(東戸さんの住む世界では、新型コロナウイルスは発生しておりません)
「うわー、きれい!」
「東戸さん、あそこ、あいてるよー、いこう!」
私たちの住む町に、春がやってきた。いまは学校がお休みなので、私と東戸さん、上野さんの3人で学校近くの公園にお花見にやってきた。
「それじゃあ、このへんにシート広げよう!」
「わーい、お弁当お弁当♪」
東戸さんは履いていたネイビーのフラットシューズを脱ぐと、家から持ってきた大きめのお弁当をさっそく広げはじめた。今日の東戸さんの格好は、白いTシャツに桜色のパーカー、白いロングスカートにフラットシューズ、ちょっと気になっていたけれど、ちゃんと今日も素足履きだった。ポカポカ陽気で、素足を見せても全然寒くない。そのため、私も今日はショートパンツに素足、サンダルを履いてきた。温かくなると、私も素足で過ごしたい派なのだ。学校ではそれはできないけれど・・・。上野さんはというと、水色の長袖シャツに、ジーンズ、スニーカー。シートに上がったときにちらりと足元を見てみたけれど、白いスニーカーソックスを履いていた。残念・・・!
「あれー、上野さん、靴下履いてる・・・暑くない?」
そんな上野さんをみて、東戸さんも気になっていたらしい。ランチボックスからお手製のサンドイッチを取り出しかけていた上野さんは、靴下に手をかけつつ、
「う、うん、今日はスニーカーだったし、ね」
とつぶやく。東戸さんは素足をグイッと前に出して、足指をくねくね。シートに落ちていた桜の花びらが数枚足裏にくっついている。かわいい。ふつうにかわいい。
お弁当を食べつつ、新学期の話をしていると、急に風が吹いて東戸さんのお弁当に入っていたゴミたちが散っていってしまった。
「あわわわわわ・・・まってえ」
東戸さんは慌てた様子で、素足のまま靴も履かず、芝生の地面に飛び出していった。風のいたずらとはいえ、ごみを散らかすのはいい気持ちはしない。遠くの方まで飛んでいったゴミを集めた東戸さんは、足の裏をはたきながら戻ってきた。
「風、びっくりしたね。全部集まった?」
「うん、たぶんこれで全部かな」
「気を付けなきゃいけないね」
「それより、東戸さん、もうお弁当食べ終わったの?」
「ほんと・・・はやい・・・」
私と上野さんもお弁当を食べ終わると、上野さんの持ってきたバドミントンで遊ぶことに。私と上野さんはそれぞれサンダルと靴を履いて、東戸さんは当たり前のように裸足のまま、3人でシャトルを回していく。
「東戸さん、意外とうまいわね・・・」
「もう、上野さん、意外ってどういうことー?」
それから30分くらい、シャトル回しや1対1での試合をしていると、東戸さんがふいに、
「ちょっと私、トイレ行ってくるねー」
そう言って、公園のトイレの方へ。まって、東戸さん、裸足でトイレは・・・!
「と、東戸さん、まって!くつ、くつ!」
あわてて、私は桜の木の下にあった靴を取りに行く。フラットシューズの中には、桜の花びらがたくさん詰まっていた。
「はやくしないと、もれちゃうよー」
上野さんに腕をつかまれてやってきた東戸さん。靴の中の花びらもそのままに、土で茶色くなった足裏を軽くはたいてかかとを踏んで履く。
「さすがに、公園のトイレを裸足はまずいって!ほら、これで大丈夫!」
「ううー、もれる!」
東戸さんはそう言って、パタパタとトイレの方へ走っていった。
戻ってくると、バドミントン再開。私と東戸さんで対決をしていたその時、バチン、と音をたてて、私のサンダルのバンドが取れてしまった。
「うわっと・・・あちゃ、サンダル壊れちゃったよ・・・」
右足のサンダルは全く固定されることなく、だらんと私の足から離れてしまっている。上野さんもやってきて、サンダルを手に取ると、
「これは、接着剤か何かがないとむりね・・・」
「どうしよう、帰り、裸足になっちゃうよ」
内心、それもいいかなと思ったりもしたけれど、街の中を裸足で歩くのはかなり気が拭ける。日中で、人通りもかなり多いし・・・。
「それもいいんじゃないかな?ね、裸足で帰る?ね?」
東戸さんは目をキラキラさせて私に言う。
「さすがに裸足は危ないよ。西野さん、学校に、グラウンドシューズとかおいてない?」
「あ、ある!」
そうか、その手があった!
