フルーツ・オブ・パッション ポンピドゥー・センター・コレクション | れぽれろのブログ

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15日の土曜日、「フルーツ・オブ・パッション」と題された
ポンピドゥーセンターの展覧会を鑑賞しに、兵庫県立美術館に行ってきました。
この展覧会、前から行こう行こうと思いつつ、
風邪気味だとか、雪が降ってるだとか、寒すぎるだとか、
諸々の理由で行くのを後回しにしていたら、あっという間に会期末。
早くいかないと・・・ということで、ようやく重い腰を上げて(?)行ってきました。
(寒いとどうしても出不精になりますよね・・・笑)

実はこの日は国立国際美術館で半年に一度開催される
中之島映像劇場の日でもありました。
今春の中之島映像劇場は、3日連続で戦前の漫画映画を特集するという
気合の入った企画。
この日、どちらに行こうかなと迷いましたが、やはり現代の美術作品を
観ておかないと・・・ということで、
ポンピドゥーの方を選んで行ってきました。

ポンピドゥーセンターはパリにある有名な美術センターで、
現代美術の蒐集・展示を行っています。
今回は「フルーツ・オブ・パッション」と題された、過去10年にポンピドゥーセンターが
所蔵してきた作品の一部が来日し公開されるとのこと。
合わせて、一部20世紀の作家さんたちの美術作品も展示されていました。
作品は絵画や映像作品やインスタレーションなど。
フランスの最先端のこういった展示が見られるのは、なんとも嬉しいです。

現代美術の展示を見に行くと、個人的にいつも感じるのは、
絵画より写真や映像やインスタレーション作品が面白い、ということです。
今回も絵画作品の中にも面白いものもありましたが、
やはり映像作品やインスタレーションが面白かったです。
その昔、ベンヤミンは絵画→写真→映像の順に「アウラ」が消失すると言った
そうですが、こと現代美術に限っては、個人的には「アウラ」がないと
言われるものの方が逆に面白く感じます。
これはどういうことなんだろう・・・?


ということで、以下面白かった映像作品・インスタレーション作品についての
覚書です。


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・眺め/レアンドロ・エルリッヒ (1997-2005年)

壁が設置され、比較的狭い穴の向こう側に映像が流れています。
壁の穴から込むと、12の部屋の様子が見えます。
各部屋では、いろんな人が生活したり、踊っていたり、
絵を描いていたりしています。
アパートの窓から、複数の室内の様子を覗いているような面白さ。
壁の穴の狭さが、覗き見的な面白さを倍加させています。
面白い作品なのですが、覗くスペースが狭いため、
3人くらいしか覗くことができないのが難点。
ずっと見ていたかったのですが、後ろがつかえているので、
長時間の鑑賞は諦めました。

レアンドロ・エルリッヒは、金沢21世紀美術館の「スイミング・プール」を制作した人。
「スイミング・プール」も、プールの外からプールの中を、
プールの中からプールの外を「覗く」作品でした。
・・・この人は覗きが好きなのかな・・・笑。


・影絵芝居(パリ)/ハンス=ペーター・フェルドマン (2011年)

インスタレーション作品。
人形、おもちゃ、食器、生活雑貨などが、ターンテーブルの上に設置され、
テーブルがくるくる回るという作品。
ターンテーブルの手前に光源があり、くるくる回るレディメイドたちの影が
壁に幻想的に映し出されます。
人形などのレディメイドそのものがまず面白いですし、
そして壁に映し出される、走馬灯のような、ゆらゆら揺れる影の幻想感が
また面白いです。

思い出したのが、国立国際美術館で3年前に開催された「世界製作の方法」という
特集で展示されていたクワクボリョウタの「10番目の感傷」という作品。
こちらも日用雑貨などの影が壁面に映し出される作品で、
鉄道模型に設置された光源を利用したすごく面白い作品でした。
フェルドマンは2011年の作品のようで、同じようなことを同じ時期に
人は考えるもの、ということなのかも・・・?


