「ごめんね、帰って来たばかりなのに!」
「いいよ、ちょうど暇だったし」
「お金はここから使ってね、よろしく!」
お母さんはそう言って、私に財布を預けると部屋を出ていった。私は制服のまま、脱ぎたての靴下を持って少し考える。頼まれたのは、近所のスーパーへのおつかい。お好み焼きを作ろうとしたら、ソースとかつお節がなかったらしい。それがなかったら、ケチャップか何かでお好み焼きを食べることになってしまう。
「…このままいくかー」
次第に暖かくなりつつある季節、夜は寒いけれど、凍えるほどではない。私は冬の制服に、素足で、クロックスサンダルを履いて出かけることにした。靴下は洗濯かごに入れる。一度脱いだ靴下をもう一度履くのはなんだか嫌だし、わざわざ新しいものを履くのはもったいないと思った。
「いってきまーす」
「お願いね!寒くない?」
「うーん、たぶん大丈夫!」
素足をクロックスに突っ込むと、私は家を出て徒歩でスーパーへ向かった。スーパーまでは、自宅から歩いて5分くらい。夕方でまだ日はあるけれど、風は少し冷たかった。クロックスに開いた穴から風が吹き込んで、足を程よく冷ましてくれる。
スーパーに入ると、冷気のせいで外よりももっと寒く感じた。上半身は暖かいけれど、下半身はスカートに素足なので結構寒い。早く買うもの買って帰ろう。かごを持って、お野菜やお魚コーナーをスルーして、ソースのコーナーへ。やっぱり定番はブル〇ッグかな。などと見ていると、急に背中をつんつん。なんだ!?新手のちかんか!?と思って振り向くと、そこには東戸さんの妹ちゃんが立っていた。
「西野先輩!お久しぶりです!あたしです!びっくりしましたか?」
「なんだあ、妹ちゃんかあ!びっくりした!」
「えへへ…。西野先輩も、おつかいですか?」
「そうなんだあ。お好み焼きしようとしたけど、ソースとかつお節がなくって」
「えー、そんなのお好み焼きじゃないですね!」
そう言ってくすくす笑う妹ちゃん。すごく、かわいいなあ。それにしても。
「…そのかっこ、寒くない?」
「あたしですか?ちょーっと、さむいですね!」
妹ちゃんは、長袖のTシャツに、ショートパンツに、素足、スニーカー。私よりも、素足が出ている面積が大きかった。靴下は…、妹ちゃんのことだからやっぱり履いていないんだろうか。
「でも、あたしは元気なので大丈夫です!」
まあかくいう私も素足なんだけれど…。
「なら、よかった!妹ちゃんは、何のおつかい?」
「今日はですね、両親がいないので、何か夕ご飯とデザートを買っていこうと思って」
「そうなんだ!」
それを聞いて、私は少し考える。
「…よかったら、うちで一緒に食べない?お姉さんも一緒に!」
「え、いいんですか?!」
「うん、ちょうどお好み焼きだし、みんなで食べれば楽しいよ!」
「ありがとうございます!さっそく姉に連絡しますね!」
「じゃあ私も、お母さんに…」
電話してみると、二つ返事でOK。ただ、材料が足りなさそうなので追加を頼まれた。財布にはまだお金は残ってるから、大丈夫かな!
