「あ!おにいさーん!」
ショートカットの子が僕を見つけて背伸びをしながら手を振った。ロングの子も、お辞儀をして迎えてくれている。僕は気が昂ぶるのを感じながら、彼女たちの元にたどりつく。
「来てくれたんですね、うれしいです!あたし、新宮麻里奈といいます。よろしくおねがいします」
「私は、古寺小春です。おにいさんは?」
「僕?僕は・・・」
とっさに僕は、本名を明かすのをためらった。後々、僕の小学生生活に支障が出るやもしれないと思った。こんなに純粋な女の子たちに嘘をつくのは憚られるが、今後のことを考えると、やむをえない。僕はそこで、現在の僕の友人の一人の名を口にした。
「かっこいいお名前ですね!では、行きましょう!おにいさんに、とっておきの場所を、しょうかいしますね!」
「とっておき?」
「はい、私たちのおねえさんが、教えてくれたんです。おねえさんは、私たちに靴下で過ごすと気持ちいいんだよって、教えてくれたんです」
僕は耳を疑った。彼女たちのおねえさんが、彼女たちに靴下生活を教えた。だとしたらもう一人、この学校には靴下で夏を過ごす女の子がいるのではなかろうか?僕は当時も今この時も、そんな女の子は知らなかった。僕は彼女たちに両手を引かれながら、校舎の廊下を歩いていた。彼女たちのペタペタという足音が、誰もいない校舎に響く。小さな、かわいい靴下に包まれた足が、くすんだ廊下の上を歩いている。夢にまで見た光景を、再び僕は間近で観察できている。
「おねえさんには、あたしたちのお友達をつれてきますって言ってるんですけど・・・」
「きっとびっくりするよね!」
「びっくり?」
「だってそこは私たちだけの秘密の場所なんです。特に男の子には知らせちゃいけないんですけど・・・」
「おねえさんは、ぜひしょうかいしてって、言ってくれたから」
交互に話す彼女たち。ほんとうに仲がいいんだな。
そうこうしているうちに、僕は体育館の方へ向かっていることに気づいた。相当昔のことで記憶はうろ覚えだが、特にこの学校の体育館に、不思議な仕掛けはなかったはずだけど・・・。
彼女たちは僕の手を引いたまま、体育館の下へと入っていく。体育館がある建物は校舎から独立していて、フロアは2階に当たる。その下にはなにか空間があるのだが、用途はよくわからなかった。小学校に6年間いて、そこに入ったことは一度もなかったと思う。
「おねえさーん!連れてきたよお!」
マリナが僕の手を離して、入り口の扉を開けて中へと入っていった。暗くてよく見えないけれど、誰かがそこに立っている。僕はコハルと手を繋いだまま、ドアを開けた。
つづく