「大島君も、ここに用事があるんでしょう?だったら、一緒に入りましょう。」
彼女が再び口を開いた。僕は観念して、彼女について、図書室に入った。適当な席を見つけ、二人ならんで座る。周りには誰もいない。思えば、彼女と話したことなんて、当時はほとんどなかった。
「・・・あの、ごめん。」
考えに考えて、出した言葉はそれだった。これ以外に、何か言うことはあるだろうか。いや、ない。
「どうして、謝るの?」
「だって、僕は・・・。」
「私を、つけてきた。」
「・・・はい、そうです。」
僕がうなだれると、彼女はふふっと笑った。え?笑った・・・?これはどんな笑なのだろう。
「面白いね、大島くん。」
「・・・怒って、ないの?」
「ん?全然。でも、どうして?」
うう、言いにくい。多分、彼女もわかっていると思うのだけどやはり自分の口からその説明をするのはキツイなあ。
「・・・」
「私、たまたまなのよ。今日上履きを忘れたの。」
僕が何も言えないまま黙っていると、大島さんが口を開いた。顔を上げて彼女の顔を見ると、ほおを赤らめて、こちらを向いていた。
「別に、わざとじゃないのよ?靴下で歩きたかったからなんかじゃないからね?グラウンドなんて・・・。違うんだから。」
えっと・・・、大島さんって、こんな人だったっけ?こんな話し方じゃあ、僕はこう思っちゃう。大島さんは、グラウンドを靴下で歩きたくて、今日上履きをわざともって来なかった。違うかな?
「ちょ、ちょっと、そんな目で、見ないでよ。ホントに今日は忘れただけなんだから。・・・それより、あんたはどうしてあたしのこと、つけてたのよ?言いなさいよ、いいかげん。」
なんか、口調が、変わってきてないか?
「あ、えっと・・・。」
「なによ、言いにくいことなの?あたしの靴下姿を追って来たっていうの。」
やっぱりわかってたんじゃないかあ。
「その顔は、図星みたいね。」
「はい、そうです・・・。」
「もう一度言っとくけど、別にこれ、わざとじゃないんだからね?勘違いしないでよね。それだけ。」
こうして僕は解放された。不思議な人だなあ、なんていうか、ツンツンしていた。
さて、じゃあ、今の世界に戻ろう。結構長い間ここにいた気がする。時計は・・・。どこだろう。自転車のカゴ?
には、入っていない。どこだ?僕は校内に駆け戻った。靴箱。ない。廊下にも、ない。じゃあ、教室?あった。僕の机の上。あの時計だ。時計の裏の、"NOW"のボタンを押す。
ポチ。
つづく