両親が兄から逃げるために、実家を売った。
そのことは、私にも知らされていなかった。
そして両親が家を出た日に、兄から電話がかかってきた。
「家の鍵が閉まっている」
兄は、実家に行っていた。
私は以前から兄に、「絶対に家には帰るな」と伝えていた。それでも兄は、その家に行った。
両親が家を出たこと。
そして兄が家に行ったこと。
その二つが重なり、私は完全に心が壊れてしまったと感じた。
ただ、この話を書くうえで、もう一つ伝えておきたいことがある。
家を出るように、ずっと言っていたのは私の方だった。
父は、家を出られなかった
私は両親に、家を出るように言っていた。
兄は実家の場所を知っている。そこに両親が住み続けていれば、兄はまた来ることができる。
お金を求めて帰ってきて、出るまで居座る。
食事をして、風呂に入り、テレビを見て、横になる。
そんな兄を見て、私は怒っていた。
自分で働いてくれ。
両親を頼って、お金を出させようとするのは、もうやめてくれ。
兄には帰るなと伝え、両親には家を出るように言っていた。
しかし、父はなかなか実行できなかった。
今思えば、実行しなかったというより、できなかったのだと思う。
祖父が買ってくれた土地と家
実家は、父と母が結婚するときに、父方の祖父が買ってくれた土地と家だった。
父は、そのお金を三年で返済している。
私にとっては実家だが、父にとっては、自分の父親とのつながりがある家でもあり、母との結婚生活が始まった場所でもあった。
だから簡単には手放せなかったのだと思う。
私は、兄から離れるためには家を出るべきだと思っていた。
出なければ、また兄が来る。
またお金を求められる。
また家族が振り回される。
そう考えていた。
ただ、私が簡単に口にしていた「家を出る」という言葉は、父にとっては、祖父が用意してくれて、自分が返済した家を手放すことだった。
その決断が簡単ではなかったこと
私にも伏せられていた決断
その父が、最終的に家を売った。
両親は、兄から逃れるために実家を出た。
私がずっと言っていたことが、ついに実行された。
けれど、私は知らされていなかった。
両親は私の味方だった。それでも、万が一にも兄へ情報が伝わらないように、私にも隠していた。
その理由は分かる。
兄から逃げるために家を出るのだから、先に情報が伝わることだけは避けなければならない。
そして、両親が家を出たその日に、兄は実家へ行った。
私に電話をかけてきた。
「家の鍵が閉まっている」
その電話を受けたとき、私はすべてを受け止めきれなかった。
会社へ行こうとしても、身体が動かなかった
朝、会社へ行こうとした。
しかし、身体が動かなかった。
行かなければならないことは分かっている。
それでも、行けなかった。
そして私は、会社を無断欠勤してしまった。
連絡もせず休んだ。
これは実際に私がしてしまったことなので、隠すつもりはない。
ただ、「今日は面倒だから休もう」という状態ではなかった。
本当に身体が動かなかった。
兄と両親の問題は、実家の中だけでは終わらず、離れて暮らす私の日常まで壊していった。
真冬なのに、暖房をつけなかった
会社を無断欠勤していた頃、季節は真冬だった。
それなのに私は、暖房もつけずに過ごしていた。
パソコンでYouTubeを見る。
そんな日々だった。
暖房をつければいい。
食事を取ればいい。
夜になったら眠ればいい。
普通なら簡単なことが、できなくなっていた。
食欲もなかった。
そして、眠れなかった。
仕事へ行けず、食事も取れず、夜も眠れない。
不眠症は、地獄だった。
大げさに書いているわけではない。
当時の私にとって、本当にそう感じる状態だった。
その頃の自分を表現するなら、「心が壊れた」という言葉が一番近い。
家を出るように言った私も、限界を迎えた
私は両親に、家を出るように言っていた。
兄には、絶対に帰るなと言っていた。
家族の状況を変えようとして、自分なりに動いていた。
しかし、必要だと思っていたことが実際に起きたからといって、すぐに安心できるわけではなかった。
両親は家を出た。
兄は、それでも実家へ行った。
そして私は、会社へ行けなくなった。
「家を出るべきだった」と思っていた気持ちと、実際に家がなくなったことで受けた衝撃。
その二つは矛盾せず、私の中に存在していた。
家を売った父と、動けなくなった私
父は、祖父に買ってもらい、自分が三年で返済した家を手放した。
私が何度も出るように言っても、なかなか離れられなかった家だった。
その家を売ってまで、両親は兄から逃れた。
一方の私は、真冬の部屋で暖房もつけず、YouTubeを見ていた。
食欲はなく、眠れない。
朝になっても、会社へ行くために身体を動かせない。
この出来事は、「両親が実家を売った」という一言だけでは終わらない。
父にとって、その家がどんな場所だったのか。
なぜ私が家を出るように言い続けていたのか。
なぜ両親は私にも知らせなかったのか。
そして、その日に兄から電話を受けた私は、どうなってしまったのか。
すべてはつながっている。
この話の最後に残るもの
私は、この話を「両親が家を出て一件落着した物語」としては書けない。
両親は兄から逃れるために実家を売った。
私は、その家を出るように言い続けていた。
しかし実際に両親が家を出たその日、兄から電話が来た。
「家の鍵が閉まっている」
その一言の向こうに、帰るなと伝えたはずの兄がいた。
私は受け止めきれなかった。
会社を無断欠勤し、真冬なのに暖房もつけず、パソコンでYouTubeを見ていた。
食欲もなく、眠れない日々だった。
兄から離れるために、父は家を手放した。
その家を出るように言い続けていた私は、自分の生活を続けられなくなった。
それが、この出来事の結末だった。
まだ兄の話しは続きます。
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