"One day without shoes"という、人々が一日中靴を履かずにすごす日がある。2010年に始まったこの運動は、世界には多くの、靴を履けない人々がいて、靴を履いている、靴が履ける人々が、どれだけ恵まれた存在であるか、どれだけ靴というものがありがたいものなのかということを、身をもって知る運動である。大学生で、グローバルクラブというサークルに入っているあたしは、その日、その運動に参加していた。 朝、寮から靴を履かずにキャンパスに向かう。それから一日中、ハダシでキャンパス内を過ごすのだ。なかには恥ずかしがってサンダルを履いちゃう人もいるけれど、あたしは堂々とハダシで過ごしていた。一日の終わりには、一緒にハダシで過ごしていた人たちと、真っ黒になった足の裏の見せ合いっこをして、その日気づいたことを討論したりしていた。一日中ハダシで過ごした足の裏は真っ黒で、なかには怪我をしてしまった人もいた。靴の有り難みが、しみじみとわかる。
そのなかに、あたしと古い付き合いのある男の子がいた。名前を山田くんという。彼との出会いは、あたしが小学生だった頃まで遡る。あたしが、ハダシで過ごすということでいろんなことを学び、とても忘れることのできない、強烈な記憶として、今も頭のなかに残っている。
「お父さん、聞いてないよ!!」
「ヒナ、どうした?」
「学校だよお。なんで言ってくれなかったの!?」
「なにか、あったか?」
「もう!あたしが転校する学校よ!ハダシ教育なんてやってるじゃん!!」
「ん?そうなのか?」
「知らなかったの?」
「うん、まあ、この家の校区はその学校だからなあ。今更また引越しなんてできないし、転校手続き済ませたし。」
「な、なんでよお。知ってたらあたし、行かないよ、こんな学校!」
「こんな学校ってことはないだろう。最近で出来た新しい学校ってことで、校舎はピカピカだし、生徒数もそんなに多くないし、みんな仲良しだぞ?きっとすぐに友達なんて増えるさ。別に、いいじゃないか、ハダシ教育も。どうせ夏の、ちょっとの間だけだよ。名前もいいぞお。春の風小学校とか。お父さんもこんなステキな学校、行きたかったなあ。」
「じゃあお父さんが行ってよ!もう!」
「おい、どこに行くんだ?」
「ちょっと散歩!」
その当時あたしは今年小学校5年生になるところだった。お父さんの仕事の都合で、その街、春の風に引越してきた。数年前から家が建てられていたニュータウンで、小高い丘の上に、大きな一軒家とか、おしゃれなマンションが建ち並んで、その時も斜面には次々と新しい家が建てられて続けていた。
その丘を降りた先にあるのが、今度あたしが通わせられることになってしまった、春の風小学校。すぐ隣には中学校もある。小学校は1学年30人ほどで、1クラス。前いたところでは1学年150人は超えていたから、それと比べると随分小さい小学校だった。でも3階だての学校の中はピカピカで、3階の教室の天井には窓が着いていて、晴れの日なんかは明るいらしい。壁や床には丘を拓いた時に出た木材を使っていて、校庭も広く、全面芝生。確かにそれだけ聞けば、あたしだって、すごく行きたい気分になった。でも、ある日、学校の生活について説明してくれた先生が、とんでもないことを言い出した。
つづく