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彼女はエコさんからの紹介だった。



ひょんなことからゲーム内で知り合ったエコさん。
せっかくなので私の部隊に招待をした。

するとエコさんは当時隊長をしており、他のメンバーをほったらかしで参戦はできないとのことだった。


「だったら、他のメンバーも出来る限りご一緒しては?」
とご提案すると、エコさんが連れて来たのが彼女だった。



「よろしく〜!\(^-^)/」

そんな無邪気な挨拶が始まりだった。



当初はエコさんが、妹です‼️というものだからそれをそのまま本気にしてました。



掲示板の中で明らかになったのは、
•東京在住のOL
•28歳
•週末は銀座のクラブでバイト
•PCにiPadを立てかけてポチポチ

なのが彼女だった。


ふんわり穏やかな口調は、周りのメンバーを安心させるような。そんな感じ。。



ガノタ女子。。





その後しばらくはうちのチームで遊んでいた。


出張で東京に行くことがあったので、彼女のお店に行ってみようかと打診してみたが、返答は

「座ってウン万円のお店だからやめといた方がいいよ」って…


週末のシンデレラは、優しく私に答えてくれた。




たまにうちの部隊に来て遊んでくれたことがしばしば。
いつも掲示板では楽しく会話していた。





そのうち彼女は部隊を立ち上げて隊長として遊んでいるようだった。




私も、こっそりサブで申請して部隊に隊員として潜入して遊んだりもしていた。


いつのまにか彼女は結婚していた。




既に仕事を辞め、地元の札幌に帰り祖母の介護をしていた。



もうシンデレラではなくなっていた。



祖母は、要介護状態でしかも旦那の祖母。
血は繋がっていないが、それでもしっかり介護をしていた。



なかなかできることではない。



週末は介護で参戦できないということもあった。





「隊長業疲れちゃった…」


そうコメントをくれた彼女は、女子だけど責任感を持ってチームのメンバーを引っ張っていったんだと思う。



「よかったらまたうちに来る?」


そう伝えると



「いいんですか?甘えちゃって?」
と返信が来た。



「いいんだ、うちは女子優遇だから。。」



「じゃお言葉に甘えて」
それ以来、また彼女はうちのメンバーとなった。



ツイッターが好きで色々と呟き、決して意見が偏らない彼女の呟きはいつも爽やかなものだったと思う。




ユニコーンガンダムとZZの機体が好きで彼女は新しい機体が出る度にブツブツ言いながら集めまーす!とコメントしていた。





ある時、掲示板に病院に行くのでちょっとinできませんと書いていた。




しかし、inしなかったのはちょっとではなく1週間だった。




そして入院しますのでinが厳しくなるとコメントがあった。





「いいよ、無理しないで、できる時だけ参戦すれば」
そう伝えると彼女は、すみませんと返信するだけだった。







ある時彼女は、掲示板に放射線治療でしばらくinできないと書き込んでいた。




放射線治療?



疑問を感じた私は、彼女に意を決して、個別にメッセージを送った。



「放射線治療って普通の病気ではしないけど、ひょっとしてガンなの?」と。



すぐに既読がついたが、
なかなか返信がこない。



なんて答えたら良いのか悩んでいたんだと思う。




そして1時間ほど経ってから長い返信が届いた。



そこには、
自分がガンであること。

しかし、手術をしたら完治すると言われていること。


そして翌月末に手術をすることが書いてあった。



私自身、妻が同じくガンになって手術をしていた為、早期の発見であれば治ると信じて疑わなかった。




「心配するので部隊のメンバーには内緒にしておいてください(*´ω`*)」


最後についていた顔文字には彼女の思いが詰まっているようだった。



ちょうど、小林麻央さんがガンで亡くなったタイミングだったと思う。







メンバーには病気で手術するのでしばしお休みとだけ伝えておいた。





無事手術が終わり彼女はゲームに復帰した。
病室からの参戦。




私の妻は、同じ手術で2週間で退院していたが、彼女はいつまで経っても退院してなかった。




術後も放射線治療をしているようだった。




ひょっとして…



聞きたいが聞けなかった。





その後、彼女は招待してもひと月ほど参戦しなかった。






ひょっこり部隊に参戦してきた彼女は、
「心配かけました〜(。・ω・。)」


といつもの顔文字でコメントしていた。


「もう大丈夫でーす(^-^)/」




多分彼女の精一杯の無理だったんだろう。





祖母の介護をしていた彼女は、自分が面倒を見てもらう立場になっていた。



それでも彼女は、自分が介護しなければならない祖母のことを気にかけていた。


旦那さんと交代で介護してるんです。
新婚だった彼女は、そんな苦労も全て含めて幸せだったんだと思う…






病院の朝は早い。

だから朝のボナタイもしっかり参戦。

だけど消灯時間があるから夜は22時以降はinせず。






手術が終わって半年経っても彼女が退院することはなかった。



何度か一時帰宅はしていたが…





仕事で札幌に出張の予定が入りそうだったので、思い切って尋ねてみた。


「今度、札幌に出張で行くからお見舞いに行くけど…」





彼女からの返信は衝撃だった。

「お気持ちは嬉しいんですけれども、今誰かに会いたくないんです(´ω`)
こうやって、書き込んで画面の向こうの皆さんと繋がってられるだけで。
自分自身の将来はわからないけれど、ゲームの中のMSやMAには終わりの影は無いから、少し前を向いていられます。
浮腫んでるし、肌の色悪いし、髪は抜けてるし。
乱文ですね(笑)
せめてGAWでは普通でいたいと思ってます。
そんな感じです。
すみません。m(_ _)m」


