼくは彼女がいるはずの中の様子がわからない。 

仕方なく大学生カップルがどくのを店の前で待っていると、カップルの男の方を店員が採寸しはじめた。 

なんとここへ男の服を買いに来ているらしい。 

基本、夜の蝶御用達のこのお店には男物の服はない。 

なのに男は堂々とフィッティングまでし始めた。 

彼には全く照れもなく女装し始め、ウィッグまでかぶって、彼女に意見を求めている。

そんな彼ら以外のお客さんたちもやたらコスプレな服を物色しているのを見て、やっとわかった。

あさってはハロウィンか… 

こんな海外のなんの祭りかもよくわかんないイベントに浮かれ、女装する大学生になんかムカついてきた。 

しかも彼の選んだアリスだかメイドだかわからないような衣装にもちょっとムカつく。

「あっ来たの、見てこれ」

彼女が中からぼくを見つけて、声をかけてきた。 

その呼びかけでようやく店内に入るきっかけをつかんだ。 

彼女が見てと言った服は、黒いレザーの制服。 

アメリカンなミニスカポリス…てか正確にはミニスカじゃなくホットパンツポリス。 
帽子はかぶれないサイズで髪飾りになっていた。 

「これにコレ」

とホットパンツの下にサッカーゴールくらい目の粗いストッキングを合わせる。 

「いい?」

これ買っていい?の「いい」なのか、これとコレ合う?の「いい」なのかわからないけど、黙ってうなづく。しかし、こんなところに長居は無用だから、早いところ決めてほしかった。 

「じゃあこれで」

彼女が店員にポリス衣装の一式を渡す。 

ポリスの衣装は舞台衣装並みにクオリティが高かったが、お値段もまた高かった。 

セールだというのにハンズなら10種類以上のコスが買えそうな金額。 

財布に用意していたお金の半分がこのお店で消えた。

彼女のお店に行かないぼくは、彼女のコスプレを直接見ることもないのに。


買い物した後はごはん。 

すぐ入れる店がなかなかなく、たどり着いたのは牛鍋のお店。吉野家なら牛丼より安い丼のトッピングなのに一番安い肉でも一人前5000円から。

それでも彼女は脂がのった肉が嫌いなので、一番安い5000円のコースですんだ。

今年最初のすき焼きを彼女はごはんと一緒に食べ、ぼくはビールを飲みながら食べる。 

日曜日に逢うときは休肝日なので飲まないが、今日は飲む。 

そして、しゃべった。 

「だいたいハロウィンて何の祭り?」

「なんかの収穫の祭り?」

「じゃあなんでコスプレの必要があるの?」

「楽しいから」

ごはんを食べ終えた彼女は箸を置き、買ったばかりのストッキングを取り出して 

「あと食べていいよ」

彼女はストッキングを袋から取り出し、拡げてニヤけている。 

「履きにくそう」

といいながら履き始めた。目の粗い網の間から脚が出そうになるのを少しずつ伸ばして、意外にすんなり履き切った。 

「どう?」

それだけ見ても…って感じ。

ハロウィン当日、いつもの日曜の晩ごはんを一緒に食べた。もちろんコスプレはなし。

「こないだの写真は?」

「あるにはあるけど…」

彼女は携帯を手に取り画像を探しながら、 

「自分で撮ったんだけど…」

画面に映る彼女はほぼ肩から上だけの顔メインの写真でコスプレ部分はこまわり君みたいな帽子だけだった。