ふと目を開く。ベッドの上。大きく伸びをする。また来たな、僕の家。時が遡って、まだ新しさをうかがわせる僕の家。部屋の配置も高校時代とは違うし、机の上の教科書も、バッグも違う。このカバンは、確かこのまま実家に置いてあるはずだ。目覚まし時計のセット時間まであと20分。もう、起きよう。眠気もないし。
階下へ行くと、お母さんがカチャカチャと忙しそう。
「おはよう。」
今より少し高い僕の声が、朝の家に響く。
「あら、どうしたの?まだ寝てていいのよ。まだ7時じゃない。」
「目が覚めちゃってさ。」
「そう。もうちょっと待っててね。今ご飯できるから。」
「うん。」
僕は新聞をとりに、パジャマ姿のまま外へ出た。夏の日は早く、もう暑さを感じる。
朝食を食べて、朝の情報番組を見て、何時もの時間より少し早い、8時。僕は家を出た。ドキドキと胸が高鳴る。上履きを履いていない女の子の目撃は、思わぬサプライズも嬉しいが、わかっていても嬉しい。当時の僕もそうだった。毎日、自分のクラスの、しかも僕の中ではピカイチに可愛かった女の子が、靴下生活をしている。それもたった一人で。それがどんなに毎朝僕を奮起させたか。今思い出しても、素晴らしい。この一言に尽きる。
滑るように夏の朝の街を歩く。中学生は徒歩通学。それでも家と学校の距離が近かった僕は、ものの10分で到着。靴箱を目指していると、その視線の先。彼女はいた。歩を早めて、少しでも彼女に近づく。間に合った。僕が靴箱に到着した時、彼女はちょうど通学シューズを脱いでいるところだった。
「おはよう、中野さん。」
「んん~?あー、おはよう。」
彼女は可愛げのある見た目とは裏腹に、というか、見た目通りにというのか、天然なところがあって、のんびりやさん。だからこそ、みんなに愛される存在だ。
「暑いね、今日も。」
「そうだね~。カナ、今日もハダシだよ。」
そう言って、夏菜は自らの足を指差した。すのこの上に乗っている彼女の、白ソックスの足元に、上履きはない。彼女の言う"ハダシ"とは、靴下だけで上履きを履いていない足のこと。靴箱に上履きを置いているわけでもなく、今日も本当に校内では何も履かずに過ごすつもりのようだ。彼女にしかできないことだろう。
僕はただ笑って、しっかり上履きを履いて・・・ええと、靴箱はどれだっけ?僕の出席番号は・・・、うーん、どれだっけ~?
「どーしたの?早く行こうよお。」
その時、カナがすっと一足の上履きを靴箱から取り出し、僕の前に置いた。そこにはバッチリ、僕の名字が書かれていた。・・・助けられた?
「あ、ごめん、ありがとう。」
「ううん。」
なんだかすごく申し訳ない気分になりながら、僕はそれに足を通し、履いてきたスニーカーを、自らの靴箱に入れた。そっか、僕は13番だったか。
つづく