最終フェーズ. 急降下からの立て直しは可能なのか


JAL123便の最終フェーズ18:55′過ぎのこと. 奥秩父方面から長野県東佐久郡川上村の上空に飛来し. 右旋回しながら群馬県多野郡上野村にかけて低空飛行した。ところが急にバンクが深くなって横滑りから螺旋状に急降下が始まり気速も増して..  こうなってしまうと普通は地上激突である。

しかし報告書ではこの状況を最大出力で立て直したとうそぶいて高度の修正分を調整し. 更には低空低速で飛来してきて山間部であれど不時着を少しでも軟着陸に導こうとした操縦士の奮闘努力を嘘で覆い尽くした。

付録6 P.109-110

右バンク80°以上で機首を大きく下げて降下率が計器を振り切る程の急降下中に. エンジン出力をMAXにするなど操縦士の感性からはあり得ない操作といえる。

%MAC(重心)が22.8→20.2へと前に移動し. 既にギア•ダウンしてy軸回りに安定したJAL123に. パワーによるピッチ•コントロールは微調整には有効だが機首を大きく持ち上げること(迎え角の増加)は昇降舵の働きなしでは不可能だろう。


図① VS:昇降率

18:55′12″から墜落までの1分少々はDFDRの磁気テープの破損でVS:昇降率は修復されなかったが. 報告書によると降下率は15000フィートを超えてフラット表示へ.  つまり計器を振り切ったとされた。右バンク80°以上で墜落に近い急降下中にエンジン全速を掛けるのは正気の沙汰ではない。

付録5 P.89   VS:昇降率は修復の対象外..

報告書 P.82 DFDRによる墜落直前の飛行状況

(VSは修復されなかったが評価を受けている)


さて. 急降下から上昇に移る際には垂直加速度がプラスに大きく働くことになる。

垂直加速度 n=L/m−g•cosθ の式から.

揚力: Lを急速に引き上げることが必要になるが. 昇降舵は操縦桿が重過ぎて殆ど駆動させられない。

✴︎唯一の活路は水平安定板のトリム調整をmanual mechanical modeにして. 操縦桿の横にあるトリムホイールにハンドルを装着してケーブルとギアを介してジャッキスクリューを手動で機首上げ方向に回すことである。

DFDRのHSTB(縦のトリム装置の変位量)は異常事態発生時にセンサー破損に依ると思しきエラー表示となったため確認は出来ないが.この土壇場で調整して機首を上げられたなら賞賛すべきである。


図② 縦揺れ角

図③ TAS:真対気速度

機首下げが36°に達して対気速度340ノット(630km/h)の高速で+3G旋回するなど.通常はあり得ないが. 一応B747の設計上耐え得る旋回Gは平時 +2.5G. 緊急時は3.75Gであるから主翼の付け根で破損する危険はあるもの水平安定板のトリム調整でクリア可能である


図④ 垂直加速度

JAL123は横田管制空域を意識しておそらく横田の指示方位に従い9000フィートを維持しながら埼玉県奥秩父の県境を西北西に飛びリクエスト•ポジションで複数の県境が入り組む地域に近付いたことを知ったのであろう


そして眼前に奥秩父山塊が迫ったことで地理に明るい高濱機長はライトターンを指示し. 甲武信ケ岳. 三宝山を避けつつ直ぐさまレフトターンを指示して十文字峠〜三国峠から川上村上空に飛来したと推察される。

おそらく川上村の緩やかな傾斜地は不時着するのに適していたので. 高度を下げて地上を視認して探りながら右旋回し. 県境を跨いで機会を窺おうとしたと思われる。


川上村の沢山ある目撃証言のうち確からしい情報は「南東からかなり低空で飛来し扇平山の手前で右旋回しながら群馬県との県境の尾根を機首上げの姿勢でようやく越えていった」というもので. 川上村の標高が約1300m.  埼玉県との県境の尾根は標高約1800m. 群馬県との県境の標高も約1800mであることから高度約2000m(6560フィート)まで降りてきていたようだ。

最初に接触した一本カラ松の標高は約1600mで右旋回中の降下距離は約400mが見込まれる. しかも右回りは斜行して予定よりも小回りになり過ぎて渦巻きを描いたと推察される。


図⑤ ALT:気圧高度(フィート)

DFDRデータでは降下距離5500フィート ▷ 1680mであり. 目撃証言の数々から予想される降下距離400mとの差は1280mと随分異なる。


この高度の大いなる差異は他データへの皺寄せとなり. 見過ごせない矛盾が18:40′08″以降の至る所に潜んでいるので一例を挙げる。


18:50′50″ 副操縦士「スピード220ノット」 

これはループ状旋回の約10分後. 横田へ最接近してから約2分後の記録。

このCVR文字起こしは流出CVRでも聴取できるが. DFDRのCAS:較正対気速度は181ノットを示しており大きく矛盾する。 


図⑥ 別添6 CVR文字起こし

図⑦ 18:50′55″のCAS:較正対気速度度とALT:気圧高度

図⑧ 同TAS:真対気速度

副操縦士のIAS:指示対気速度の読み上げは余程確かであり. そして高高度でない限りIAS≒CASとしてよい。


◉この18:50′55″の文字起こし CAS: 220ノットから高度を算出する


[数値計算]

TASとCASの関係を簡易的に空気密度比σで表すと. TAS = CAS/√σ

σ = (220/214)² =1.056✴︎

 密度と高度の近似計算式は.

σ = [1−(L•h/T₀)]^(g/R•L−1)

ここで.

L: 気温減率 0.0065K/m

T₀: 海面上温度 273.15+28

g: 9.80665 m/s²

R: 気体定数 287.053  として.


σ = [1− (0.0065h/301.15)]^4.255

1− (0.0065h/301.15) = σ^(1/4.255)

h = (301.15/0.0065)^[1− σ^(1/4.255)]


✴︎σ=1.056を代入すると.

h= (301.15/0.0065)×(−0.0129) ≒ −598m


⚫︎CAS: 220ノットから算出したALT:気圧高度は約−600mと地下を飛んだ事になる

最終フェーズの高度誤差1280mにて換算すると. 18:50′55″頃は高度680mを飛行中と. 余程確からしくなる


🔲 結語

報告書にて後半区間のDFDR修正は. 特に見かけ上の高度を上げておきたかったという意図が明確になった。それはあたかも横田飛行場へ限りなく接近し緊急着陸を試みたことが露呈することを極度に恐れているように. この無機質なDFDRから読み解けるのである



国土地理院地図  総飛行距離合わせ [470.0km]

(上)報告書 付図-1 飛行経路略図 

(下) 推定航跡図