「姉もOKで、こっちに向かってるらしいです!ありがとうございます!」
「よかった。じゃあ粉とお肉をもうちょっと追加で買っていかなきゃね。東戸家って何か特別なもの入れたりする?」
「普通ですよ!キャベツに、豚肉に、べにしょうが…」
「そかそか!じゃあそれを買って…、お菓子も買おうか!」
「あ、じゃあその分はあたしが払います!」
買い物を済ませて、スーパーの外に出る。やっぱり中より暖かく感じた。
「結構買っちゃったねー。お姉さんはまだかな」
「そろそろだと思いますけど…、あ、あれじゃないかな」
妹ちゃんが指さす方を見ると、見覚えのあるシルエットがこちらへ向かってきていた。
「さっきぶりだねえ。西野さん、どうもおねまきいただきまして…」
「姉、おまねき、でしょ…」
「え、なんか違うこと言った?」
妹に指摘されて、頬が赤くなる東戸さん。どっちもかわいいな。そんな東戸さんは、制服から着替えて、紺色の長袖ワンピースに、素足、いつものフラットシューズを履いていた。3人とも素足というのを意識するとちょっとうれしい。
「私の家、ここから5分くらいだから、行こうか!」
3人で学校のことを話しながら、家にはすぐについた。中に入ると、暖房が効いているのかさらに暖かかった。
「お帰り!ありがとねー。で、その子たちが?」
「うん、東戸さんとその妹さんだよ」
「東戸です、お世話になります!」
「こんにちは、おねまきいただきまして…」
「だから、姉…」
そんな二人を見て、お母さんは楽しそうに笑った。よかった、ちょーっと心配だったけれど、大丈夫そうだ。
「さ、寒くなってきたでしょ?あがってあがって!」
「ありがとうございます!」
先に私が、クロックスを脱いで素足を床につける。次に東戸さんがフラットシューズ脱ぐと、妹ちゃんが私にこっそりと、
「あの、すいません、私も姉も、靴下、持ってなくて…」
一瞬、ん?とおもったけれど、ああ、なるほど、と思って、
「大丈夫だよ!私も、お母さんも、気にしないから!」
「そうですか?ありがとうございます!」
そう言って、妹ちゃんは安心したようにスニーカーを脱ぎ、素足を床につけた。元気の良さそうな、赤くなった小さな素足。東戸さんも同じく、素足のままで上がっている。こちらも赤っぽくなっていた。それにしても、きちんとマナーを知っているなんて、妹ちゃんはしっかりしてるなー。
3人でペタペタとリビングに向かうと、お母さんはお好み焼きの準備をばっちり整えてくれていた。私は手早く家着に着替えて、お好み焼き作りに参戦する。
「さ、材料はさっき追加もきたし、たくさん食べてね!」
「ありがとうございます!いただきます!」
「よーし、じゃあ私が焼いちゃうぞー」
「え、東戸さん、できるの?」
「うん、やったことあるし、大丈夫だよー」
席に着いた東戸さんが、混ざった生地をホットプレートへ流し込む、とたんに、ジュウ―といういい音。薄切りの豚肉を載せ、、フライ返しを両手に持って、ちょうどいいタイミングで裏返していく。普段の東戸さんからは考えられないくらい、手際が良かった。
「姉ー、足の裏にキャベツが付いてるよー」
一通り焼き終わって、それぞれおいしいお好み焼きを食べていると、東戸さんの隣に座った妹ちゃんが気づいた。私は二人の反対にいるからわからなかったけれど、イスの上に正座している東戸さんの足裏に、生地が落ちていたらしい。
「えー、どこ?」
「まってねー、とるから…」
「あ、いいよ、じぶんで…ひゃうん!」
東戸さんが言い終わる前に、妹ちゃんは足の裏に手を伸ばして、生地を取ってしまった。
「まだ生地が付いてるなー。西野先輩、ティッシュ、いいですか?」
「うん、はーい」
「ありがとうございます!」
「ま、まって、じぶんで…ひゃ、ははああ」
フライ返しを両手に持っている東戸さんは即座に反応できず、妹ちゃんにされるがまま、足の裏をティッシュで拭かれてしまった。
「よーし、きれいになった!」
「はあ、はあ、妹…、わざと…」
「へ?なにか言った?」
1人息を切らせる東戸さんと、何事もなかったかのようにお好み焼きを食べる妹ちゃん。とっても楽しい!
「いいよー、2人は座ってて!」
「いえいえ!ごちそうになったのでこのくらいは!」
私もお母さんもいいよって言うけれど、お皿洗いをかって出てくれたので、2人に任せることにした。妹ちゃんは腕まくりをして、てきぱきとお皿を洗っていく。その間、東戸さんと私はホットプレートの処理。焦げや残った生地を取って、妹ちゃんに洗いを託す。その後、2人でお皿拭きだ。お母さんは、
「仕事がなくなってうれしいわあ」
といって、趣味の読書に没頭している。
「妹ー、これもよろしくー」
「おっけー…ひゃう!」
「おわ!」
「ど、どうしたの?」
お皿の残りを渡そうとしたとき、場所を変えた妹ちゃんが急に声を上げた。
「す、すみません、床の水をふんじゃったみたいで…」
顔を真っ赤にして、妹ちゃんはこそっとつぶやく。東戸さんはにんまりしている。もしかして二人とも、足裏は弱いのだろうか?いつか、妹ちゃんの足の裏も拭いてあげたいな…!
「やっぱり外は冷えるねえ」
「二人とも、寒くない?」
「はい、大丈夫です!」
「西野さん、今日はありがとうね!」
「いえいえ!また、食べにきてね」
2人が帰るころには、外は真っ暗になっていた。急に決まったパーティーだったけれど、またいつかやりたいな。
つづく