僕はその日、20XX年、9月1日の朝に時計を合わせた。再び僕の鼓動が早まる。よし、行こう。
ポチ。
「ほらあ、早く起きなさい!今日から学校始まるんでしょう?」
階下から母の声がする。僕はもう起きてるよ。
僕は体を起こし、着ていたタオルケットをはいだ。暑い。カーテンの隙間からキラキラとした光が差し込んでいる。夏だ。
僕は階段を降りると、そのまままっすぐ洗面所に行き、歯を磨いて顔を洗い、食卓についた。ミルクにスクランブルエッグにトースト、ジャム。いつものブレックファーストだ。ちょっとカッコつけてみた。
「あら、早いじゃない。もっと寝てるかと思ったのに。」
キッチンの影から母が顔をだす。僕はいただきます、と言ってフォークで食べ始めた。
いつもの朝の情報番組を見て、8時10分、僕は家を出た。とても自然な感じで居られることが、自分でも不思議だった。もう4年も前のことなのに。
自転車を止め、靴箱に向かうと、そこから女の子たちの大きな笑い声が聞こえてきた。僕はドキドキしながら、彼女に話しかけた。当事者は、そこにいる。
「おはよう。」
「あ、ダイスケ!おはよ!久しぶりね。」
「朝から、どうしたの?」
「ああ、リノが上履き忘れたんだってさ。んでどーしよーって、騒いでたの。」
「なんだ、そんなことか。」
実際、僕にとっては重大ごとだが、努めて冷静に・・・。渦中のリノが頬を膨らませて僕を睨む。
「そんなことじゃないよお、どうしよう・・・。」
「別に、そのままでいいんじゃないの?リノだし。」
「そそ、早くいこ。」
すでに上履きに履き替えていた他の女の子たちがリノをせかす。僕はそれを黙って見ている。するとリノは観念したようにローファーに手をかけた。
「みんなひどいなあ。・・・ま、いいか。いこいこー。」
そう言って僕の目の前でローファーを脱いだリノは、白いハイソックスのままの足を、床に置いた。どうやら今日一日、このままで過ごすことに決めたようである。僕は当時、この場面に居合わせることができなかった。僕が登校した時にはすでに彼女たちは教室にいたのである。リノは席についていたが、彼女が上履きを履いていないことに気がついたのは、放課後のことだった。
階段を上るリノ。後ろから見ていると、やはり足の裏がだんだんと黒くなっている。休み明けで、課外があっていたあいだもあまり掃除がされていない校舎内には、細かい埃や砂がたまっていることだろう。絶好の日取りだった。
つづく