冬は早朝が趣があっていいと、清少納言は言っていた。この冬とは、10,11,12月のことだ。私もそう思う。といっても、現代で言う冬って、12,1,2月のことだと思う。朝もやにうもれた街を、マフラーを首に巻いて分厚いコートを着込み、足元は黒タイツといった格好で、自転車に乗って学校へ行くのは、寒いながらもなかなか気持ちのいいものだ。寝ぼけていた身体も頭も一気に目が覚めるよう。好きな季節は、と聞かれたら、私は全部と答えるだろう。それぞれの季節に、いいところがあり、悪いところもある。優劣なんて、好き嫌いな  んて、つけられない。それが日本の四季なのだ。私はそんな日本が好きだ。
 だが今日に限ってはそんな素敵なことも言ってはいられない。失敗した。昨日、上履きを校舎から外れた部室の中に置いたまま帰ってしまった。今そこには鍵がかかっていて入れない。部活の時間以外では、鍵も貸してもらえないため、今日私の履ける上履きはないのだ。しかも、時間がない。今日が始めてではなかった。以前にもこれと同じ失敗をしでかしたことがある。気をつけよう、気をつけようと思っていたのに、なぜか1ヶ月に1回は必ず忘れてしまうのだ。それが今日だった。
 勘弁して欲しかった。気温は0度をも下回る極寒の朝。吐く息はいつまでも白い。ローファーを脱いで、校内へ立ち入る。床が氷のように冷たい。体温がみるみる奪われていくようだ。薄手の黒タイツを履いただけの足には、保温効果はばっちりだが、足裏の感覚はもはやない。おしゃれは我慢というが、我慢できなくなりそうだ。いや、それは違うか。爪先立ちで凍えながら、廊下を進む。以前上履きを履いていなかったのは、10月終わりだったと思う。今は12月中旬。もうすぐ高2の冬休み。
 何とか階段を校舎の3階まで登ると、その右の突き当たりが私の教室、2年4組だ。凍える体でそこに入ると、まるで常夏のように暖かい。しっかり暖房がきいていた。身体中一気に温もりに包まれる。足も。気持ちよかった。幸せだった。私はそのまま席に着くと、ぎゅっと体を縮こませ、もう動かないぞ、と決心した。足が寒かったので、椅子の上にあげて、正座の姿勢に。短いスカートで、足を隠す。足の裏がちょっとだけ見えている。白っぽく、指の形がついていた。足の指をくねくね動かすと、その汚れも一緒に動く。夏から秋にかけては紺ソックスを履いていたが、やはり上履きを履いていない時は真っ白に汚れがついていた。
正座をしていると、友人が何人か話しかけてくれた。おはよう、上履き、また部室に忘れたの?なんどもこの失敗を目にしてた一人の友人は呆れたように聞いてくる。そうだよ。私は答える。
 動かないままホームルームが始まり、そのまま授業が始まった。窓の外を見てみると、とても寒そうな風景が広がる。空はどんよりとくもり、木はその葉を散らし、全体的にグレーな印象を受ける。この風景も、私は好きだった。この時期にしか、見られない。
つづく