昨夜、シールにその願いを書き込んだ直後、ボクのスマホが震えた。また迷惑メールか読みもしないメルマガかなと思いながら見た差し出し人は、なんと田畑さんではないか。ボクは驚いて立ち上がり、また椅子に座って、あたりをキョロキョロしながらドキドキしてそのメールを開いた。

"こんばんは、鈴木くん、メールでは、初めましてだね。田畑です。突然だけど、もし明日暇だったら、一緒に図書館に行きませんか?なんか、いきなりで悪いけど、お返事、待ってます。無理はしなくて、いいんです。"

た、田畑さんと、2人で、図書館・・・?それって、d、で、d、デートって、ことかな?・・・い、いやいやまさか・・・。

とにかく、返信しなきゃ。明日は休日。ボクの休日に、用事という文字はない。もちろん、行こうと思う。その旨を伝えると、すぐにまた返信は来た。

"よかった。ありがとう。

じゃあ明日、市立図書館の入り口で、朝の10時に待ってます。わからないなら、またメールしてね。ほんとうに急にごめんなさい。"

わかりました。明日、10時ですね。行きます、遅れないように・・・。

そうだ。じゃあ明日、スキを見て、このシールを、田畑さんに・・・。ボクは机の上のシールを見つめた。そこにはこう、書かれている。

「○○県△△町、北中学校2年4組、出席番号34番、田畑瑞紀は、次の週の月曜日(20XX年○月▲日)から、中学校を卒業するまで、上履きを履かず、靴下のまま、校内を過ごす」



 翌日の朝早く。午前8時。昨夜から今朝にかけてがんばって手持ちの服の中から選んだ最もイイと思うものを着込んだボクは、既に図書館の前に立っていた。まだ開館すらしていなかったが、朝7時に起きたボクはそわそわして一刻も早く図書館に行きたかったのだ。

 図書館までは自転車で約10分。田畑さんは、もちろんまだ来ていない。真っ暗な図書館の窓に自身を移して、シャツにしわはないか、髪はなっているか、服装に異常はないか・・・。何度チェックしても不安で仕方がない。そうして図書館の前でそわそわ、そわそわして2時間。10時20分に、田畑さんは息を切らしてやって来た。真っ白なマキシワンピースに、淡いオレンジのカーディガン、ブラウンのサンダルに、ストローハットという、なんとも田畑さんらしい格好。とてもよく、似合っていて、かわいい。

「お、おはよう。ごめんね、鈴木くん、待った?」

おっと、お決まりのこの質問。もちろん、答えは・・・。

「おはよう。ううん、大丈夫。全然、待ってないよ」

「よかった。・・・優しいね、鈴木くん」

そしてにっこり笑う田畑さん。ウソはきっとばれてると思うけど、なにも言わないところが、いい。

「それより、田畑さんは、大丈夫?ずっと、走って来たんじゃないの?そんなに息を切らして・・・」

「あ、えへへ、わたし、時間間違えちゃってさ。ホームページを見たら、所要時間、書いてあったよね?その、徒歩の欄と自転車の欄を間違えちゃって、自転車で家の近くの駅から10分って書いてあったのを、徒歩で10分って、思っちゃって。実際30分、かかったよ・・・。ごめんね。・・・わたし、自転車、乗れないから、さ」

そ、そうだったのか。以外とドジなとこ、あるんだ。それに、自転車に乗れないなんて・・・。お嬢様って感じだ。

「あ、ううん、全然平気。心配してたんだ。でも、よかった。無事に来てくれて」

「鈴木くん・・・」

「さ、さあ、じゃ、入ろっか。勉強、するんだよね?」

「うん!」

ボクはこっそりと、ポッケに入れたシールを確認した。大丈夫。あれはここにある。今日、きっと機会を見つけて、田畑さんに貼らないと。チャンスは来るのか、ボクは全然わからない。




つづく