私は一人、白ソックスのまま校内を歩いていました。相変わらず床は冷えて、足の裏が痛いほどです。私が模試を受けた教室に戻ると、すでにそこには生徒は誰も残っておらず、模試の担当の人が撤収作業を進めていました。一応その人にも訊いてみることにします。

「あのう、すいません」

「はい?」

う・・・。明らかに迷惑そうな顔をされてしましました。その人はまだ大学生とも思われるような若い男の人でした。一人で、机の上に残された受験番号のカードを回収していたようです。私はそのまま会話を続行するのがためらわれてしまいましたが、意を決してその人に問うてみました。

「あの、靴って、残ってませんか?」

その人は作業の手を止めて、私の方を向きました。それからちらと私の足元に視線を向けると、すぐに私の顔を見ました。そのときには、その人の顔に先ほどまでのいらだちは見られませんでした。

「いえ、さっきから見回ってるけど、ここにはなにも残ってないよ。気になるなら、見てみたら?」

「あ、そうですか・・・。ありがとうございます」

私はもう一度、教室の中を探してみました。全ての机の横や、教室後方の棚、教卓の中やゴミ箱、前の収納ケースなど・・・。けれど、私の靴の入った袋はやはりどこにもありませんでした。

「やっぱり、ないです」

「そっか。下の事務所には、行ってみた?」

「はい、さっき」

「まったく心あたり、ないの?」

「いえ、そういうわけでは・・・ないのですが」

「なら、そっちを探したほうがいいね。僕はいまからこれを返して、最終チェック受けなきゃいけないから、いくね。鍵もかけちゃうから、教室から出てもらっていい?」

「・・・はい」

私は再び寒くて冷たい廊下へと足を入れました。日が傾き、廊下は薄暗くなり、気温も下がっているようです。男の人は軽く私に会釈をすると、行ってしまいました。そういえば、ユメちゃんたちはどうしたのでしょう。先ほどから、連絡がありません。私は携帯電話を持っていないので、連絡手段もありません。どこまで田中くんを迎えに行ったのでしょう? 


つづく