・私たちはあの時ちょうどここで立ち止まった/エルネスト・ネト (2002年)

インスタレーション作品。
展示場の上から、たくさんのベージュの布にがぶら下がり、
中には何か物体が入っています。
たくさんのぶら下がる物体の様子が、鍾乳洞のような、
あるいは人体の内部の何か有機的なもののような、そんな印象を受けます。
そしてこの作品の一番の特徴は、何やら強烈な匂いを発しているということです。
匂いは甘いような刺激臭のような、独特のもの。
この匂いの正体はウコンと胡椒とのことです。

視覚だけでなく聴覚に訴えかけてくるインスタレーション作品はたくさんあります。
過去には「触れて感触を確認できる」という作品もありました。
しかし、嗅覚を刺激する作品はあまりない・・・というか初めてかもしれません。
それにしても、花粉のせいで鼻の通りの悪いこの時期には
そぐわない作品です・・・笑。


・入り混じる行為/アンリ・サラ (2003年)

映像作品です。
真っ暗な部屋に小型のディスプレイが設置されています。
画面には夜の花火の映像が映し出されています。
ポツポツと雨が降っており、前方ではビニールに覆われた音楽系の機材を
DJが操作していることが、花火の光の様子からうっすらと分かります。
DJの音楽、花火の音と光、真っ暗な部屋という条件が一体となって、
不思議な感触の作品になっています。

アンリ・サラの作品は、以前に国立国際美術館で鑑賞したことがあります。
このときに鑑賞したのが、オルゴールと手回しオルガンでザ・クラッシュの曲を
演奏しながら街を練り歩く作品。
そして、爆音でドラムを叩き続ける男性に何かの答えを要求する女性の作品。
今回の花火とDJもそうですが、どの作品も音と人との関わりが印象的です。


・血液、海/ジャナイナ・チェッペ (2004年)

壁に4つの映像が映し出される作品。
水の中、不思議な黒い服や白い服を着た状態でうごめく女性。
ゆらゆらと水中で動く様子が、スローモーションで映し出されます。
白と黒の服は袖が長く、ヒラヒラした付随物がたくさんついています。
布が水中で絡まりながら動く様子が幻想的です。
一方、色とりどりのバルーンやチューブをたくさん身に纏った状態で
動く映像も出てきます。
このバルーンとチューブが不思議と有機的で、
なんとなく臓器的な印象を与えます。
女性の動きと妖しい服装は幻想的で綺麗で、うとりと見とれてしまいます、
どこかグロテスクで、生や死といったもを想像させる生々しさも感じます。
かなり面白い作品でした。


・エコー/ツェ・スーメイ (2003年)

映像作品です。
背景には青い山々、その手前の緑の平原の上に、
赤い服を着た人物がぽつんと小さく、こちらに背を向けて座っています。
青・緑・赤の印象的な画面。
後ろ向きの赤い女の子がチェロを弾きます。
するとエコー(やまびこ)が返って来ます。
しかし、このエコーの返り方が、何だかおかしい・・・。
返ってくるのが早かったり遅かったり、ときには返ってこなかったり。
そのため、演奏がカノンに聞こえたり、不協和音に聞こえたり、面白いです。
この作品、今回の展示環境のせいもあってか、上記のチェッペの作品などと
比べても、何だかチープに感じる映像なので、山と平原の映像が
何やら作り物めいて見えます。
このエコーもウソだし、山も平原もウソなのでは・・・なんて感じに見えてくるのが
また面白かったりします。


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今回の展示では「イントロダクション」ということで、展示場の初めの方に
20世紀の有名作家の作品も展示されていました。
20世紀後半のモダニズム美術ということで、抽象画ばかりです。

その中で面白かったのが・・・。


・グレイ No.349/ゲルハルト・リヒター

ドイツの超有名作家、リヒターの作品がやはり一番面白かったです。
一面グレーに塗られた巨大な画面。
解説には無を表しているだとかのコメントが書かれていましたが、
それよりもこの作品の表面が面白いです。
グレーに厚く塗られた油彩が、ところどころ絵具の層が厚く盛り上がり、
無地でありながら独特の形状の表面を作っています。
これが動物の皮膚のような、コンクリートの表面のような、
ある種の細胞の拡大図のような、ある種の樹脂製品の表面のデザインのような、
独特のかたちを思い起こさせ、ただの抽象画なのに不思議な面白さを感じ、
イントロダクションの中でも面白い作品になっていました。
リヒターはやはり楽しいですね。


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ということで、楽しい展示でした。
今期の展覧会はこれでおしまいかな・・・?

各美術館とも、4月度以降の展示のラインナップもそろってきており、
面白そうな展示がたくさんあり、来季も楽しみですね。