あなたの肖像-工藤哲巳回顧展 | れぽれろのブログ

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23日の土曜日、「あなたの肖像-工藤哲巳回顧展」と題された展示を鑑賞しに、
中之島の国立国際美術館に行ってきました。

工藤哲巳は50年代後半から80年代にかけて活躍した現代美術家。
反芸術をかかげ、不気味でグロテスクなオブジェ・造形作品を制作、
さらに、いわゆる"ハプニング"全盛の60年代には、パリなどの展覧会場にて
それらの造形作品を使用したパフォーマンスアートなども行っており、
戦後日本の現代美術を代表する方なのだそうです。
いわゆる「よく分らない現代アート」の代表格。
しかも、人間の目・鼻・耳・脳・手・足・皮膚・性器などをモティーフにしたオブジェを
執拗に制作、とくに男性器に対するこだわりは異常とも言えるほどで、
ありていに言うとエログロ(グロ要素強し)、
アメーバさんのブログに画像を乗せると真っ先に削除されてしまうような(笑)
そんな作品が中心でした。

国立国際美術館の機関紙では、ここ数年「工藤哲巳入門」という形で
工藤哲巳の経歴などをずっと連載で紹介してきたという経緯があります。
過去の常設展示でも、工藤哲巳は頻繁に展示される作家さん。
なので、今回の特集展示も非常に力の入った構成になっていました。


作品はほぼ年代順に展示されていました。
以下、年代ごとの作品の覚え書き・感想など。

まずは50年代後半。
この時期は抽象画が多いです。
ポロック風のオールオーバーの作品があります。
しかし、ポロックよりずっと濃い感じ。
自分の手足を使って制作したと思しき作品もあり、
白髪一雄などを思い出します。
同時期の作家さんの影響がみられますが、
縄や釘を利用したりと、工藤哲巳独自のイメージも登場します。

60年代になると、"身体"を強調した造形作品が登場します。
まず初めに登場するのは、市販の赤ん坊の人形を瓶に詰めた作品。
胎児が瓶詰めにされているようで、何やらグロテスク。
そして人間の目・耳・鼻・口などの造形が登場、
これらを意味的に組み合わせたような作品が続く。
造形はだんだんと大きく等身大になって行き、
乳母車に乗った巨大な大脳だとか、
キスを交わす不気味な2つの物体(異常に肥大した大脳を思わせます)だとか、
チェアーの上で身体が溶けて臓器や皮膚の一部だけが残ったような作品だとかが
並び、さらに赤ん坊の鳴き声がどこからか延々と再生される・・・、
もう勘弁してくれと(笑)、言いそうになるような作品が続きます。

このあたりの作品は、一部原子力・核兵器をイメージさせる作品になっています。
チェアーの上の身体の破片など、くつろいでいるときに核攻撃に
あったかのようなイメージ。
この時代は大国による全面核戦争の脅威が現在よりずっと大きかった時代
(キューバ危機が1962年)
核兵器に対するカタストロフ的なイメージが不気味です。
(どうでもいいことですが、キューバ危機時代の大統領ケネディの暗殺から、
この日はちょうど50年後(日本時間)でした。一応の覚え書き。)
工藤哲巳は海外にて、これらの乳母車などを使用したハプニングを
実行していたのだとか・・・。

その後、鳥籠などのケースの中で目や耳や鼻や性器が培養されるような
作品が続きます。
ケースの床には電子回路図、そこから植物のように生える抵抗器や
コンデンサなどの電子部品・・・。
その中で培養される目・耳・鼻・男性器・・・。
そしてこれらの生き物に与えられる餌は、錠剤です。
悪夢的な飼育・・・。
イメージは原子力研究、あるいは核によるカタストロフ後の世界。
ずばり広島の名を冠した作品もあります。
福島事故を経験した現在、「放射能汚染マップ」がリアルに販売され、
放射性物質に対して図らずも詳しくなった現在の我々からみると、
想像力だけが先行した原子力被害のイメージが、何やら牧歌的に見えてきます。

この頃から、とくに男性器のモティーフが異様に増えてきます。
この辺りの作品は、不思議なユーモアを感じます。
男性器を思わせる新生物、そしてそれらがアイロンでぺしゃんこにされたり(笑)、
化石化したような作品なども登場します。
千葉県には、山岳の壁面に刻まれた巨大な「男性器の化石」を現わした作品が
現在でも残っているのだそうな・・・なんだこれ(笑)。
男性器が花と一緒に植物のように生えてきたり、魚と一緒に泳いだり、
不思議と可愛げが感じられる作品も登場・・・笑。
壁を這う男性器、コッペパンと並ぶ男性器、
コッペパンが不気味な新生物に見えてきます・・・笑。

70年代になると、鳥籠の中で編み物や綾取りをする人物(顔と手)が並びます。
染色体という言葉が頻繁に登場、この辺りも何やら原子力的な感じがします。
編み物&綾取りシリーズ、似たような構図の夥しい数の作品が
展示されています。こ、怖い・・・笑。

