ひふみよ
よし、じゃあつぎはその日だ。といっても、いつのことだったろう?夏休みはまだ先のようなきがする。となると、6月だろうか?ううん、・・・・・・そういえば、あの日、有名人同士が結婚したんだ。僕の憧れのあの俳優さんとアイドルで。よし、その日を調べよう。
僕は手元のスマホを操作して、その日の日付を割り出した。20XX年、6月20日。ジューンブライドには間に合っただろうか。
さて、いつものように、時計をその日のお昼休みにセットする。じゃあ、いくぞ。
ポチ。
急に強い風に煽られて、僕は床に尻餅をついた。なんだ?なんだ?
頭を上げると、そこには開け放たれた窓があった。青空が覗いている。僕は立ち上がって窓を閉めると、周りを見回した。すぐそばの教室から聞こえる音楽。トイレ。そうだ。ここは確かに、あの日の小学校だ。そしてもう数分もすると、きっとあの子たちはやって来る・・・。僕は窓の外を見るふりをして、背後の渡り廊下に神経を集中させた。
数分後、その渡り廊下をこちらに向かって来る人の気配を感じた。幼い女の子の声が聞こえる。2人分。僕は振り向いて、壁にもたれた。いた。靴下だけの女の子。小学2、3年くらいだろうか、まだまだ幼さg残る。1人はショートヘアにピンクのTシャツ、デニムのパンツに薄い水色のスニーカーソックス、もう一人、こちらの方が背が高く、肩まで髪を伸ばして、水色の半袖シャツに、ふわふわとした白いミニスカート、白というか、クリーム色のハイソックスを履いている。そして2人とも、上履きは履いていない。顔はどちらも、当時の僕だったらキュンとしていただろう、カワイイ系。僕の小さな心臓が、激しく脈打ち始めた。ドク、ドク・・・。2人の女の子は、こちらへとやってくると、窓の前に立つ僕を一瞥すると、音楽の流れる教室を覗き出した。中では6年生がダンスの練習をしている。僕の位置からもそれは見える。
彼女たちの方をそれとなく見ていると、女の子のうちの1人、ショートヘアの方が、足の裏をこちらに見せるように、つま先を床につけた。指がグニグニと動き、水色のソックスの裏は、やはり学校の埃や砂で、真っ黒に足型がついている。
2人の女の子はそのまま少しの間、ダンスの続く6年の教室を覗いていたが、やがて振り返ると、僕の前を横切り階段の方へ向かった。僕は迷っていた。声を、かけようか、かけまいか。5年生である僕が、2、3年くらいの、しかも女の子に話しかけたら、やっぱり変だろうか・・・。でも、訊いてみたい気も、十分にあるのだ。どうして上履きを履いていないのか。ただそれだけだ。
つづく