「・・・次は、・・・です・・・」
ふあ・・・あああ・・・・。ん?ああ、ついたのか。降りないと。
  電車がゆっくりとホームに入る。独特の音がなり、ホームドアと電車のドアが同時に開く。駅に着いた。ここは・・・、ここは、どこだ!!?
「あれ?ここは・・・?」
辺りは薄暗くなって、電気が異様に眩しい。こんなに眩しかったかしら?いや、確実に、私の家の、あの駅ではない。
  それにしても、いったいなにがあったんだろう。第一、ここはどこの駅なんだろう。
  あたりを見渡す。あった。駅名。聞き慣れた駅名。だが来たことは一度もない。博多。はかた。HAKATA。
「・・・ハカタ・・・!!?」
彼女、高校1年生の福岡フウコの叫び声は、あたりを行き交う人々の喧騒に、消えて行った・・・。
  フウコはとりあえず、クラクラする頭を抑えながら、SUGOCAを使って自動販売機で買ったブラックコーヒーを飲み、ホームのベンチに座って、これからどうしようかと考えていた。あたりには見慣れぬ電車たちがやってきては人を吐き出し、また吸い込み、去っていく。向こうでは真っ白な流線型のボディをした長い電車まで走っていった。あちこちから人が歩いてきては消えていく。彼女はこんな光景を生まれて初めて目にした。しかも彼女のその足元に、彼女の買ったばかりだったローファーはない。白いハイソックスだけの足が、床についている。
  考えて、考えて。私、なにしたんだっけ・・・。
  酔っているわけではないので、ある程度の記憶はすぐに戻ってきた。
  フウコが学校を出たのは、まだ日の高い6時ごろ。部活は茶道部。フウコは学校まで、電車で通っている。駅から徒歩で5分のところに学校があるのだ。その学校の最寄り駅から自宅の最寄り駅までは、10駅。乗り換えを1度行う。
  間違えたのかな・・・?乗り過ごしたのかな。そうだよね、やっぱり・・・。
  間違えたとすれば、乗り換え駅でのことだ。自宅と博多方面とは正反対。そして確か、10分くらいホームのベンチで待っていて、足が痛くて、ローファーは脱いで、その上に足をのせていた。そのまま、いつの間にか眠ってしまって・・・。
  電車の接近案内がホームに鳴り響く。フウコはビクッとして目を覚ます。それでも脳はまだ眠っている。フウコの目の前に止まった電車は、そのドアを開けて彼女を中にいざなった。全く思考が働いていなかった彼女は、誘われるまま、フラフラとカバンを手に、その電車に乗り込んだ。ドアが閉まり、電車は発車した。フウコは運良く見つけた空席に座り、隣の会社帰りのおじさんに身を預けながら、深い眠りへと落ちて行った。
  ホームのベンチには、脱ぎ捨てられたピカピカのローファーが1足、残されていた・・・。
  そこまでは思い出した。乗って、電車が動いた直後、それは家とは反対に進んでいると気づくべきだったのだ。それなのに、そんなことには気づかないほど、フウコは眠気に襲われていた。

つづく