「えっと、そうやな、いきなりは無理やもんな。よっしゃ、おれも待つで」
あたしが靴箱の前でもじもじしていたのをみて、山田くんは言った。本当に、いま履いている、運動靴が、脱げないのだ。これから、裸足で過ごすのかと思うと、いやだ、いやだって思っちゃう。帰りたくなっちゃう。上履きが恋しく思っちゃう。でも、隣で待ってくれている山田くんを見ると、できる気がする。そのまま靴を脱ごうとすると、また前の思いが・・・。
ぱらぱらと、生徒たちが登校し始めている。みんなサンダルを脱いで、裸足のまま校内へ上がっていく。その流れにそって、あたしも、と思うけれど、やっぱり恥ずかしい・・・。
「あれえ?遠野さん?おはよー。早いのね?」
「あ、おはよう」
そこにやって来たのは、クラスメイトの武井花凛ちゃん。始業式前、公園で一緒になった子の一人で、今ではあたしと仲のいい女の子の一人。もちろん、カリンちゃんも、足元はサンダルで、それを脱ぐとハダシになってしまう。
「どうしたの?上履き、履かないの?」
「武井、そいつは・・・」
「あら、ジュンペー。おはよう。なになに?二人で、なにしてたの?」
「えっと、それがなあ」
「待って、山田くん。えっとね、あたし、今日から、ハダシになろうと思ってるの」
「ハダシに?そっかあ。遠野さん、ずっと、上履き履いてたもんね。でも、なんで?」
「・・・みんなとね、仲良く、なりたくって・・・」
「え~?でも、カリンと遠野さん、仲、いいんじゃない?」
「でも、あたし一人だけが上履きを履いていると、なんだか申し訳なく思っちゃうの。だから・・・」
「考えすぎだよお。遠野さん。でも、確かに、遠野さんがハダシになってくれたら、カリン、嬉しいかも」
「そっか。じゃあ、がんばらなきゃな」
「うん、がんばって。そうだ。カリンも、見守っているよ。遠野さんが、ハダシになれるまで」
「武井さん・・・。ありがとね」
「ううん。で、どうなの?できそう?」
「うん。絶対に、やってやる!」
あたしはふう、と息をついて、足元の運動靴に手をかけた。する、する、と両足のそれを足から離し、手に持つ。足元は、靴下だけとなる。靴箱に運動靴をいれると、今度は、靴下を取り去りにかかる。山田くんは、あたしの横でただ黙って見ている。
もう一度、大きく息を吸う。心はドキドキする。履いていたスニーカーソックス。まずは左足のそれを、すぽっと、一気に。そして、もう片方も、つま先部分を持ち、するりと・・・。あたしはとうとう、生まれて初めて、学校で、いや、みんなの前で、裸足になった。二つの、なにも身につけていない素足の足の裏が、家の外の空間に放り出されている。
「き、気持ち、いい・・・」
まず感じたのは、そんなことだった。ただただ、床の冷たさが、つるつるとした感じが、とても気持ちよかった。初めての、感触だった。あたしは山田くんの方を見た。
つづく