「チハヤちゃん・・・」
「は、はい・・・」
「そうだよね、そうだよね!あたし、ずっと我慢してたんだ。チハヤちゃん、見てたかな。あたし、靴下履いてるとき、授業のときはいつも上履きを脱いじゃってるの。靴下も履いて、さらに上履きまでって、なんでそんなに足を包まなきゃいけないんだろうって、いつも不思議だったなあ」
「あ、確かに・・・」
花畑さんは足癖が悪いのか、校舎内を歩くとき以外はいつもといってもいいほど、上履きを脱いでいた。靴下を履いている時はもちろん、素足の時も。完全に両方の上履きを脱いで、机の棒にのせたり、イスの上に正座をしたり。たまたま花畑さんの後ろの席になったときは、授業を聞いて、彼女のそんな姿を見て、と忙しかった。
「決めたっ!あたし、今度から学校の中は素足になるっ」
「え、ほんと!?」
「うん!さすがに靴下履いてこないのは、先生に怒られそうだから・・・。だけどせめて、学校の中では!ね!」
なんとありがたい決意。私は今度の月曜日から、そんな彼女の姿を合法的(?)に見られる!
「チハヤちゃん、うれしそうだね!」
「ふえ?!え、顔に出てた!?」
「うん、もう満面の笑みだったよ」
「うわー、恥ずかしい・・・」
友人の素足が見れることで喜ぶ女子高生なんて・・・。
「でも、あたしのことをわかってくれる人がいて、ほんとによかったと思ってるよ!一人でもそんな人がいてくれたら、心強い!」
「そ、そう・・・?」
「うん!来週から、またいっぱい楽しもうね!」
花畑さんの決断を見届けた私は、ふと窓の外に視線を向ける。そこには青々とした広大な田んぼが広がっていた。
「わあ、すごい・・・!」
「え?ひゃあああ、すごい、すごいよ、シャッターチャンスだよ、チハヤちゃん!」
「あ、う、うん!」
私は急いでカメラを準備して、笑顔でピースを決める花畑さんと車窓を収めた。それで満足していたのだが。
「ねえ、チハヤちゃん、ちょっとそっちのシートも使っていい?」
「え?うん、いいけど・・・」
花畑さんはなにか考えがあるようで、私は一つ隣にずれた。そんな私の真横に、彼女の素足が伸びてきた。思わずごくりと息を飲み込む。あの花畑さんの素足が、目の前に・・・!あと少し手を動かせば触れる距離に・・・!
「は、花畑さん・・・?」
私は何が起きているのかよくわからず、口をパクパクさせていた。
「ほらほら~、カメラカメラ!ポーズ決めてるんだから!」
あ、そういうことか!私は周りに誰もいないことを確認して、通路に立つ。結構揺れがひどいけれど、立てないほどではない
まぶしいくらいの外の緑と、長く伸びた花畑さんの素足。しっかりとポーズを決めた彼女を、無事にファインダーに収めた。後で見返すと、脱ぎ置かれたブーツまでちゃんと入っていた。
私はシートに戻ると、最後にもう一つ浮かんでいた質問を投げかける。
「花畑さん、ううん、・・・ヒマワリちゃんって、ブーツまで素足で履いてるの、それも素足が好きだから??」
「チハヤちゃん、いま・・・。うん、ブーツって素足で履くものじゃないってわかってはいるけど、でもそれ以上に素足が好きなの!」
「サンダルとかじゃ、だめなの??」
「うーん、難しいとこなんだけど・・・。ただね、この服には、サンダルより、ブーツが似合うかなって!」
えっとそれはつまり・・・?
「つまりだね、おしゃれは我慢ってこと!だよ、チハヤちゃん!」
そう言って、ヒマワリちゃんはかわいくウインクをした。
おわり