廊下を歩くユウリの足元は靴下のままだ。真っ白で、ブランドのマークがついたハイソックス。足の裏はすでに埃や塵で灰色に足型がついている。人で混雑する廊下。誰もは上履きを履いている中、靴下姿の彼女は光っていた。先生に伝えれば何らかの対処をしてくれたはずなのに、それもしない彼女。本当にすごい。顔は見えないけれど、どんな表情をしているのだろう。恥じらっているのだろうか、それとも、何も思っていないのか。
 そしてそのまま、僕たちは靴箱に辿りついた。ここで靴を履くという選択肢もあるにはあるが、絶対に、そんなことはして欲しくない。僕は祈りながら、すぐ前を行く彼女を見ていた。人ごみに流されて、自然と体は進んでいく。彼女はその流れに乗って。靴箱を通り過ぎ、そして靴下のままの姿で、グラウンドに降り立った・・・。
 僕は心の中で狂喜した。ユウリが、靴下のまま、砂のグラウンドに立っている。校舎の外に出てしまえば、あとは自分のクラスの列に並ぶだけだ。もう人に押されることはないが、彼女は靴下のままぼその足で、グラウンドを走りだした。真っ白な靴下のまま、砂の上を走る彼女のすぐ後を、僕は上履きのまま走る。靴下は砂まみれ。足裏は全体が焦げ茶色になっている。いま、彼女は何を考えているのだろう。裸足でいることを、恥ずかしく思っているのだろうか。彼女の表情からは、よくわからない。彼女についていくと、僕のクラスの列に着いた。
 そこで思い出した。すっかり忘れていた。もう一人、いたのだ。靴下のままの女の子。リノだ。運のいいことに、並び方はクラスごとに、男女一列ずつ。そして、僕の隣は、リノ本人。僕がそこに行くと、すでに彼女は来ていて、白ソックスだけの足で、グラウンドの砂をなでていた。指で砂をつかんだり、と、すっかり裸足に慣れちゃっている。表情も穏やかで、友人と談笑している。ああ、いいなあ。よかった。この場面に、2度も出会うことができて。本当に、嬉しい。僕はすっかり興奮して、先生や消防士さんの話など全く頭に入らず、始終動く彼女の足に、注目していた。靴下は砂まみれで、足の裏はやはり焦げ茶色。素足も、砂まみれだろう。
 避難訓練は成功裏に終わったようだった。全員が避難するのにかかる時間は、今までで一番早かったらしいが、そんなことは、僕にはどうでもよかった。
つづく