ミミが最初に入った教室へ、ペタペタと歩を進める。そこはおそらく職員室。何も乗っていない先生の机が並んでいる。ここだけは床が絨毯になっていて、足に優しい感じがする。
「ミミー?どこー?」
確かここに入ったはずなのに、ミミの姿が見えない。どこ行ったんだろう。机の下などを探すが、一向に見つからない。
「ミミー??」
まさか、神隠し…?!と焦っていると、
「ばあーーーー!!」
「キャーーーーー!!!」
突然、掃除用具入れから飛び出してくる小さい子ども。叫びながら飛び避けて、床に倒れる。
「あはは、びっくりした?お姉ちゃん!」
そこにいたのはミミだった。
「も、もう、びっくりさせないでよ!心臓止まるかと思った…」
「あはは、お姉ちゃん、次いこ、次!」
ミミに手を引かれて、やや腰が砕け気味だったがなんとか立ち上がる。倒れたせいで、手のひらや服がほこりまみれ。ぱんぱんと払いながら、ミミのあとに続く。1階には他に、校長室や給食室、保健室などがあり、特におかしいところはなかった。ほっと胸をなでおろしているとすぐさま、
「お姉ちゃん、次は2階だよ!」
とミミに手を引かれて、校舎の端にある砂埃が積もった木の階段を上り、2階へ。
 前を行くミミのソックスの足裏は、ホコリや砂ですでに真っ黒。洗って落ちるのかな?と考えながら2階へ行くと、そこは1階よりも荒れていた。窓こそ割れていないが、天井タイルが落ちていたり、壁が崩れていたりして、床に散乱していた。廊下は暗く、ひんやりさが増している。なにか出てきてもおかしくはない…。
「ね、ねえミミ、ほんとに行くの…?」
しゃがんでミミの肩に手を置き、聞いてみる。
「あたりまえじゃん!これならきっとお化けが出てきてくれるよ…!」
そう言って網を構えるミミ。これは何か出て来なきゃ帰れないな…。
 2階は教室が並んでいる。朽ち果てたクラスプレートにはところどころ、1年生や2年生の文字が読み取れる。組はないのかな。
教室の中は、机が全て取り除かれてがらんとしていた。ミミはスタスタと入っていくが、大きな虫の死骸やフン、砂、ホコリが目に見えて床に堆積しており、とても裸足の足を踏み入れる気にはなれなかった。
「お姉ちゃん、入らないの?何もいないよ?」
「いやー、そのー…」
怖いんじゃなくて床が…と思っていたら、ミミがハッとした顔をして、
「お、お姉ちゃん、後ろ…!」
「えっ、なに?!なに?!」
私は慌てふためいてミミのもとへ、ホコリの積もった教室をペタペタと走り寄る。
「えへへー、なにもいないよお」
「なっ、…ミミーー!!」
またしてもミミにからかわれてしまった。悔しい…!!
ミミはあははと笑いながら、ペタペタと歩きながら窓の外や掃除用具入れ、黒板などを見て回っている。歩いた後にはそこだけホコリが取れて足跡が出来ていた。私は服に付いたホコリを払うと、廊下に出て待っておく。ミミにどう仕返しをしようか、割と本気で考えていた。
「何もいないねえ、となりいこ、となり」
 2階の教室も全て見て回ったが、どれも変わらずがらんとしていて、異常はなかった。
「おかしいなあ、何もいないよ、お姉ちゃん」
「いたほうがおかしいんだけどね…」
「残りは3階だよ、お姉ちゃん…」
「そ、そうね…」
3階は5、6年生の教室や、理科室などの特別教室が並んでいるらしい。理科室…人体模型…まさかね…。そう思いながら、階段に足を踏み入れると、
  ヒョオオオオオ…
なんだか不気味な声が聞こえてきた。
「ちょ、ちょっとミミ、やめてよ…」
次はからかわれないぞ。振り向いてそう言うと、ミミはキラキラした目で、
「ミミじゃないよ!」
「え?」
「きっと、お化けの声だよ!」
私は急に寒気がして、
  ヒョオオオオオ…ガタン!!
その音を聞いた瞬間、私はミミの手を引いて階段を下の階に向かって駆け出した。
「お、お姉ちゃん?!」
「ミミも!早く!」
 
つづく