「お姉ちゃん、おはよう!朝だよ!!」 
枕元に響く元気な声に目が覚めた。時計を見ると、時刻はまだ7時半。夏休みなんだし、まだまだ寝ていたい。
「うーん、あと5分…」
「ねえ、お姉ちゃん、今日も一緒に遊ぼうよ〜」
再び目をつぶったが、私のいとこで小学3年生のミミはなおも体をゆ。これでは寝ていられない。仕方なく重たい頭を起こした。朝ごはんを食べおわると、ミミがやってきて、
「ねえねえ、今日の夜、きもだめし行かない?!お化けが出るってウワサの学校があるんだ!」
「き、肝試し?!」
その言葉を聞いた途端、背筋に悪寒が走った。私は大のお化け嫌い。ホラー番組とか心霊写真とかましてや肝試しなんて、むりむり!!
「む、むりむり・・・!」
「・・・お姉ちゃん、お化けこわいの?」
いじわるそうな顔で聞いてくるミミ。なんかバカにされたみたいでカチンときた。
「べ、べっつにー。こ、怖くなんかないもん」
「じゃあきまりね!」
行く流れになってしまった・・・でも、夜は絶対嫌だ。
「ま、待って待って、ほら、お昼に行くのはどう?肝試し」
「へ?」
きょとんとするミミ。そりゃそうだよな、昼に肝試しなんて。
「お昼に行っても面白くないよお!」
「そ、そんなことないんじゃないかなあ。お昼にしか出ないお化けに会えるかもよ!」
なんだよそれ、夜行性(?)じゃないお化けっているのかよ。でも意外とその説得は効いたみたいで、ミミはホホに手を当てて考え出した。叔母さんの考え込む仕草にそっくりだ。
「うん、じゃあお昼に行こう!変わったお化けに会って、ミミ、みんなにジマンするんだ!」
かくして、前代未聞、お昼の肝試しに行くことになった。ミミと2人で…。
 お互いに今日の分の宿題を済ませ、お昼ごはんを食べるといざ旧小学校へ。「旧」というのは、5年前、町に3つある小学校が統合され、そのうちミミの家の近くにある学校は、今は使われていないのである。
「お姉ちゃん、準備できたー??」
ひょこっと私の部屋に現れたミミは、小3らしい半袖Tシャツに麦わら帽子、ショートパンツにピンクのうさぎのワンポイントが入ったハイソックスという格好。たぶん町に1つあるし○むらファッションかな。私はというと、実家から持ってきた半袖シャツにデニムパンツ、夏だし暑いから素足。ちょっと遊びに行くくらいならちょうどいいオシャレだ。
「それじゃあミチおばさん、いってきます」
「いってらっしゃい!ミミをよろしくね」
叔母さんに行き先を告げ、いざ肝試しへ。
「…ねえミミ、それ、何に使うの?虫取り?」
家の前で待っていたミミの右手にはなぜか虫取り網が。肝試しに行くんだよね…?
「これー?虫じゃないよ、お化けをつかまえるの!」
まじか。お化けって網で捕まるのかいやいや…。
「そ、そっかー…、捕まるといいね…」
 暑い日差しの下、帽子かぶってきたらよかったと思いながら田んぼの中の道を歩く。山に差し掛かると木陰が涼しい。舗装されていない山道を登っていくと、家から15分ほどで、例の小学校が現れた。底のの薄いサンダルで来てしまったため、土が足にまとわりついてざらざらする。
「あら、意外と綺麗なんだね」
校門に手を添えて足裏を払いながらあたりを見渡す。旧小学校って、つまり「廃校」のことだから、もっと荒れ果ててるのかと思ったが、グラウンドは草が手入れされており、木造3階建の学校の窓も割れたものは見当たらない。
「うん!毎年お祭りとか運動会とかやってるから!おじいちゃんおばあちゃんがきれいにしてくれるんだ。ミミもお手伝いするんだよ!」
「そうなんだ!えらいねえ」
「でも、中には入ったことないんだー。お姉ちゃん、ここ入り口みたいだよ!」
そういえば、廃校なのに開いてるのかなと今さらながら思ったが、ミミが手をかけると、ギギっと嫌な音を立てながら入り口の引き戸は開いた。
 「お、おじゃましまーす…」
電気の付いていない校内は暗く、外よりも大分涼しい。かいていた汗が一気に引いていった。
「よし、お姉ちゃん、きもだめし、はじめるよ…!」
キラキラした目でこちらを向くミミ。とても楽しんでいるらしい。今いる場所は昇降口だろうか、空っぽの靴箱が並んでいる。ミミは履いていたスニーカーを脱ぐと、手近な靴箱にそれをしまった。ピンクのハイソックスだけで廊下に立っている。
「え、靴って脱ぐの…?」
廃校だし、誰もみてないから別に土足でもいいんじゃない…と思ったが、
「当たり前じゃん!学校は土足きんしなんだよ!ほら、お姉ちゃんもサンダルぬいで!」
てっきり土足で行くのだと思ったから、上履きなんて考えもしなかったし、靴下も履いてない。見たところ校内までは掃除の手がそれほど届いておらず、木の廊下にはところどころ虫の死骸やホコリがたまっているのが見える。そんなとこを裸足で歩けと…?でも、土足で上がったらそれこそ今のそミミに人格否定されかねない。ここは仕方ないか、帰ったら即刻足洗おう…。
「お姉ちゃん、はやくー」
ミミはさっそくペタペタとソックスのまま歩き、近くの教室の扉を開け、手招きしている。まだ小3だし、靴下のままほこりまみれの学校の中を歩くのに抵抗はないんだろうな…。
「はいはい、今行きますよー」
私は履いていたサンダルを脱ぐと、ミミの隣の靴箱に入れ、素足を床につけた。途端に感じる冷たさとザラザラ感。うわあ、やだあ。裸足で学校を歩くなんて、初めてだ。せめて靴下でも履いていたら…。でもここは我慢…!
 
つづく