「は、花畑さん、大丈夫?!」

「う、うん!よかったあ、まにあった!」

飛び乗った瞬間に汽笛が鳴り、扉が閉まった。のりかえ2分で死ぬ気で跨線橋を渡ってきた私たちは、冷房の効く車内を見渡した。1両編成のディーゼル車には、見えるだけで乗客は2人。どこにも座り放題だ。

「花畑さん、どっちの方が景色いいかなあ?」

「そうだねえ、やっぱり海を見るなら右がわかな!」

というわけで、進行方向右側のボックス席に向かい合って座る。荷物を入れたリュックはすぐ横に。人が来たら、網棚に移そう。向かいに座った花畑さんは、リュックから取り出したアクエリアスを飲むと、おもむろにブーツのチャックを下しだした。季節は夏真っ盛り、私は夏用のスニーカーに、スニーカーソックス、7分丈のデニム、Tシャツ、帽子。身長140センチという小柄な花畑さんはというと、茶色のショートブーツに膝上丈のデニムサロペット、Tシャツ、麦わら帽子。ひまわり畑が似合いそうな、とても夏らしくかわいいファッションだ。髪は、ほんのりとしたショートの茶髪。花畑さんはブーツのチャックを下し切ると、

「フン・・・っと、あれ、なかなか・・・」

一苦労しながら、ブーツを両足ともに脱いでしまった。イスに足を上げて女の子座りをした花畑さん、てっきり靴下を履いていると思っていた彼女は、素足だった。暑いのに、素足に、ブーツを・・・?

「ふー、すずしい!クーラー効いてるねえ」

「は、花畑さん・・・?」

はたしてこれは聞いていいものなのだろうか。手をうちわのようにして、自分の足に風を送っている。真っ赤な足裏を私の方からも見ることができる。花畑さんの素足の裏。かわいい・・・。

「チハヤちゃん?どうかした?」

「え、う、ううん、なんでもないよ!次に降りるのはどこだっけなあ」

「もう、さっき言ったでしょ!さっきの駅から56分、西中駅だよ!」

「ああー、そうだったねえ!」

「長いから、ゆーっくり車窓をながめとこ!」

さっきから車窓ではなく、花畑さんの素足に目が行ってしまうが、とりあえずうなづいておく。

「あ、ほら、海だよ、チハヤちゃん!」

そういって窓枠に手をかけ、体をグッと寄せる。そのまま膝立ちに。スカートが椅子からふわっと浮いて、彼女のまぶしい素足がより強調される。窓から差し込む光に照らされた、真っ白な素足・・・。暑い中、朝からずっと履き続けていたであろうブーツから解放されたそれは私の眼には光って見えた。

「わー、キレイ!光ってる!チハヤちゃん、ほら写真写真!」

「あ、う、うん!」

リュックからカメラを取り出し、うまく花畑さんと外の景色が見えるようにレンズに収める。ダブルピースをする花畑さん。うまく光を調性して・・・。

「いくよー、はい、チーズ!」

「チーズ!」

パシャ。

「次はスマホだね!ほら、入って~」

椅子から素足のままの足を降ろしてこちらへ身を寄せる花畑さん。ああ、いい香り・・・。

「えーっと外も見えるようにして・・・いくよー、」

パシャ。

「よし、とれた!」

私は外の写真を撮りながら、素足の彼女を写真に収めたいと思っていた。そのためには・・・。

「花畑さん、もう一枚、いいかな??」

「んー、写真?もちろん!」

「ありがとう!じゃあ、姿勢はそのままにして・・・」

「おっけー!」

今の彼女は再び膝立ちになっていた。私は席を立ち、通路にしゃがむ。

「で、そのままカメラ目線おねがーいします!」

「おー、チハヤちゃん、すごい角度から・・・」

今のカメラには、青い空だけでなく、チハヤの笑顔、全身が素足の先まで移っている。赤くほてった、かわいい素足・・・。それがカメラの目の前に。

「じゃあいきまーす、はい、チーズ!」

「チーズ!

パシャ。

よし、これは一生削除しないぞ。ほかのもちゃんとデータには残すけど!

 

つづく