「はい、はじめ。まずは解答用紙にクラス・氏名を書くこと・・・」

先生の合図とともに、みんな一斉に解答用紙にカリカリとペンを走らせる。私もみんなに負けじとカリカリカリ・・・。今日から期末テストが始まった。私の学校は前期・後期制なので、前期の期末テストが9月終わりのこの時期に行われる。もうすぐ10月になるとはいえ、外の気温はまだ夏日を超える日が多い。今日も最高気温は25度らしく、制服も移行期間とはいえ、まだ夏服の生徒が多い。私のクラスでも、まだ半分以上が半そでだ。私はあまり半そでは好きではないので、いち早く長袖に切り替えたが、夏制服より生地が厚く、腕まくりをしてもじんわりと汗をかいてくる。

 テスト時の席順では、東戸さんは同じ窓ぎわの列の、ちょうど私の前になる。隣に座るよりも若干足元は見えづらくなるけれど、ちょっと体を前の方にずらせば、東戸さんの足元が見えてくる。先生に言われたのか、はたまた心変わりしたのか、今日の東戸さんは上履きに靴下まで履いていた。新学期始まって1か月、昨日までは朝から素足で登校してきていた東戸さんだが、今日は靴下を履いて登校している。つい昨日まで、日中暑かったせいか、教室に来た途端、素足で履いていた上履きを脱いでしまって、それ以降はずっと素足で過ごしていた。移動教室も裸足のままだったことがある。しかし今日は、朝のホームルームが終わり、一時間目の国語のテストが始まってからも、上履きは完全に脱いでいるものの、靴下を脱ぐ気配はなかった。上履きを椅子の下に脱ぎ捨て、かかとのやや上までという、短めの白い靴下で包まれた足を机の棒にのせている。昨日まで見られていた素足が見られなくなると、少しじれったい思いが芽生える。こんなことを考えちゃうなんて、私って、やっぱり変なのかな・・・。

 東戸さんの足元に気持ちを奪われて、試験が散々だと困るので、一旦そこから気持ちを離してテストに集中する。テスト勉強は日々コツコツ勉強する派の私は、さくさくと問題を解ききると、時間の半分ほどであらかた片付けてしまった。よかった。勉強していたところがちゃんと出てくれた。漢字もおそらくパーフェクトだ。そうして身をややかがめて改めて東戸さんの方を見てみると、東戸さんの足元に変化があった。さっきは机の棒にのせられていた靴下に包まれた足が、いまは椅子の下で組まれている。上履きは机の両端に追いやられ、靴下のままのつま先が床につけられている。やや黒っぽくなった白い靴下の足の裏がこちらを向いている。靴下に包まれた足の指が、始終くねくねと動いており、私はごくり、とつばを飲み込んだ。

 終了まで残り10分となったころ、テスト範囲の問題集にあったかなと、私が最後に残った難問に頭を悩ませていると、東戸さんの足元に大きな動きがあった。靴下の衣擦れの音がしてふとそちらに目を向けると、両足がぺたりと床についていた。そして、右足で左足の靴下のつま先を踏みつけると、左足をそのまま後ろに引いた。すると、踏みつけられていた靴下がするすると脱げていき、左足がスポッと靴下から抜けたではないか。久々に見た東戸さんの素足。右足も同じように靴下を脱ぐと、椅子の下で再び足を組み、激しく素足の足の指をくねくねと動かし始めた。机の下には、端の方や前方などに上履きや靴下が散乱しているという素晴らしい状況に。とうとう我慢できなくなったのかなと、内心とてもうれしかった。

 国語のテストが終わり、解答用紙が回収されていく。東戸さんは終わった途端、大きく伸びをした。素足を机の前方に投げ出し、足指をまたくねくね。私はそんな東戸さんの背中をつんつんしてみた。髪をふわっとさせて、東戸さんが振り向く。

「おつかれー。東戸さん、どうだった?」

「うーん、難しかったよー。小学校のテストと全然違うんだもん。範囲広すぎるよー」

そうぶつぶつ言いながら、机の下に脱ぎ置かれた靴下を拾うと、くるくると丸めて、制服のポケットへ入れてしまった。その様子をじーっと見つめていたからか、東戸さんは自分から説明してくれた。

「テストだからちゃんとしなきゃなって思って、靴下履いてきたんだけど、やっぱりない方が気持ちいいし、集中できるなー。今度からテストの時は裸足になろう」

素晴らしい宣言を聞きつつ、私はうんうんとうなづいていた。

 2時間目は、理科だ。今日はこの後音楽のテストまで受けて、放課となる。11時過ぎには帰れるが、明日以降のテスト勉強しないと、さすがにまずいなと思う。理科や音楽の時間も、東戸さんは上履きを一度も履くことなく、足を椅子の下で組んだり、棒にのせたり、はたまた棒を足指でつかんでグネグネとしてみたり、せわしなく動かしていた。私はそっちに目をやり、問題を解き・・・とかなり大変だったけれど、なんとか今日のテストは大きな失敗もなく終了した。

 3時間目の音楽のテストが終わると、みんな一斉に背伸びをしたり、はあーと大きく息をついたりしている。中学校のテストってやっぱり難しい!

