なぜだろう、目が覚めてしまった。もう寝付けそうにない。やけに目が冴えている。僕は体を起こした。少々だるさは残るが、動けないほどではない。枕元のスマートフォンの画面を表示させる。05:09の文字が見える。5時・・・?いくらなんでも早すぎだろう。中学生の僕にとっては。いつも起きるのは7時20分だ。今日だって、スマートフォンのアラームはその時間にセットしておいた。
もう眠れそうになかったので、アラームを取消し、床に足を付けた。今は7月の初め。エアコンのついていない、カーテンの閉め切られた部屋はむしむしする。でも日中ほどではない。僕はすべての部屋のカーテンを開け放った。まだそう強くもない日光が部屋の中を明るくする。ベッドわきの小さな窓を開け、そこから首を出す。吸ったことのない朝のさわやかな空気が鼻孔を刺激する。気持ちいい。まだ遠くの空は暗く、近くの明るい空とのコントラストが美しい。僕はスマートフォンを操作して、その風景を写真に収めた。もう2度と見られない風景になるかもしれない。毎日、気候は変わるものだ。
部屋にいても何もすることはない。勉強も、テストはこの前終わったばかりだし、今はゆっくりできる時期。僕は散歩にでも出てみようか、と考えた。思えば家の周りを散歩するなんて、今までないことだ。学校に行くには通学路を通るが、それとは違う、まだいったことのない道を、歩いてみよう。
僕はすぐさま服をパジャマからジャージに着替え、家族を起こさないように慎重に階段を下りて、スニーカーを履き、これまた慎重に鍵を開け、玄関ドアを開いた。澄んだ空気が体を包む。部屋には一応書置きを残してある。散歩に出てきます、すぐに戻ります―。僕は門の外に出ると、誰もいない住宅街の綺麗に舗装された道路の真ん中を、悠々と歩きだした。
つづく