植田正治写真美術館 | れぽれろのブログ

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美術、音楽、本、日常のことなどを思いつくままに・・・。

※タイトルは美術館ですが、旅の話がメインです。

自分は計画的なことがあまり好きではないです。
計画的なことは仕事だけで十分。
仕事は工程に沿って計画的に物事を進める必要があります。
日々進捗を確認し、計画を練り直す。
計画計画計画・・・。
社会人の多くは日々計画に追われています。

社会人は2つの人種に分かれます。
プライベートでも計画的になってしまう人と、プライベートは無計画な人。
自分の見る限り、多くの人は前者です。
しかし、自分は圧倒的に後者。
人と一緒に行動するときは少なからず計画的になりますが、
1人だととんでもなく無計画になります。

今回、お盆休みを利用して、久しぶりに1人で旅行することにしました。
決めたのはお盆休みの初日。
11日に予定があったので、とりあえず12日か13日から出かけようと検討。
しかし、11日の夜になんだか疲れが出て、12日はダラダラと過ごしてしまい、
12日の夕方になってもどこに行くかも決まっていない・・・。

とりあえず中部・中国・四国あたりのどこかの美術館をターゲットに
しようと決め、あれこれインターネットで探した結果、
すごく好きな写真家、植田正治の写真美術館に行くことに決めました。
目標は鳥取県に決まり。
2泊3日の予定なので、とりあえず、後半は岡山・広島あたりを
ターゲットにしようと決めます。(←適当)

とりあえず鳥取県は米子のホテルだけ予約し、12日は就寝。
時刻表もしっかり確認せずに、13日の朝6時ごろから出発。
いつ着くかも分からない。なんだかワクワクしてきますね。

新幹線で岡山まで行き、岡山から「やくも」という特急が出ているので、
これに乗ってとりあえず米子へ。
米子から少し岡山方面に逆戻りしたところに岸本という駅があるのですが、
どうもこの駅が目的の美術館に近そうです。

米子に着いたのが11時過ぎ、岸本へ行こうとすると・・・
1時40分まで電車がない・・・。
さすが田舎です(失礼)
お昼を食べて少し米子駅前をウロウロしたあと、本を読みながら
のんびり電車を待ちます。
時間がゆっくり流れます。
ハードスケジュールの旅行より、こういうのんびり旅行が
自分の性にあってますね。

コインロッカーに荷物を預け、岸本へGO!
駅前の案内を見ると「植田正治写真美術館まで徒歩40分」と書いています。
徒歩40分・・・余裕やな。(←歩くことだけは無駄に好きなのです)
ということで、暑い中トコトコと山道を歩きます。
(後で気づくことになりますが、普通の人はバスで行くんだそうです)

鳥取は暑い!大阪よりずっと暑いです。
この日の最高気温は36℃!
汗びっしょりになります。しかも山道。上り坂。
こんな道、歩いている人は誰もいません(笑)

そして坂を上りきったところで、目の前に中国地方一の高い山:大山が
でーんとお目見えです。
さっきの「やくも」で車掌さんが解説してくれた大山が目前に!
「暗夜行路」の最終章で有名なあの大山です。
なにやら感動的!来て良かった!

暗夜行路は何だか嫌な嫌な小説なのですが、それでも最後まで読まずには
いられないパワーを持ったものすごい小説だったなとか、
そんなことを思い出しながらトコトコと歩き続けます。

徒歩40分のところ、35分で到着。足だけは強い(のかな?)
で、ようやく植田正治写真美術館です。

植田正治は昭和初期から90年代まで長期にわたって活躍した写真家。
いわゆる「演出」の写真家となどと言われます。
鳥取の砂丘に意図的・演出的に人や物をを配置し撮影した写真が
すごく面白くて有名ですね。
リアリズム写真(あるがままを写す)を身上とする
名取洋之助、木村伊兵衛、土門拳なんかとは対立する作家。
名取洋之助なんかは植田正治を酷評していたんだとか。

館内には植田正治の一生を集約・俯瞰した常設展示と、
「風の記憶」と題した特集展示(30年代と70年代のモノクロ写真、および
80年代のカラー写真)で構成されていました。

で、感想ですが・・・感無量、何だか訳が分からないくらい感激しました。
暑い中はるばるやってきたから、感動も増幅されたのかも。

風景の中に意図的に配置される人やもの。
配置される構図が面白く、ユーモアに溢れます。
そして漂う幸福感。
強烈で破壊的な写真はあまりなく、どの写真も何だか幸せそうです。
リアリズム風の写真もあります。
リアルと演出の程よい調和。
美術館のホームページで一部の写真が見れます。
http://www.japro.com/ueda/

写真というものは、我々のこの世界、生きる日常が、実は
奇跡的なものであるということに気づかせてくれる、
そういう可能性のあるメディアだと思います。
我々は日々景色や町並みや雑踏や人の顔や物や、
いろんなものを見ていますが、そのものが存在することが
如何に奇跡的なことか、日常が如何に面白いことか、忘れがちです。
自分なんかは、写真を見るとこにより「対象が存在するという奇跡」を思い、
単純に「この世界は悪くないな」「生きてるってことは悪くない」などと思うのです。
(自分が思い込みが激しい、対象に憑依しやすいだけなのかもしれませんが・・・)

写真の面白さは、それこそベンヤミンやらバルトやら多木浩二やら
いろんな人が散々語っておられ、自分などが語るほどのこともないですが、
自分なんかは上記のような気づきを与えてくれることが
写真の良さなんだと、そう考えるのです。

さて、美術館内には大山が一望できるスペースがあるのですが、
これが面白い。
壁と天井と床の四角の中に、大山を含む風景が収まり、
まるで写真みたいにみえます。こういうスペースが3箇所ほどあります。
面白い建物!

帰りに図録とポストカードを購入しました。
自分はポストカードの類はほとんど購入しないのですが、
(なんというか、こういうアイテムの収集欲のようなものがあまりないのです。)
今回は「布教用」にポストカードを購入しました。
いろんな人に渡したいと考えています。

夕方、美術館を後にします。
夕方から天気が崩れるのは分かっていのたのですが
傘を準備せずに(無計画!)来ました。
駅まで何とかなるやろ・・・と思って歩いて帰ろうとすると・・・。
土砂降りになりました。

雨の中早足で歩いていると、親切な方に声をかけられ、車に乗せてくれました。
そして、駅まで送って頂きました。本当にありがとうございました!
その人曰く、普通は美術館までバスで行くんだそうです。
こういう親切な方に偶然出会えたりするのも旅の醍醐味です。
無計画旅行は楽しい!