図書館の中は、混雑していた。走り回る子どもやその傍らで話すママ友もいるし、静かに勉強する高校生や大学生、本を読むおじいさん、おばあさん。ボクたちは図書館の2階へ上がった。1階は児童書や小説など、大衆文学中心で、2階は専門書が中心となっており、1階ほど人は多くない。だが、2人分空いた席を探すのは一苦労だった。
「あ、あそこ。2つ空いてるね」
「ホントだ!じゃあ、あそこいこ!」
こうしてボクと田畑さんは、窓際に置かれた長机に、隣同士腰掛けた。窓の外には図書館の前を通る国道が見えており、いろんな車がひっきりなしに往来する。周りは、驚くほど静かだ。
ボクと田畑さんは、学校で出された課題や、テスト勉強をしてしばらく過ごしていた。恐る恐るボクが田畑さんに質問をすると、田畑さんは嫌な顔ひとつせず、細かく、わかりやすく教えてくれた。
そして正午。ボクたちは一旦図書館を出ると、近くのファミリーレストランに入った。平日のお昼だが、やや早いせいか、空席があった。2人で座ると、ますます、あの、デートっぽく・・・。
ボクは親子丼、田畑さんはサンドウィッチセットを注文し、料理はすぐに運ばれて来た。料理に手をつけようとしたその時、田畑さんが言った。
「あ、あの、さ、今日は、鈴木くんに、相談したいことがあってね」
相談?なんだろう。それもだけど、どうやってシールを・・・。ボクは再びポッケに手を入れ、こっそりと取り出した。ボールペンで書いた文字は吸収され、真っ白なシール面が見えている。それからボクは、いつでも田畑さんに貼り付けることができるよう、そのシールのフィルムを剥がした。と、その時だった。それまでうつむいて何事か考えていた田畑さんが、急にボクの手をとって、ぎゅっと、自身の手で、握りしめた。ボクは驚いて声も出なかった。シールの在りかも、わからなくなってしまった。
「お願い。このことは、誰にもナイショね?」
なんのことかわからないけれど、とにかく頷く。
「ふう、あのね、わたし、いまやろうかどうか、考えていることがあるの」
田畑さんは握っていた手を下げて、静かに言った。案の定、ボクの手の中にあったはずのシールは、跡形も無くなっていた。これがどこにいったのか、ボクにもわからない。田畑さんはひとつまた深呼吸して、言った。
「わたしね、学校で、上履きを履かずに過ごしたいと、思うようになったの」
「・・・・・・・」
ん?いま、なんと・・・?
つづく