「おわったねー、東戸さん」

机に突っ伏して力尽きている東戸さんに声をかける。足元は、両足の足先を床につけて、指をぐにっと曲げている状態。足の裏が完全にこちらを向いている。今日一日裸足で過ごしたせいか、いつもほどではないものの、足先やかかとがうっすらと黒っぽくなっている。

「つかれたー。明日もテストなんていやだー」

突っ伏しながらそんなことを言っている東戸さん。私は東戸さんに聞きたいことがあった。

「まあまあ、明日もがんばろう!・・・ところで、東戸さん、この後時間あったりする?」

「どうして?」

「えとね、この後一緒に、図書館で勉強とかしないかなーっておもって」

学校は、採点のため放課後に残ることはできないので、勉強するといえば家か地域の図書館で、ということになる。せっかくなので、東戸さんと一緒にできれば・・・!と思ったのだ。

「いいよ!勉強しなきゃなって思ってたんだけど、私、家だと全然集中できなくて・・・。西野さんと一緒なら集中してできそうだよ!行こう!」

「やった!じゃあいったん家に帰って、明日の分の教科書とか持って、図書館に集合ね」

「はーい!」

そういうと、東戸さんは床に脱ぎ置かれた上履きを手に持つと、裸足のままカバンをもって歩き始めた。いつものことなので、特に突っ込むこともせず、一緒に階段を下りる。

「明日はなんだっけ?」

ペタペタと足音を鳴らしながら廊下を歩く東戸さん。毎日裸足の東戸さんの存在は、学校のみんなに認識されているようで、始めはびっくりした表情をしていた生徒たちも、すっかり見慣れたようにスルーしている。こんなに気にしているのは私だけなのかな?

「えーっとね、英語、社会、保健だね。3日目が、数学と美術!」

「うー、あと二日もあるのか・・・」

昇降口に着くと、東戸さんはごく当たり前のように椅子に座り、私はバッグからウエットティッシュを取り出す。

「西野さん、お願い―」

「もう、せっかく上履きあるのにー」

「えへへー、暑い日でも床は冷たくって、気持ちいいんだー」

テスト期間中は掃除の時間がないため、床にはいつもよりホコリがたまっているのか、教室から昇降口までしか裸足で歩いていないのに、土踏まず以外の床についていたところは全体的に黒っぽく汚れていた。ウエットティッシュで優しく拭いていく。東戸さんは、くふっとか、うきゅう、とかかすかに声を上げてくすぐったさを我慢している。小さい足の指がぎゅっと丸くなって、相変わらずとてもかわいい。両足を拭きおわると、東戸さんは

「ありがとう!今日はこのままかえろうっと!」

そう言って、靴箱から夏仕様という通気性の言いスニーカーを取り出し、素足をそれに突っ込んだ。制服に素足、スニーカーの、私の大好きな東戸さんの完成だ。

「じゃあまた図書館前で!ご飯を食べて、2時間後くらいでいいかな?2時くらい?」

「うん!2時に図書館だねー、またあとでね!」

 そして午後2時。半そでシャツに7分丈のチノパン、素足にサンダルを履いた私は、図書館の入り口の日陰で東戸さんを待っていた

楽しみすぎて、かれこれ20分は待っている。どんな格好で来るのかな・・・!

「西野さん、お待たせ!ごめんね、待った?」

「ううん、ぜんぜん!・・・東戸さん、私服、相変わらずかわいいね!」

「えー、そ、そんなことないよう・・・」

東戸さんの格好は、淡い青を基調としたワンピースに、ストラップシューズ、もちろん、素足だ。図書館は土足可なので、そのまま入る。

「はー、すずしい!どこで勉強しよっか?」

「2階に自習スペースがあるらしいから、そこにいこうか」

「そんなのあるんだー」

階段で2階に上ると、通路を通った奥に、自習ブースが並んだ場所があった。テストが近いせいか、私たちと同じくらいの人が多く勉強していた。制服を着ていたり、涼し気な私服だったり。私たちは2人用の自習ブースに座り、持ってきた教科書や問題集を開く。みんなとても静かなので、私たちは顔を寄せ合って何から始めるか相談する。

