翌日。ボクはポケットにあのシールを仕込み、登校した。
教室に入ると、姿勢良く椅子に座り、友人と楽しそうに話す田畑さんがいた。ボクは、はやる気持ちを抑え、彼女の隣の自分の席に着く。さあて、どうするか・・・。偶然を装って、一緒にこけるか、何か付いてるよっていって、取ってあげるふりをして貼るか・・・。でも、どちらもボクらしくないんだよなあ。
そうだ!いい考えを思いついた。ボクはおもむろに通学バッグから教科書類を取り出し、シャーペンと消しゴムも出して、自習を始めた、ふりをした。横目で田畑さんを見る。いつ見ても、こんな角度から見ても、かわいい。ボクは彼女やその周りの女子に気づかれないよう、消しゴムと、小さなセロハンテープを、シールが入った方とは別のポッケに入れ、トイレに行くふりをして、席を立った。
トイレの個室に入る。この学校のトイレは近年改修されたそうで、校舎内でもひときわ新しい。個室は全て洋式で、小便器は自動洗浄。消臭もしてくれて、居心地のいい空間となっている。・・・いつもここにいるというわけではない。ボクにだって、友達はいる。
個室に入って腰を降ろすと、ボクはポッケからあのシールと、消しゴム、セロハンテープを取り出した。まず、消しゴムの1面にセロハンテープを、巻いてから、貼り付ける。その上に、先ほどのシールを貼る。シールの表面には保護フィルムが貼ってあって、これを剥がすと威力を発揮するという。また、ボールペンで書いたのはそのフィルムの上からなのだが、それでいいということだった。しかも、そのペンで書いた文字は、いつの間にか消えるという。本当に不思議なシールである。ボクはシールと消しゴムが一体化したことを確認すると、それをそのまま慎重にポッケに入れ、教室に戻った。いよいよ、勝負だ。
教室に戻ると、田畑さんはいまだに友人の女の子たちと話を続けていた。よくもまあ女の子ってここまで話がもつなあと、感心する。ボクは自分の席につくと、さっきの仕掛けを施した消しゴムを取り出した。そして、素早くフィルムを剥がすと、自分の手が触れないよう気をつけながら、筆箱からそれを取り出すふりをして、横に、落とした。田畑さんが、拾ってくれるように。シールが、田畑さんの肌に、吸収されるように・・・。
だが消しゴムという無生物は、ボクの意に反した行動をとってくれた。ボクが横におとした消しゴムは、コロコロ、コロコロ、コロコロ・・・と転がって、なんと田畑さんと話す女子の1人の足元の上履きに、衝突してしまったのだ!もちろん彼女が気づかないはずがなく、その消しゴムを、田畑さんではない、彼女が拾い、ボクに、差し出して、くれたのだった。しっかりと、シールを貼った、面を、掴んで・・・・。
ボクは心の中で悲しみの悲鳴をあげていた。うわあーーーー!ぼ、ボクの、努力が、ボクの、1080円があーーー!
返ってきた消しゴムには、はたしてシールはなく、役目を終えたセロハンテープが、べったりとくっついていたのだった。チーン。ボクはその日一日、全く体が動かなかった。そのせいで、田畑さんが心配してくれたのは、嬉しかったけどね。
つづく