それにしても、あの乗り換え駅から博多まで、相当な距離があったはず・・・。フウコは考える。もしやあれは、快速だったのか?フウコの家の最寄り駅には快速は止まらないため、普通とそれとの区別はできる。一度、まだ電車に慣れていない時、誤って快速電車に乗ってしまい、慌てて次の停車駅で降りたのを覚えている。今回はあれよりひどい。帰り方がわからない。自分の乗ってきた電車がついたホームから出る電車に乗ればいいのかな、とも思ったが、それがどこなのかすら、わからない。いつの間にか、さまよい歩き、人の行き交う見知らぬホームのベンチに腰掛けていたのだ。靴のない、靴下のままの状態で。
「どうしよう・・・」
こんな日に限って、高校生になってやっと買ってもらえた携帯電話を家に置いてきてしまった。公衆電話のありかもわからない。帰宅ラッシュの博多駅。自分の目の前をいろんな人が隙間なく歩いている。自分なんかがあの中に飛び込んだら、たちまち流されて、迷子になってしまう。かといって、ずっとベンチに座っていても埒が明かない。フウコは靴下の足に力をこめ、立ち上がった。足が汚れるのはこの際、仕方ない。どうしようもない。とにかく、駅員さんに会おう。
なるべく人ごみを避けて、通路の端を歩く。するとすぐにエレベーターを見つけた。その脇に、駅の簡単な案内図がある。電車を降りて、確か階段を登ればいいはずだ。それに、少なくとも自分はまだ改札は出ていない。sugocaをタッチした覚えはないし。これしかない。フウコはエレベーターのボタンを押し、下の階へと、向かった。一緒に乗ったのは、おばあさんと、若いサラリーマン風の人。自分の足元をチラチラと見られている気がして、靴下のままの足元が、今更ながら恥ずかしくなってきた。
  そこは別のホームだった。フウコがエレベーターを降り、靴下の足をホームに踏み入れたその時、猛スピードで電車が滑り込んできた。フウコの初めて見る電車のカラーだった。これに乗れば、着くのかな?いや、また間違えたら・・・。よく考えて。ここは博多。電車はたくさん来るから・・・。