その日の深夜。僕は再びあのサイトを訪問していた。「ミステリー(株)」。だ、大丈夫。僕にはこの、一枚半額の割引券がある。これなら500円(税抜き)であのシールが買える。こんどは、しっかり綿密に計画を立てて、田畑さんにシールを・・・。僕は購入画面に進むと、個数欄に1を入れ、割引券に記載されたパスワードの数字列を入れると、購入ボタンを押す。次はかならず・・・!



  4日後にそれは来た。待ち遠しくてたまらなかった。僕は早速、この前と同じ内容をシールに丁寧に書き込むと、翌日にはそれをもって、学校へと向かった。シールが届くまでの間に、僕は勉強時間もゲームの時間も惜しんで、どうやったら確実に田畑さんにこれを貼れるのか、計画を立てていた。そしてそれは、自画自賛だが、完璧に完成した。僕ははやる気持ちを抑えて、教室へと入った。

 田畑さんはまだ来ていなかった。当たり前だ。まだ時間は朝の7時半。田畑さんが登校する7時40分前後には間に合った。そう、僕のこの計画は、田畑さんの来る前、しかも人があまりいない時間に、終了させなければならないものだった。




 その日、7時10分に家を出た僕は、ポッケに、裏にセロハンテープを巻いてくっつけた、シールを忍ばせていた。学校についたのは、7時25分。僕は上履きに履き替えると、田畑さんの靴箱を探した。周りにはまだ人はいない。見つけた田畑さんの靴箱は、ちょうど僕の視線の高さ。僕はその田畑さんの靴箱にある、蓋の取っ手部分に、テープのついたシールを、ピタリと貼り付けた。こうすれば、田畑さんが登校して来た時、この取っ手に触れさえすれば、シールは彼女の指先に吸収されるという寸法だ。こんどこそ、うまくいってくれよ、頼むから!もうお金、ないんだから!

 僕はシールが完全に取っ手についたことを確認すると、慎重にフィルムを剥がし、教室へと向かった。

時計の針がちょうど7時40分を指したと同時に、田畑さんが教室に入ってきた。1人だった。僕もいままで、1人だった。自然に教室は、僕たちだけの空間となる。隣の席についた田畑さん。僕の方に笑顔を向けて、おはよう、今日は早いんだね、とあいさつしてくれた。僕も慌てて、返す。ちょっとぎこちない。それから田畑さんは、気になることを言った。今朝ね、靴箱の取っ手がさ、ベタベタしてたんだ。なんだろうね?

僕の心の中で、ファンファーレが鳴り響いた。そっか、ベタベタしてたかあ。ということは、あのシールに触ってくれたんだ、田畑さん!ありがとう!

 僕はそんな気持ちを表に出さぬよう気をつけながら、さあ、なんだろうね、と返した。今日は週末、金曜日。来週の朝が、とてつもなく、楽しみだ。




つづく(08/13一部改)