「ふう、けっこう楽なもんだな。下りだし。」
「そうね・・・。」

「どうした?具合でも悪い?」
「ううん、なんでもない。」
「きつかったらすぐに言えよ。」
「うん。ありがと。」
そういいながら、彼は先へ先へどんどん行ってしまう。正直、彼女の足は非常にきつい状況だった。下りとはいえでこぼこ道、時々急になる、山道。彼女の今日のファッションでは、そんな環境に全く合っていなかった。Tシャツにカーディガン、ショートパンツに、足首にはレースのついた、模様が入った白いソックス、かかとの高い黒いサンダル。ハット。紫外線から頭は守れていたが、素足はあちこち蚊に刺され、草まけし、サンダルばきの足元は靴ずれができかけている。30分ほど歩くと、そんな体の状態から、クミコはイライラしてきた。
「もう、疲れたあ!いつまで歩けばいいの?」
「もう少しだと思うんだけどなあ。あれえ?」
つい数分前、山肌に家が数件見えたのだ。
「この辺りだったはずなんだけど・・・。」
タケルは後ろを振り返ることなく、歩き続けている。
「もう、ムリ!歩けない!」
クミコはしびれを切らして、とうとうそばの石に座り込んでしまった。現に、彼女の足は、血は出てないまでも、じんじんと悲鳴を上げていた。やはりサンダルがダメだった。
「ごめんよ、ちょっと休もう。」
タケルも隣に座る。クミコは両足のサンダルを脱ぎ、石の上であぐらをかいて足をもんでいた。白い靴下は、足先や足裏が、土で少々茶色く汚れている。
「足、痛むの?」
「ええ。こんな靴履いて来るんじゃなかった。せっかく買ったばかりだったのに。」
クミコは地面に脱ぎ捨てられた自分の靴を恨めしげに眺めた。けっこう丈夫で、紐は全く切れていない。ただ、土で少々汚れ、黒いサンダルでも、それは目立つ。
「歩ける?」
「無理。もうこの靴じゃ歩けない。」
そういうとクミコは、脱いで地面に転がっていたサンダルを拾うと、白い靴下のままの足を土の地面につけ、立ち上がった。今彼女の足裏は完全に土の餌食となっている。
「クミコさん・・・?」
「なあに?さ、私もう大丈夫だから、行きましょ。」
「いや、でも、ええ?」
「ん?あ、これ?いいのいいの。どうせ靴下一足くらい、大丈夫だから。痛いの我慢してサンダル履いとくより、よっぽどいいわ。」
「・・・・そう?じゃいくけど、怪我には気をつけなよ。木の枝とか。」
「了解!」
クミコは敬礼のふりをした。

つづく