「来ないねえ、バス。」
「そうだなあ。」
雨脚は途絶える兆しなく、バスもくる気配がねえ。おいおい、まだかよお。早く来てくれよお。俺、死んじまうよお。
「リュウジくん、だったっけ?」
「え?俺?」
「そうそう。」「ああ、そうだけど・・・。」
「じゃあ、そう呼んでいい?リュウジくん、って。」
「な、なんで・・・。」
どっきーん。
「だって、せっかく仲良くなったんだし、ね?そうしよ。リュウジくん!」
なんだあ!なんでこんなに優しいんだあ。それに、可愛いじゃないかあ!
「あ、ああ、いいよ。もちろん・・・。」
「あはは、なんでそんなに赤くなってんのリュウジくん。」
「ば、バカ、んなんじゃねえよ・・・。」
恥ずかしー!なんでこんなにデレデレしてんだよ、バカは俺だ!
「ねえ、そういえばさ、家、どこなの?」
「ん?ああ、ええっと、今真っ正面に見えてる山ん真ん中らへんの、あそこ。」
「どこ?」
「だから・・・。」
「どこどこ?」
そういいながら、彼女は俺の方に近寄ってきた(!)俺の足と彼女の足、俺のボディーと彼女のボディーがくっつく!うおおー!
「あ、や、あの・・・。」
すぐ近くに、半ズボンの体操服から出た生足が・・・。
「どしたの?そんなに照れちゃって!女の子、苦手なの?」
「お・・・え・・・いや・・・、べ、別に・・・。」
「強がんなくてもいいよ。ごめんね、くっついちゃって。」
彼女はすっと俺の横から立ち上がった。みると、靴も靴下も、ベンチに干してある。彼女は裸足。その足で、俺の前へ歩いて行く。怒った・・・?
「バス、来ないねえ。とっくについてもいい頃なのに。」
ショートの後ろ髪が、ちょっとはねている。
「そうだね・・・。」
「ねえリュウジくん。」
ぱっと振り返る。怒ってなさそう。ほっ。
「なに?」
「私ね、あそこに住んでるの。」
ベンチを立ち、彼女の横に行く。バス停の右奥、俺の家のある山とは別の峰。
「けっこう、遠いんだね。」
「うん、ここまで歩いて20分くらいかな。」
「毎日、歩くの?」
「うん、だって私、自転車のれないんだもん。」
「え?」
「私、品川にいたんだけどね、自転車より電車だったり、バスとかの方が早いでしょ?だからママもパパも、自転車は必要ないって。」
「え?じゃあ・・・。」
「うん、今日から私、リュウジくんと同じ学校に通うことになったのよ。よろしくね。」
そうか、だから全然見た記憶のなかったんだ。
「そうだったの?どーりで、見ない顔だと思った。」
「それに私、リュウジくんと同じクラスなんだ。」
「え、マジで!」
パンパカパーン。
「クスクス。嬉しそうね。リュウジくん。」
「え、あ、いや・・・。」
「もう、隠さないでいいよ。バレバレ。私もうれしいな。同じクラスの人と、さっそく仲良くなれて。・・・これから、よろしくね。リュウジくん。」
「こちらこそ。」
「ん。」
「ん?」
「ほら、握手。」
「い、いいの?」
「もちろん。なかよくなった印。はい。」
「はい・・・」
ぎゅ。あたたかい、柔らかい・・・。女の子と手を握るなんて、何年ぶりだろう・・・。記憶にない。
「もう、いつまで握ってるの?リュウジくんったら!そんなに嬉しいの?」
「わあ!あ、わりい。すんません。」
あわあわ。
「いいのよ。そんなにあわてなくっても。かわいいんだから!」
わああ・・・。
「あ、バス来たみたいだね!雨も弱まったし。さ、いこ!案内してね。リュウジくん。」
「お、おう、もちろん。」
彼女は靴と靴下を手に持って、裸足のまま(!)バスの前に立った。ドアが開く。一本足を踏み入れて、手招きする彼女。俺はカバンを手に持って、バスに向かった。雲間から、光が見えた。
終わり