「どれからやろうか?東戸さん、問題集ってもう全部解いた?」

「うん、英語で宿題になってたところは解いたよ。でも、社会は宿題になってなかったし、ぜんぜん・・・」

「私も、社会は全然・・・。じゃあ、社会をまずおわらせよっか!」

「さんせい!」

筆記用具をそろえて、問題集のページを開くと、東戸さんは足元をごそごそ・・・。横目で足元を見ると、履いていた靴をさっそく脱ぐと、カバンの横にそれを置き、素足をグッと前に伸ばしていた。気持ちよさそうに、赤くなった指をくねくね・・・。

「さて、がんばるぞー」

1時間ほど社会の問題集をカリカリと進め、休憩をとることに。自習ブース周辺は私語禁止なので、通路のソファに場所を移す。東戸さんは靴を履くことなく、裸足のまま、カーペット敷きの床を歩いていた。

「東戸さん、やっぱり裸足なんだね」

「一回脱いじゃうと、また履くのめんどくさいよねー。どうせまた始まったら脱いじゃうし、いいかなって」

ですよねー。

「今日って、何時まで時間大丈夫?」

「うーんとね、夕ご飯までには帰っておいでって言われてるから、6時くらいかな!」

「なるほど!6時になったら外も涼しくなってそうだもんね」

 10分の休憩後、再びブースに戻って、今度は英語の問題集を復習する。さっきの時間はそのままだったけれど、裸足の東戸さんを見ていると、サンダルを履いた足元が妙に落ち着かなくなって、英語を始めて数分後、私はサンダルのストラップに手をかけると、両足をもに外し、サンダルを横に置くと、足をグッと伸ばした。足が軽くなって、とても気持ちいい。カーペットの感触が、家のそれに似ていてとても落ち着く。もともと脱ぐつもりで来ていたけれど、なかなかその決心がつかなかったが、東戸さんのおかげで実行することができた。東戸さんの方を見てみると、いつになく真剣な表情で、足を椅子の下で組み、ノートに英文を書き写している。私もゆっくりしてはいられない。足に力を込めて、英文を覚えに取り掛かる。

 夕方の5時、最後の休憩だ。私たちは靴をブースに置いたまま、裸足で休憩スペースへ移る。ソファに座ってこっそりと足の裏を見てみると、裸足で土足の図書館内を歩いたせいで、うっすらと黒っぽくなっていた。

「あれ?東戸さんに西野さん、やっほー」

「あー、上野さんだ、やっほー」

「ここで勉強してたんだね!おつかれー」

偶然に出会ったのは、同じクラスの上野さん。成績はクラス一番。半そでの制服を着ていた。学校が終わってそのまま来たのかな?

「あれ?ふたりとも靴はどうしたの?」

そう首をかしげつつ聞く上野さん。やばい、リラックスしているのがばれてしまった。東戸さんが答える。

「きゅうくつだったから、来てすぐに、ブースのとこに脱いじゃったんだー。西野さんも一緒に!」

「そうなんだ!靴脱いでやると、なんかちがうの?」

いやたぶん、東戸さんの場合ただ脱ぎたかっただけだよ、上野さん・・・。

「うーん私は、裸足でやった方が集中できるかなー。私はだけど!」

「そうんなんだ。そういえば、東戸さんって最近いっつも裸足だもんね!・・・私も明日やってみようかな・・・」

「え、上野さんも裸足で勉強する!?」

上野さんの何気ないつぶやきを聞き漏らさず、東戸さんは目をキラキラさせて上野さんに聞く。

「うん。私、家ではいっつも裸足だもん。ちょっと恥ずかしいけど、ブースならほかの人から見えないし、明日ここで勉強するときやってみるね」

「うん、ぜひやってみて!」

「ありがとう、東戸さん。西野さんも、また明日、がんばろうね!」

胸の前でぐっとにぎりこぶしを作ると、上野さんはにっこりして帰っていった。仕草がとてもかわいらしい。

「西野さん、きいた?明日、上野さんも裸足で勉強するんだって!」

「うん、聞いてたよー。楽しみだね」

「私たちも、あと1時間、がんばろう!」

「うん!がんばろ!」

 翌日、昨日よりも暑く、長袖できたことを半ば後悔しながらも教室に着くと、前の席には東戸さんがすでに来て、勉強を始めていた。半そでの制服で、足元を見てみると、靴下も上履きも履いていない。脱いだのかなとも思ったが、東戸さんの机の周辺にそれらしきものもない。ということは・・・。

「おはよう!東戸さん、今日ってもしかして・・・」

「あ、おはよう、西野さん!今日?うん、昨日に学んで、最初っから裸足でいくよー」

「そうなんだ!やっぱり、裸足の方が集中できるのかな」

「うん、どうせまた途中で脱いじゃうし、面倒だから最初っから裸足!」

東戸さんは素足を棒の上に置き、足の指をくねくね。日に焼けていない、スラリとした素足がまぶしい。

 その日の3教科も、昨日の勉強のおかげか、大きな問題なく終了した。私たちはまた2時ごろに図書館に集合する約束をすると、いったん家に帰ることに。翌日は残り2教科だから、幾分か気持ちが軽い。でも、私の苦手科目、数学が残っているのが心配だ・・・!

