「ヒナ~、まって!」
わたしがあわてて呼び止めると、ヒナは立ち止って、振り返った。
「なんだ、ココロ、まだ教室だったの?」
「うん、待ってたんだよ」
「ごめんね」
「いいよいいよ。でも、どうしたの?ハタちゃんに、言わなかったの?」
「だ、だって、さ、は、恥ずかしく、なっちゃって・・・」
うつむいて、顔を真っ赤にするヒナ、ああ、かわいい・・・!
「そうだよね、恥ずかしいもんね・・・」
「うん・・・」
「じゃあ、今日。ずっと靴下のままなの?」
「うん、もう、あきらめるよ。もう靴下、汚れちゃってるし、この靴下で、学校のスリッパ、汚したくないし」
さすがヒナ、学校の備品のことまで考えてるなんて・・・!
「そっか。じゃあ、困ったら、なんでも言ってね!」
「ありがとう~!頼りにするよ」
腕をぎゅっとしてくれた。小さくて温かいヒナの体が密着する。私はついドキドキしてしまった。
ヒナと一緒に、理科室までの道のりを歩く。これが結構遠くて、ペタペタとソックスのままのヒナには苦痛が伴うのではないだろうか。そう思ったけれど、意外と落ち込む様子もなく、わたしとの会話を楽しんでいるようだった。
今日の理科の授業は、教室を飛び出しての空の観察。なんかいい感じ。楽しそう。理科の授業は机ごとに班になっていて、わたしの班は、ほかに男子3人とお友達のハルナちゃん、それにヒナの6人だ。別に班ごとに行く必要はないのだけれど、わたしたち女子3人は、自然と一緒に行動する。体育館棟屋上のプールまで、また長い道のりだ。
「大変だね、ヒナ、足、大丈夫?」
「うん、全然平気だよ。もう、慣れちゃったかも」
「そういえば、ヒナちゃん、上履きはどうしたの?」
ハルナちゃんが尋ねる。ごくごく普通の疑問だ。
「えっとね・・・、忘れちゃったの・・・」
「ええ?!あのヒナちゃんが、忘れ物?」
「私もびっくりしちゃったよ・・・」
「それもよりによって上履きなんて、靴下汚れちゃうんじゃない?上履き、貸そうか?」
「ううん、いいよ、もう汚れちゃってるし、ハルナちゃんのが汚れちゃうよ」
「そう?こんなときもやさしいね、ヒナちゃん」
プールにつくと、意外とプールサイドは汚くて。
「うひぇ、鳥さんの、アレが・・・」
「が、がんばって、踏まないように気を付けてね、ヒナ・・・」
「空じゃなくて、地面みとかなきゃだね・・・」
やがてヒナにとっては大変な、空の観察も終わり、理科室へ戻ることに。いつしか、ヒナは爪先立ちでちょんちょんと歩いていたはずなのに、今では足の裏全体を付けて歩いている。
「ねえココロ、次はなんだっけ?」
「うーんと、あ、ハタちゃんの数学だよ、教室で」
「よかったあ、教室に戻れる!」
「まあその後、体育とかあるけどね・・・」
「あ、そうだった・・・」
チャイムが鳴り、理科の授業が終了した。教室に戻るのも、また大変そうだ。
つづく