「それじゃ、それを取りに行こう!学校までは裸足だけど、頑張って!」
「ありがとう、上野さん!」
「むー・・・裸足チャンスだったのに・・・」
むすっとした東戸さんをなだめつつ、私は壊れた右足のサンダルを脱ぎ、片方だけだとバランスがとりにくいので左足のサンダルも脱ぐと、荷物と一緒にぶら下げて、公園を出た。東戸さんも、土に汚れた裸足のまま、フラットシューズを右手に持って歩く。公園から学校までは比較的人通りも少なく、アスファルトの地面はごつごつしてて、小石がいたい時もあったけれど、なんとか学校の靴箱へたどり着いた。私の靴箱には無事、体育で履く運動靴が入っていた。
「あった、よかったあ」
「これで裸足で帰らなくて済むね」
「うん!・・・っと、その前に足洗わなきゃ」
公園から学校まで、土の地面もあったので、足の裏には土や砂がついていた。昇降口近くの足洗い場で、東戸さんと一緒に土を落とす。
「うひゃあ、冷たいね!」
「きもちいい~」
バシャバシャと小学生みたいにはしゃいでいると、スニーカーとソックスを脱いだ上野さんも参戦してきた。
「あれ、上野さんも裸足だ!」
「な、なんか二人見てると、気持ちよさそうで・・・」
「えへへ、私たち3人、裸足だね!」
「わーい、上野さん、うれしい~」
「ちょ、あぶないから!」
しばらくの間、水と戯れて、上野さんの持ってきてくれていたタオルで足を拭くと、私は靴下を持っていなかったので、素足のまま運動靴を履く。履いた途端、今までの解放感とはうってかわって、蒸れがすごい。じっとりと足に汗をかいているのを感じる。上野さんはまたソックスを履いてスニーカーを履き、東戸さんも上野さんに諭されてフラットシューズを履く。気づいた時には、時刻は5時を過ぎ、夕焼け空になっていた。
「今日は楽しかった!誘ってくれてありがとうね、2人とも!」
「いえいえ!私のアクシデントに着き合わせちゃって、ごめんね」
「ほんとだよー、裸足で帰っとけばよかったのに!」
「それはちょっと・・・」
「ふふっ。じゃあ、また始業式の日に!」
そう言って、上野さんは公園の方へ帰っていった。家がそちらの方らしい。私と東戸さんは、いつもの通学路を帰る。
「もうすぐ始業式だねー」
「そうだねー。また同じクラスになれたらいいな!」
「ぜったい、なろうね、同じクラスに!」
信号待ち、私はもぞもぞと足を動かして靴を脱ぐと、素足を靴の上にのせる、陽が傾いて涼しくなった風が、汗をかいた私の足をなでる。ああ、きもちいい・・・。ふと横を見ると、東戸さんも同じように靴を脱いで素足を見せていた。
「・・・東戸さん、もしかして始業式も靴下履かないで来る?」
「うーん、怒られるの怖いから、一応持っては来るよー」
「・・・ということは?」
「えへへ、もちろん、素足で行くつもり!」
やっぱり、2年生になっても東戸さんだ。短い春休みももうすぐ終わり、新しいクラスは楽しみだけれど、東戸さんや上野さんたちと一緒だともっと楽しいだろうな。同じクラスでありますように・・・!
つづく