「じゃあね。このことは、内緒よ!」
しばらくして、僕に犬の頭を撫でさせてくれると、彼女は僕にそういって、去って行った。僕の家の方向だったが、橋から左に曲がったから、違うか。靴下のまま、どれだけ歩いているんだろう。すごく汚れるんじゃないだろうか・・・。僕はしばらくその場を動けなかった。犬の種類について話してくれたのに全然覚えていない。僕の目は絶えず動く彼女の靴下に包まれた足の指に向けられていた。少し薄くなった白い生地から、彼女の素足の指が透けて見えた。
ふと我に返ったのは暑かったからか、トリが肩にとまったからなのか。とにかく僕は驚いてしりもちをついた。僕には種類のわからないトリが、勢いよく飛んで行った。どれだけそこに立っていたんだろう。スマートフォンの時計は7時10分を指していた。いけない!早く帰らないと。僕は急いで端から続く道を走り、20分ののちには自宅の玄関でへばっていた。僕はその後両親にしめられて急いでお風呂に入り汗を流すと、制服に着替えて、いつもの道を通って学校に向かった。あれから僕はあんなに早く起きたことはなかった。未だに僕はあれが本当のことだったのか、夢か幻想だったのか、判断できない。しかし僕は最近よく目にすることがある。あの時僕が頭を撫でた犬が、僕の下校時に、おばさんと一緒に散歩している光景を―。
おわり