翌日、あたしは靴箱の前に立って、じっとしていた。時間はまだ朝の7時30分。あたりにはまだ誰もいない。ただ一人、山田くんを除いては。あることを考えて、今日はいつもよりずっと早く家を出たのだ。
昨日の夕方。あたしは勇気を振り絞って、山田くんに頼み事をした。
"あたしの上履きを、卒業まで預かっていてほしい"
というものだった。彼は初め、よくわからないといった表情をしていたが、あたしがもう2度、ゆっくりと説明すると、彼はようやく理解して、頷いてくれたのだ。
 あたしは早速、山田くんをあたしの家へといざなった。お母さんは、あたしが初めて、ボーイフレンドを連れてきたものだから、びっくりして腰を抜かしてしまった。お父さんがまだ帰って来ていなかったのは、幸いだった。もしお父さんがいたら、もっと大変なことになっていただろう。
 あたしと山田くんとでなんとかなんでもないことをお母さんに説明して、座ってもらうと、あたしは彼を自分の部屋に連れていき、その場で家の全ての上履きを集め、たまたま空いていたバッグの一つに全てを、今日持って帰って来たものも全て入れて、山田くんに託した。山田くんはそれを嫌な顔せず受け取って、任せとけ、と言ってくれた。彼がとても頼もしく思えた。彼はそのまま、あたしの上履きたちを持って帰宅してしまった。翌日また迎えに来ると、約束して。
 山田くんの姿が見えなくなってから、あたしはひどくドキドキし出した。明日から、あたしは、上履きを履かずに学校で過ごすことになっちゃった、いまあたしの身の周りに、上履きはない。あたしは窓を開けて、山田くんの姿を探した。でも、もちろん、彼はもういなかったあたしはベッドに飛び乗って、枕に顔をうずめ、ベッドの上を転がり回った。どうしよう。明日が、楽しみで、心配だ。不安だ。
 それからお母さんにごはんに呼ばれた。なにをしていたのか、訊かれるかなと思ったけれど、お母さんは黙っていてくれた。あたしはそれから、興奮してなかなかベッドに潜っても寝られなかったけれど、いつの間にかその日の朝はやってきた。
 山田くんは朝7時に、あたしの家に迎えに来てくれた。あたしも、朝6時に起きて、支度をして待っていた。お母さんやお父さんには、用事があると伝えている。
「おはよう、遠野。おまえ、早起き、できるんやんな」
「当たり前じゃない。でも、こんなに早く来てくれるなんて。ありがとう」
「おれにとっては、普通やから。ほな、行こか?」
「うん!」
「でも、本当によかったんか?おれ、上履き、持ってこなかったんやけど・・・」
「うん、いいの。こうでもしなきゃ、みんなと仲良くなれない気がするの。」
「そか。・・・がんばれよ、遠野」
「ありがとう」
学校には7時30分に到着した。

つづく