彼はトイレを人目に十分注意して出、意気揚々と教室に入り、自分の席に着いた。まだ眠っているであろう彼女の左斜め後ろの席。ばっちり、至近距離で彼女の足の動きが見える。彼はドキドキしていた。ちらほらと登校してくる人が出てくると、彼女は起き上がり、大きく伸びをした。足元はしっかり床についている。足で床を触る。そして体を曲げて、机の下を見る。いぶかしげな顔をして辺りを見回す彼女。足は再び棒に置かれている。辺りをきょろきょろ見て、机の下を見て…、それを何度か繰り返すと、彼女は席を立ち、靴下のまま教室を出ていった。彼も少し時間を置いて、それとなく教室を出ると、彼女の行き先を見極めた。階段を降りていく彼女。恐らく靴箱に向かったのだろう。寝ぼけて上履きを履かずに来たのだと、錯覚しているようだ。いや、それとも上履きが無くなったことを先生に伝えに行ったのか。どうなのだろう…。彼は気がかりながらも教室に戻った。
友人も登校し、彼の前の席に着く。隣の異性も着席しており、彼を見ると小さな声であいさつした。彼もそれに返す。2人の一日の会話はこれで半分を占めている。
5分後、右斜め前の席に彼女は戻ってきた。おそるおそる視界に入れた足元は…、変化なし。靴下のままだった。彼はなにか声が出そうなほど嬉しがった。友人から何かあったのかと、聞かれてしまうほどだった。朝の会が始まっても、ついに授業が始まっても、彼女は靴下のままだった。先生にも言わず、友達にも助けを求めていなかった。ただ、昼休みまで、彼女は一度も席を立つことがなかった。午後は体育がある。彼女がどうするのか、彼は楽しみだった。
つづく