授業が始まって、高木さんは隣の人としゃべりながら、足を椅子の上にあげ、椅子の上に正座をした。床が冷たかったのだろう。それと同時に、タイツの足先の足裏が露わになった。白く汚れた黒タイツ。僕は授業も全く頭に入らず、ただただその光景を眺めていた。
放課後。僕は教室で友人と談笑していた。もうすっかり、気分はこの当時の僕だ。視界の端でチラチラと捉えていた高木さんが、カバンを手に持つのを見るのと同時に、友人の一人が帰ろっか、と言った。
僕も焦らず、遅れず、高木さんの後に、友人と教室を出た。
日が暮れて、暗くなった寒々しい廊下だった。前を行く高木さんはかかとを浮かせながら、顔をマフラーにうずめて歩いている。その姿がとても可愛らしい。その様子を見ていた友人が僕に耳打ちした。
「高木さん、なんで裸足なの?」
「え?」
突然のことで、僕はとっさに答えられなかった。
「どうした?」
「あ、ううん、なんでもない。上履き、忘れたんだって。」
「あ、そうなの?珍しいな、あの高木さんが・・・。」
階段を降りて行く、僕らと高木さん。その距離は、ずっと同じ。僕と友人は会話もなく、示し合わせたように同じ速さで歩いていた。思えば、こいつもその気があったのではないか、と、今になって思う。
靴箱で、とうとうローファーを履いている高木さんに追いついた。
「あ、じゃあね。」
「おう、ばいばい。・・・明日は、忘れちゃダメだよ、上履き。」
僕は高木さんにそう声をかけた。彼女はちょっと恥ずかしそうにほおを赤らめて、
「うん、今日、やばかったもんね。足、冷たいし、汚れちゃった。」
と言った。去りゆく彼女の背を見ながら、僕とその友人は靴箱の前で佇んでいた。
帰ってきた。はあ、なんだかすごく長かった。でも、とてもいい。なんか、すごくいい。僕はテーブルの上の時計を見た。今の時刻、7時30分を指している。タイムスリップしている間、こちらの時間は進まないようだ。
僕は次に行く時間を思い出していた。お風呂上がり、深夜12時を回っていた。
それは高校1年の時。夏だったか、僕のクラスの女子が、夏休み明けの始業式に、上履きを忘れたのだ。そして、その日の日程がすごかった。
つづく