 私服に着替えて図書館に着くと、東戸さんはすでに入り口近くのベンチに座って待っていた。今日の東戸さんの格好は、半そでの私服セーラー服に、昨日と同じストラップシューズ。結構待っていたのか、そうでもないのか、東戸さんは靴を完全に脱いで座っていた。片方の靴は完全にひっくり返っている。東戸さんは私に気づくと、足で靴を裏返し、スポスポと素足を突っ込んでこっちに駆け寄ってきた。

「わーい、西野さんだ。今日も頑張ろう!」

「ごめんね、待たせちゃって。はいろうか!」

図書館内は相変わらず冷房が効いていて、2階の自習ブースは昨日より利用者が多かった。きょろきょろと見渡すと、見慣れた後姿の女の子が見つかった。足元に視線を向けると、椅子の下に組まれた素足の足裏がこちらを向いている。白いスニーカーは丁寧にバッグの横に置かれていた。視線に気づいたのか、その女の子、上野さんが振り向いた。頬を染めて、ちょっと恥ずかし気に手を振る。私たちも手を振り返すと、近くの2人用ブースに座り、数学の問題集に挑み始める。東戸さんは昨日と同じように、座った途端に靴をポイポイと脱ぐと、素足をグッと伸ばした。私も、今日は最初から素足になる予定で、脱ぎ履きのしやすいフラットパンプスを履いてきていた。サンダルと違って足先がすっぽり隠れてしまうから、暑い中自転車をこいでくると結構靴の中で汗をかいていた。両足のかかとを浮かせて、一気にスポッっと脱ぐ。冷たい空気が、汗をかいた足を撫でて心地いい。

 1時間後の休憩を、お互いに裸足のままでソファに座って取っていると、素足にスニーカーを履いた上野さんが、マイボトルを持って、きてくれた。

「おつかれー。あは、相変わらず裸足だね、2人とも。勉強、はかどってる?」

「おつかれ!うーん、ぼちぼち、かなあ」

「私は、数学苦手だから、けっこうきついよ・・・」

「難しいよねー、数学。問題集を何回も解いとけばいいって、先生も言ってたし、それが一番いいのかな?」

「なるほど、何回も解くのか・・・」

「上野さん、それで、集中具合はどう?」

東戸さんが尋ねると、上野さんは少し頬を赤くして、

「えへへ、ちょっとお行儀悪いかなって思ったんだけど、家と同じ開放感があって、リラックスして勉強できてるよ。集中度はすごくあがったかな!」

「そうなんだ!よかった!」

とてもうれしそうに微笑む東戸さんを見て、私たちもにっこり。

その後、数学の問題と闘いながら数時間過ごし、途中で上野さんを見送ると(帰るときにはしっかりと靴と靴下を履いていた)、私たちも帰り支度を始めた。

「明日が一番心配だなー、数学」

「大丈夫だよー。今日もこんなにやったんだし!」

「うん、おかげで大分解けるようになったしね!」

お互いに素足を靴に突っ込むと、図書館を後にする。涼しくなった風が、素足をなでる。

 期末テスト最終日。今日は私が東戸さんより早く教室に着いた。数分後に来た東戸さんは、相変わらず裸足。上履きも靴下も履いていない。

「おはようー。今日で最後だね!」

「うん、がんばろう・・・って、西野さん、それ・・・!」

東戸さんは私の足元を見て驚いたような表情をする。それもそのはず。今日の私は、東戸さん仕様だったからだ。違うのは、東戸さんは靴箱に上履きを置いているところ、私は教室まで上履きを履いてきて、今は机の下に置いている。靴下は朝履かずに、バッグに入れてきていた。

「数学だけは頑張ろうって思って、今日は裸足で頑張るよ!」

「わーい、おそろだね、おそろ」

嬉しそうにはしゃぐ東戸さん。やがて先生が入ってきて、数学の試験が始まった。足の指をくねくねと動かす私たち。裸足で過ごすのはちょっぴり恥ずかしかったけど、1週間後に帰ってきたテスト結果を見てみると、裸足学習法も悪くないなって思えた。この調子で、次のテストもがんばろう。

 

つづく