夕焼けとそれに染まった街を見渡せる土手の道を、高校生の男の子と女の子が歩いていた。季節は冬で、時刻はまだ5時にもなっていないのに、辺りは薄暗くなりつつある。
どちらも紺のブレザーを着て、男の子の方はチェックのズボン、スニーカー、女の子の方はギンガムチェックのスカートに白ソックス、革靴。
「ねえ、ちょっとまってよ。」
「なんだよ、ついてくるなよ。」
「待ってって、言ってるでしょ!」
学校を出てから、いや終礼が終わってから、コウダイはクラスメイトのサエに追っかけられていた。彼は夕陽の当たる川沿いの土手の道を、自転車を押しながら歩いていた。後ろから、問題のサエがついてくる。彼女は自転車に乗れないため、鞄を持って革靴の音を響かせながら。コウダイは自転車に乗って逃げるのはさすがに悪いと思い、こうしてずっと歩いている。お互いの距離は縮まることも、離れることもない。
すると、サエの足音が速まった。次の瞬間には、コウダイのブレザーの裾をサエが掴んでいた。
「・・・なに?さっきから。」
「だから、その・・・。」
サエが掴んでいた手を下ろす。ずっとこうである。もう何度掴まれたことか。彼女の顔は夕焼けに飲まれてなのか、ほんのりと赤く染まっている。
「なんでもないんだな。じゃあな。」
コウダイが再びサエに背を向けて歩き出した時、不意に頭に何かが当たった。ボコ。痛い。コウダイは頭を押さえ、振り向いた。頭に当たった物は、コロコロと土手の下の草むらへと転がって行った。それは革靴だった。振り向いた先には、鞄を手放し、片足白ソックスだけの姿になって立ちすくむサエがいた。次の瞬間、彼女は膝から崩れ落ちた。コウダイは何もできずそれを眺めていたが、数秒の後にはには彼女の元へ駆け寄っていた。近づいて見てみると、彼女は泣いていた。彼が差し出した手を払いのけた。実際、彼には何となくわかっていた。彼女の言いたいことが。もう何度か、彼女の口からその言葉の一端が出るのを耳にしている。でも彼はただ、自分じゃ釣り合わないと思っただけなのだ。サエに合う男の子は僕じゃない。きっといい人が他にいっぱいいる。僕なんか・・・。そう彼は思っていたのだ。だからなにも言えないまま彼はただサエを見つめていた。
つづく