80年代以降になると、カラフルな紐を使用した作品が増えてきます。
男性器なども登場しますが、グロテスクさよりも紐が重なり合う
工芸的な面白さを感じます。
縄文式土器のイメージを、紐を使用して工芸的に再現したような作品も。
タイトルに「天皇制」が出てくるかなりきわどい作品も展示されています。
その直前に、女性器と肛門を模式的に表し、
「花とブラックホール」であるとの説明。
そして天皇制の名を冠した作品、菊の御紋を思わせる造形が
ブラックホールであると。
ええっと、直前の作品でブラックホールは何だったかと言うと・・・。
何やら問題作のようですが、80年代はこういうことに対して、
現在よりずっとおおらかだったのかもしれません。
その後、工藤哲巳は1990年に亡くなられたとのことです。


その他、全体通しての感想など。

若いころの作品から、縄・紐・糸・チューブなどの、細長い形状の素材が
やたらと登場します。
初期作品では、縄の一部を細かく切って丸めたものが頻繁に登場。
染色体による編み物・綾取りも、糸のイメージです。
晩年の作品は縄文のイメージ、
工芸的でカラフルな糸がメインで使用されます。
こういう細長い形状のものに対する、フェティッシュなこだわりを感じます。
工藤哲巳本人が糸を両手でこねくり回す、晩年の映像も展示されていました。

そして、個人的に重要だと思う工藤哲巳の特徴は、色使いの心地よさです。
黄緑・ピンク・オレンジ・青などの原色の重なり、
鳥籠・男性器・染色体などの、色・グラデーション。
これらの色の使い方、グラデーションが、何だか妙に楽しく、この色合いの
こだわりが、一部グロテスクな作品を明るい雰囲気に変えています。
自分はデザインについて詳しくないですが、造形の色合いと構図のバランスも
デザイン的に面白いのではないかと思います。


ということで、非常に面白い展示でした。

グロテスクな戦後美術ということもあってか、会場はガラガラ、
滅茶苦茶に空いている・・・というより、
会場内に自分たち以外誰もいないという状態になることもしばしば(笑)。
なので、非常にのんびり・ゆったりと鑑賞することができました。

会場の入り口には、「人によっては気分を害するので注意してください、
もし不安なら先に図録で内容を把握してから入館してください」との注意書き。
こういうのも珍しいですね(笑)。
さらに、(まあ予想していたことですが)会場出口でのグッズの販売なども
一切ありません。
ミュージアムショップにグッズの準備もありません。
絵葉書くらい少し準備してもいいのに、以前から販売されている
国立国際美術館所蔵作品の絵葉書1種類のみ。
まあ、造形が造形だけに誰も買わないのかもしれませんが・・・。

ということで、戦後美術・現代美術に興味があり、エログロ耐性がある方なら、
ぜひとも鑑賞して頂きたい展示です。
いわゆるサブカル系(?)愛好家の方なども、きっと面白いと思います。
1月19日まで展示されていますので、迷ったらGO、ぜひこの展覧会へ・・・!


常設展示についても少しだけ。

工藤哲巳と同時代の作家さんの作品が中心でした。
白髪一雄の足を駆使した作品、工藤哲巳の初期作品を思わせます。
(ポロックが欲しいところですが、国際美術館はポロックがないのですよね・・・)
三木富雄の耳の連作、これも工藤哲巳の耳の飼育作品とリンクします。
同時代のハプニングアートの代表者、草間彌生の作品も
いくつか展示されています。
「銀色の希死」などの造形は何やら臓器的、
これも工藤哲巳と近いものを感じます。

今回の常設展示の(個人的な)メインは、田中信太郎の「音楽」です。
自分の記憶に間違いがなければ、5年ぶりの展示です。
ピアノが設置され、その上にたくさんの赤ん坊の人形が閉じ込められている・・・。
(この人形は工藤哲巳の60年代前半の作品にも雰囲気が似ています。)
ピアノの上には不規則に回転するモーターとギヤが設置され、
そこに弓なりに自由に移動するバーが取り付けられています。
このバーの先が不規則に鍵盤の上に落ちてきて、時々ランダムに
鍵盤の音が鳴る仕掛けになっています。
モーターの回転速度により、音の強弱も変わります。
バーの動きがなんとなく不気味、機械的なピアノの音色も怖い。
バーの先が2つの並んだ鍵盤の上に同時に落ちてくると、
必然的に二度(もしくは短二度)の不協和音になるので、より不気味です。

そしてこの常設展示場、どこに行ってもこのピアノの音が聞こえてきます。
他の作品を鑑賞しているときにも、ピアノの音が聴こえてくる・・・
これが不気味です。
ときどき、忘れたころに低音でやたらと大きな音がダーン!と鳴る
・・・怖すぎるやないか(笑)。

ということで、常設展示もこれまた面白いので、お薦めです。