校舎に入る前に、上履きの裏をよく拭くように言われていたのだが、ほとんど、それを気にする人はいなかった。おかげで、校内には大量の砂が進入することだろう。
 帰る時も、僕はユウリの後ろに着くことにした。わざとゆっくり歩いて、彼女を見つける。彼女は一人、とぼとぼとグラウンドを歩いていた。すっかり足首から下は砂まみれになった白ソックス。そのまま、彼女は校内に入り、特に気にすることなく、その靴下で、校内を歩いていた。靴下には朝からの汚れにグラウンドの砂がつき、さらにまた校内の汚れ。すごいことになっている。彼女にちょっとした敬意を払わなくてはならないだろう。リノにも、もちろんだ。
 だが残念なことに、当のリノは、グラウンドから戻る際、靴下を脱いで、足を洗ってきたのである。つまり、今彼女は裸足なのだ。靴下も、履いていないのだ。僕的には、裸足より靴下を履いていてもらった方が良かったなあと、当時も思ったものだ。だが、ユウリの汚れた靴下がそこにある。そう思うと、とてもうれしい。リノの裸足の足元までも、見ていて興奮してくるようだ。
 こうして、短く長い、始業式の一日は終わりを迎えた。終礼を終えると、リノは部活に行くと言って、裸足のまま教室を飛び出していった。なんて元気なのだろう。というか、恥ずかしくはないのだろうか。一人だけ、裸足って・・・。
 そしてもう一人のターゲット、砂まみれの靴下を履いたユウリ。彼女は終礼後、荷物をまとめると一人静かに席を立った。そしてそのまま教室を出る。僕は友達にさよならを言って、彼女の後に続いた。
 僕は彼女が、そのまま靴箱に行くものと思っていた。だって、彼女は部活には入っていなかったはずだし、いつもそうしていたのを、記憶の片隅で覚えている。だがこの時は違った。彼女は階段をおり、廊下を歩き、行き着いた先は、図書室だった。
「入りましょう。」
僕ははじめ、その言葉が僕に向けてのものだとは全く気づかなかった。だが図書室の入り口に立つ彼女がまっすぐ、僕の方を向いているのに気がついて初めて、僕に言っているのだとわかった。距離をとって彼女を追いかけていたつもりだったのだが、考えごとをしているうちに、彼女のすぐ後ろをついて行っていたのだ。僕は大きな失態を犯してしまった。おそらく、彼女は僕が自分を追いかけてきたということに気がついている。ユウリのこの目はそう言っている。そして彼女の目線は自らの足元、砂まみれの靴下へと注がれる。僕の目がチラチラとそちらを向くからだ。意識しなくても、どうしてもそうなってしまうのだ。
つづく