右近の少将は、姫が閉じ込められたと言う話を聞いて、何も知らずに浮いた気持ちでいた自分を恥じた。
(姫はどんなに思い悩んでいることだろうか。兎にも角にも、全てはこの私のせいだ・・・。)
少将はそう思って限りなく嘆いた。そして手紙は届けられないだろうと思い、阿漕に姫への伝言を頼んだ。
「人の目に付かないように、姫に伝えておくれ。
あなたに会いたいと想い焦がれて来たというのに、『驚いた』などと言い表すのはあまりにも月並みすぎる言葉で、まるで悪夢のような話を聞いて、私も気が遠くなるような思いです。どんなお気持ちでいられることかと推し量り、あなたに劣らぬほど心配しています。どうしたらあなたに会えるのだろう、何とかして会いたいと、とてもあなたを案じています。」
 
少将に姫への使いを頼まれた阿漕は、裾が長くて衣擦れの音がするような着物をすべて脱ぎ捨て、袴を引き上げて抜き足さし足、わざわざ下廂(しもびさし=下働きが使う下屋の廂)をぐるりと回って姫が閉じ込められている雑舎へとたどりついた。
人も寝静まった深夜なので、「もし、姫様、」とひそやかに戸口に寄って戸を叩いた。
しかし、雑舎の中からは何の音も返ってこない。
「もうおやすみになられてしまったのですか。あたしです、阿漕です。」
今度は阿漕の声がほのかに聞こえたので、姫はそっと戸口に近寄って泣いた。
「阿漕!どうやって来れたの。どうして父上や北の方はこんなひどい仕打ちを・・・。」
言葉の最後まで言い終わらぬうちに、姫は泣きくずれてしまった。
阿漕も泣く泣く、
「今朝からこの部屋のあたりをうろついてはいたのですが、人目があってどうしてもお側に来られず、心細い思いをさせてしまいましたね。申し訳ありませんでした。今回の件は、じつは北の方が大殿にこんな話をしまして・・・。」
そうして事の真相を知ると、姫はますます泣いてしまった。
「少将がいらっしゃいました。事の次第を話したところ、ただもう姫を思って泣きに泣いていらっしゃいます。あたしに伝言を言付けてくださいました。」
そう言って阿漕が少将からの伝言を伝えると、姫はとても悲しくなって、
「少将にこうお伝えして。
『何も考えられなくて、何も言えません。お会いすることは、
 
消えかへり あるにもあらぬ わが身にて 君をまた見む こと難きかな
私の命は消えてしまい、死んでいるような状態のわたくしがあなたに再び会うことは難しいことです)』
 
嫌な臭いの物ばかりが並んでいて、見苦しくて苦痛なの。
わたくしなんかが生きているから、こういう目にも会うんだわ。」
そう言って、物語によくある例の通りにさめざめと泣いた。
阿漕の心中も、読者のみなさんが察してください。
人が目を覚ましてしまうからと、阿漕はひっそりと帰っていった。
 
 
 * * * * *
 
 
阿漕は姫がいない間もうまく情報を集めて、今は一体どういう状況に置かれているのかを把握し、監禁された姫に報告しました。
混乱時にすぐに状態が把握でき、困難を乗り越えて報告できる、この度胸と頭の回転の速さは男顔負けです。

またしても筆者から読者への投げかけがありましたね。姫を「物語の例のごとく」と言ったり(泣きたまふとは、世の常なりけり)、阿漕の心情を読者の皆さんに察してもらおうとしたり(あこぎが心地もただ思ひやるべし)。
落窪物語の作者は不明ですが、とてもしっかりしたプロットを立てる割には、適当な性格だったんでしょうか。

それにしても姫、匂い責めで死にたくなるとは・・・。
 
 
↓そんな姫に贈り物
ファブリーズ ボトル
¥520
かつはら DRUG STORE
ちょっと悪ふざけ。