・・・とはいったものの、なかなかそうはいきません。アカネお姉さんのクラスの今日の時間割は、午前中に英語、世界史、美術が2時間、午後に生物、LHRを受けて、放課です。今日のLHRは芸術鑑賞だそうですが、詳しくはアカネお姉さんも把握していなかったので、よくわからないまま・・・。しかし、講堂での鑑賞かもしれないらしいので、そうなったらかなり大変です。何せ、移動教室が美術、生物、LHRと3つの授業であるわけですから、かなり学校内を歩かなければならないのです。なるべくソックスのまま歩きたくなかったのに・・・!
無事に担任の先生に入れ替わりがばれることなく朝のHRを終えて、英語の時間。案の定アカネお姉さんは宿題をやっておらず、宿題の答え合わせをその場で考えてなんとか乗り切りました。当てられたときはひやひやしましたが、英語が得意な私には簡単な問題でよかったです。そして英語が終わっての休み時間、アオイさんたちが私を取り囲みます。
「アカネ、今日すごかったね!宿題してきてたん?」
「アカネ、英語嫌いだったのに、今日はすらすら答えてたよね、雪でも降るんじゃないかな?」
そうでした、アカネお姉さんは英語といわずお勉強全般が苦手。特に数学は赤点を取ってくるほどだったのです。
「えーっと、今日のとこはたまたま、解けちゃったん・・・だよね!すごいでしょ!?」
なんとかノリでその場を乗り切り、世界史の授業まで受けると、美術室へ移動します。ここまでは自分の席から一歩も動きませんでしたが、今度はそうはいきません。
「アカネ―、美術室いこー」
「あ、う、うん!」
茶山さんや黒沢さんたちが上履きを履いて移動するなか、自分はソックスだけ。そんな状況に次第に慣れつつある自分が怖くもあり、安心感もあり。相変わらず、なんで?の気持ちは消えないのですが・・・。
美術室は私たちの教室のある校舎から渡り廊下を通った先の旧校舎にあります。名前の通り、そこは一段と古くなっており、床はタイル張り。もともとの色はもっときれいだったはずなのですが、今はくすんで、端っこにはホコリがたまっています。土足でもいいのではないかと思うようなところをソックスのまま歩くのにはかなり抵抗があり、私は少しでも床との接地面積を減らしたくて、そこではつま先立ちで歩いていました。
「アカネ、なんでつま先立ちなん?おかしー!」
「ほんとだ!いつもはどこでもぺたぺた靴下のまま行くじゃん!」
「あ、だ、だよねー!」
またもお友達に怪しまれてしまいました・・・。あきらめて、足の裏全体をつけて歩くことにします。
美術室は特に席が指定されているわけでもなく、私はアオイさん、モモコさん、サクラさんたちとくっついて座ることになりました。
「はい、じゃあ前回の続きからいきましょうか。各自、準備をして、始めてください。机の間を回っているので、何かあればよんでね」
アトリエにこもってひたすら絵を描いていそうな雰囲気のおじいさん先生は、それだけ指示をするといったん美術準備室に入ってしまいました。前回の続きといっても、いったい何をするのでしょう・・・?アカネお姉さんからは、絵を描いているから、その続きを適当にやってて、とだけ聞いているのですが・・・。
「アカネのって、これだよね?」
何もわからず席に座ったままわたわたしていると、モモコさんがアカネお姉さんの絵を持ってきてくれました。
「わ、ありがとう!」
受け取った絵を見て、首をかしげます。これは、何を描いているんだろう・・・?アカネお姉さんとは双子とはいえ、これが一体何を描いているものなのか、見当もつきません。風景画であることはわかりますが、全体的にぼんやりとしていて、どこに何を描いているのか・・・。みなさんは各々で傍らに写真を用意して描いていますが、お姉さんからは何も受け取っていませんでした。このまま2時間何もしないで放置、というのももったいないので、自分なりにこの謎の絵の続きを描くことにしました。絵具と水を用意して、キャンバスに向き合います。ここはこう、これはこんな感じで・・・という風にやっていると、あっという間に2時間が経過してしまいました。
「おつかれ~!。相変わらず、アカネってこういう時は集中するよね!」
「ほんと!勉強の授業は寝てたり別のことしてたりなのに!」
アカネお姉さんは学校ではそんな感じなんですね・・・。私はどんな授業でも集中できるので(体育は別ですが・・・)この美術でも集中して、絵はほとんど完成してしまいました。アカネお姉さんの描きたかったものなのかはわかりませんが・・・。
絵具と、水入れの片付けに向かいます。水を捨てようと、手洗い場に近づいた時でした。もう少し私が思慮深ければ気づけていたのですが、みんなが水入れを持って近づくそこの周辺は、水が跳ねたりこぼれたりと、あちこち濡れているのでした。それに気づかず近づいた私のソックスは、両足ともじんわりと濡れてしまったのです・・・。
「それでさ、アカネってあれ、何の絵を描いてるの??」
「ええーっと、うちのおばあちゃんちの近所の、風景、かな!」
本当はそんなわけないのですが、適当にでっち上げます。2時間続いた美術が終わると、お昼ご飯を食べるためいったん教室へ戻ります。先程濡れてしまったソックスに不快感を感じながらも、来た廊下をペタペタと戻っていきます。家では濡れたらすぐに履き替えるのですが、今日は替えのソックスなんて持っていません。雨の日なら別だったのですが・・・。
つづく