後日、残っていた3枚のシールを有効に消費したボクは、再びあのサイトを訪れた。あれから1ヶ月。田畑さんはすっかり靴下生活にも慣れたようで、毎日、ボクの隣の席に、真っ白な靴下のままで、恥ずかしげに、ほおを赤く染めて、ペタペタとやってくる。こんな日が毎日続くのかと思うと、嬉しくて仕方がない。
田畑さんから預かった鍵は、ボクの部屋の一番目立つ壁に、釘を打ってそこにかけてある。この鍵が永遠にここにあることを、ボクは願っている。でも、きっとあのシールのことだから、大丈夫だと思う。
そのサイトを開こうとしたが、何故だか繋がらなくなっていた。仕方なくボクは検索サイトを開き、「ミステリー(株)」を検索した。
驚いた。トップに出てきたのは、その「ミステリー(株)」の社長以下数人が、逮捕されたというニュース記事。恐る恐る開いてみると、その内容は驚くべきものだった。「ミステリー(株)」の主力商品だった、あのコントロールシール。人を操れるという文句だったあのシールだが、実際そんな効果はないというのだ。科学的な根拠が見つからず、実験も成功しなかった。つまりあれは、ただのシールでしかなかったのである。
ボクは思った。じゃあ、あれは?田畑さんが上履きを忘れ、さらに上履きを校内で履かないと決意したあの件は、どうなるのだろう?
ボクはある結論に達した。あれはシールのおかげなどではない。全て、田畑さんの意思によるものだったのだ。上履きを忘れたのも偶然で、田畑さんが靴下生活をしようと思うようになったのも、偶然に違いない。だって、ボクが田畑さんが上履きを履かなくなると書いたシールを田畑さんの元に持って行ったあの日の前日には、田畑さんは既に上履きを全て自分の部屋の本棚に、鍵をかけて、取り出せないようにしていたではないか。これは絶対に、シールのせいなどではないのだ。ボクは改めて、あの日のそして、最近の、田畑さんの様子を頭に思い出した。相談してくれた時の、あの真剣な顔。上履きを履かないと決意した時のあの晴れやかな顔。そして、靴下のまま、学校内を歩き回る、楽しそうな、幸せそうな顔。それは全て、紛れもなく田畑さん自身の、純粋な思いを描いたものだったのだ。田畑さん・・・。ボクは壁にかかった田畑さんの鍵を見た。がんばって。ボクは信じる。あなたが卒業まで、靴下生活を続けられるということを。そしてボクも心に決めた。これからは、頼らないようにしよう。今回は、被害額は微々たるものだし、結果的には、いいことに終わった。しかし今後、いつこんな詐欺に引っかかるかもわからない。これからは、自分の道は自分で開く。ボクはベッドに寝そべると、電気を切った。明日から新しい自分になることを、強く思って。
おわり