ボクの教室の黒板消しクリーナーとかいう代物は、掃除しているにもかかわらず全く役に立たず、日直は毎日、窓で直接黒板消しをはたくしかない。田畑さんも同様に、窓から細くて長い両手を差し出し、パンパンとはたき出した。その度に、爪先立ちになった靴下の足の裏が、ちらりちらりと見え隠れする。その足の裏は、埃や砂で灰色に汚れていた。田畑さんのそのイメージからは思い描けないような、裏の部分といったところを垣間見れて、ボクは嬉しくなった。これもあのシールのおかげだと、改めて感謝する。

 黒板の掃除を終える頃には、教室には誰もいなくなっていた。他の日直なら、黒板掃除も適当にやって終わり、となるのだが、さすが田畑さん、細かいところまで丁寧に掃除して、教室の黒板が見違えるように綺麗になった。ボクと田畑さんは、最後の仕上げとして、黒板の下の床を雑巾で拭いていた。床を拭くために膝をつく田畑さん。校則にしっかり則った丈のスカートから、ソックスだけの足元が覗く。そして拭き始めると同時に、その足裏全体が、バッチリあらわになった。

 思ったよりひどくない汚れ。けれど、真っ白だったはずの田畑さんのソックスの足の裏には、田畑さんの足の形通りに、灰色の汚れがくっきりと浮かび上がっていた。土踏まずと五指の間に残る白さが、その汚れを強調する。これが、田畑さんの、足の形・・・!

「ちょっと、鈴木くん、わたしの足、そんなに見つめないでよ。・・・恥ずかしい、から・・・」

ボクが田畑さんのそれを見てじーっとしていたその時、田畑さんが不意に振り向いて、そう言った。気づかれた!でも、足の裏をスカートの裾で隠し、頬を今朝と同じように赤らめて話す田畑さんは、なんとも言いようのないほど可愛らしく感じた。ボクはぽーっとしながらも、慌てて仕事に戻る。

「ご、ごめん、すぐやるよ」

それだけ言うので、精一杯だった。

その後、田畑さんがちらちらと僕の方を見ているのが、気になる。なんだろう?・・・ボクのただの思い過ごしだろうか。きっと、そうかな。あんなに可愛いらしい田畑さんを見て、気が昂ぶって、幻想を見ているんだ。きっとそうだ。・・・気にしない、気にしない。

 教室の掃除が終わる頃には、ホームルームが終わって1時間が経っていた。田畑さんは箒を持って教室の床を掃いたり、細かいところを雑巾で拭いたりと、とにかくよく気がついて、丁寧に掃除をした。ボクもそんな田畑さんを見習って、負けじと掃除をいつも以上にがんばった。おかげで田畑さんに、褒められた。

「鈴木くん、几帳面なんだね。一緒にここまでやってくれて、嬉しいな。ありがとう」

そう言ってまた。にっこりと微笑みかけてくれたのだ。

 机をきれいに並べ終わったところで、ボクと田畑さんは自分たちの席に隣同士になって座った。田畑さんがこれまで以上に近く感じる。




つづく