そのコメントには、白い病室の壁をバックに抗ガン剤の影響で抜けてしまった髪を帽子で隠してちょっと浅黒くなった彼女の写真の一部がついていた。。





考えたくなかったが、やはり彼女のガンは転移していた。


それでも私は、
「そうですか。
‎早く元気なるように祈ってます。」

と治ることを祈って返信したのだが、


「ありがとうございます(´ω`)
たとえ、嘘でも治る事を信じて頂きたいです。」

嘘でもって⁇

「嘘でもとか言わないで」
と即座に返信した。

また既読はすぐについたが、返信は更に1時間後だった。

彼女なりに自分で言葉を選んでいたようだった。




「恐怖も不信も喜びも悲しみも突然なんです(´ω`)
不思議と怒りはなかったなー。

やるせない気持ちはあるけれど、寝落ちすること多いので、コレはGAWのお陰ですね(笑)
ちゃんと気持ちリセット出来ますから。漏らさない自信はあるんですよー

朝起きれたら、嬉しいですもの。やっぱり(´ω`)

りく、やれる限り頑張ります。
なので、よろしくです!」


涙が出た。


おそらくこの時点で彼女はほぼ完治の見込みはないこと。

そして彼女自身、そう遠くない将来に自分の死がやって来ることを受け入れていたこと。

毎朝起きたら自分がまだ生きてると実感できること。


それが伝わってきた。




‎「わかった。あと50年ぐらい毎朝起きてくださいね。元気になったらみんなでオフ会しましょ。」



私にはそう返すのが精一杯だった。
去年の9月のことだった。







彼女は、毎日病室で治療。
旦那さんは、仕事もしている。




私も含めてみんなが運営に文句を言うこのゲームは、彼女にとっては唯一の外部との接点。



病室の天井を見上げながら彼女は、どう考え、どう自分の死を受け入れたのだろうか。



もう、外にも出られない。
友達と遊びに行くこともできない。




私は、自分の妻が同じようにガンになった。
告知された時は、本当に頭が真っ白になった。


しかし、これが自分自身であったならどうだろうか?




耐えられない…





それ以来、私は出張で遠くに行く度に、あちこちで写真を撮ってメンバーとのグループの交流の板に上げた。





どこにも行けない彼女が少しでも気晴らしになればと思って。






秋を過ぎてから彼女の病状に改善の兆しはなかった。。




たまに1週間inしないこともあった。

「ICUに入ってましたー(^-^)/」


と彼女は明るくコメントしていたが、ICUとは集中治療室のことである。


そんな明るく言える場所ではないが、本人がそのように言っているのだから敢えて触れずにおいた。





彼女はサブアカウントを2つ持っていてひとつは自分が押していたがもうひとつは旦那に押してもらっていた。



旦那さんはあまりゲームには関心がなかったそうだが彼女がそうして欲しいというのであれば、代わりに押すしかなかったのであろう。

私が旦那さんだったらそうする。



だから彼女が多少inしてなくても、最悪のことが頭をよぎったが、そのサブアカウントがinしていることが安心の材料となった。




1月の年始には、
「昨年は病気のことでご迷惑をおかけしましたー。今年もよろしくお願いたします(*´ω`*)」

とコメントが来た。





彼女は意外とゲームの中では交流が多くていろんなユーザーの人と交流があったようだ。


ゲーム以外でも相談に乗ったり、持ち前の明るさとサッパリとしたコメントが彼女が好かれていた理由かもしれない。






そして、4月の中旬の連合戦。


彼女は参戦していたが、4/16の朝の部隊掲示板でのコメントを最後に以後何も書き込みがなくなる。


ツイッターも4/14の呟きが最後。

おそらくそれぐらいから辛くなっていたんだと思う。



4/19からのマラソンの招待には応えてくれたので18日まではまだ大丈夫だったんだろう。



しかし、マラソンが始まってからは消息が途絶える。





そしてその後はinがなくなった。



彼女がinしなくなってその2日後に旦那さんが押しているはずのサブもinしなくなった。







そして2週間が過ぎた。



メンバーには、事実を伝えた。






彼女のツイッターのアカウント名が音信不通になるひと月前から変わっていた。


菜々緒 りく@Please foget about me.





その時からもう彼女の覚悟はできていたんだと思う。





既にひと月が経っていた。

あんなにこのゲームが大好きで、
いつもツイッターで楽しそうに呟いていた彼女。





ゲームが嫌になって引退した?





そんな馬鹿な。






ほとんどのユーザーにとってはとても出鱈目な運営のどうしようもないゲームだったけど、


ずっと病室の彼女にとっては唯一の人と繋がれる場で、唯一の楽しみだった。



毎日毎日inして掲示板で会話して、交われる場所だった。




私は2年ほど一緒にプレイしていた。








そして昨日、旦那さんからメッセージが来た。






2週間ちょっとの間、辛かったかもしれません。



ゲームの中でしか繋がってなく何もしてあげられませんでしたけど、どうか安らかに眠ってください。


ふと思い出した言葉。
「あなたが虚しく過ごしたきょうという日は、 きのう死んでいったものが、あれほど生きたいと願ったあした」





ゲームの中で彼女と交流があった方もおられると思います。彼女に変わって御礼申し上げます。







改めて彼女のご冥福をお祈りいたします。